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飲んだくれ無職のオッサン、公園で美少女に拾われ、迷宮に帰る  作者: たけすぃ


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過去は追いかけるには遠すぎて、未来は追いかけるには速すぎる4

 最初は冗談か、もしくは質の悪いデマだと思った。

 今まで何度かあったのだ。たまさか彼が得意としていた狂気の作戦、プレイヤー四人を別々に動かしてのマップ埋め(クロール)が上手く刺さった試合があると、実は彼がこっそり下位チームに、とか四部リーグの名も知られていない弱小チームで活動してる、等の噂が。


 それが間違いだと分かるたびに三国はがっかりした。

 そんな噂が立つのは、彼が何年経ってもファンから覚えられているという証左ではあったが。リプレイを見れば、とてもじゃないが砂崎の指揮と見間違えるような物ではなかった。


 なので三国は、どうせこれもデマだろう。

 そう思ってアルデバランアルファの練習試合のリプレイを見た。


 砂崎徹が指揮を執っているという噂も気になったが、テトラコードは昇格戦リーグであたる事となるチームで、こんな直前で練習試合をしているというのも気になっていたからだ。

 他のチームに手の内を晒してまで何をしたいのか? そう思いながら公式からのリプレイ動画を再生させた三国は、開始五分でテトラコードのチームプロフィールを確認した。


 監督と戦術担当の欄にある砂崎徹の文字。

 いや待て、ただの同姓同名なだけかもしれない。珍しい苗字だが、うちの車電阪ほどじゃない。そして必ずしも本名とも限らない。芸名で活動しているプレイヤーは多い。


 三国はさらに動画を五分再生し、どうにかして戦術担当が使うブースの映像が見れないかと思い悩んだ。

 当たり前だが戦術担当のブースを映すと色々とまずいので映像はない。


 戦術担当の顔を確認したければ、試合開始前のチーム同士の挨拶の場面ぐらいしかないが、その場にはテトラコードの戦術担当の姿はなかった。

 三国は自分の感覚が信じられなくて、普段は見ない実況配信動画のアーカイブを探した。


 三部リーグの練習試合なので、それをわざわざ実況しているのは相当なマニアだけなので、数は少なかったがすぐに見つかった。

 シークバーを試合開始後の四、五分あたりに飛ばす。三国でも名前を知っているダンジョンアタックマニアの配信者の戸惑った声が流れてくる。


「えー、いやこれ。うーん? まさか本物?」


 配信者が自分と同じ事を口にしていた事に三国は興奮する。そんなまさかという思いが現実味を増していく。

 配信者はなかなか砂崎徹の名前を出さない。確信が持てないのだろう、今の自分のように。そのうち視聴者の中から自分と同じようにチームデータを見た人間が出てくると、あっという間にコメント数が増えていく。


 三国は配信者の漏らすコメントに、そうだよな、同時に複数のプレイヤーが見えているかのようなタイミングでの攻撃指示とか、まさに砂崎戦術担当っぽいよな、と相槌を返しながら動画を最後まで見た。

 そして確信した。砂崎徹だと。


 試合後の挨拶に出てくるかと思ったが、砂崎は姿を現さなかった。しかし三国は確信した。間違いない、同姓同名の他人などではない。間違いなく本人だと。

 配信動画の再生数が四百万を超えているが、これからもっと増えるだろう。


「伝説が帰ってきた」


 配信者がぽつりと漏らした一言に三国は何度も頷き、そして愕然がくぜんとした。気が付いたからだ。

 戦える、自分はあの砂崎徹と、あと数日で戦えるのだ。自分の両手が震えたのを三国はよく覚えている。


 そして三国は負けた。ビックリするぐらいにあっさりと負けた。

 三国が指揮を執るマナトーカーは、三部リーグのチームとしては卑怯と言われても反論しずらいチームだった。


 車電阪京以外のプレイヤーは全て二部リーグからの引き抜きで揃えているし、武器や防具もマナテック社のハイエンドモデルを三部リーグのレギュレーションに合わせて再設計したという、ふざけた物を使っている。

 三部リーグで潜れるダンジョン深度では到底賄いきれない資金が投じられたチームなのだ。それがあっさりと負けた。


 そして対戦相手はあのテトラコードだった。

プレイヤーが全て未成年というチームで、確かに強いチームだったが。マナトーカーからすれば格下のチームだった。

 そのルックス、アタッカー四枚という構成に、高い実力。人気はあったが、それでも三部リーグからの昇格は無理と思われていたテトラコードは、たった一戦でその評価を覆した。


 三国とて、実力はあるが色物チーム、そう思って見ていたのだ。

だがそこに彼が加われば話は別だ。試合開始前の挨拶、そこに姿を現した砂崎徹を見た人間はさぞかし驚いただろう。

 あの噂は本当だったと。


 まださほど騒ぎになっていない初戦でテトラコードと対戦できて良かったと三国は思う。

 その後の試合では、砂崎が相変わらずの取材嫌いだった為に、メディアの矛先が対戦相手に向かったのだ。三部リーグのチームでメディアの取材を受ける事なんて殆どないので、他のチームは大変だったろうと三国は思う。


 おかげで今年のクリスマスシリーズは異常な事になっている。

 毎年この時期にはダンジョンアタックでは大きなイベントが集中する。


 一部リーグ上位四チームによるチャンピョンシップ、一部リーグ下位5チームによる降格チーム決定リーグ。

 残酷な話だが、ファンは負けられない戦いこそを好む。


 二部リーグや三部リーグの昇格リーグは、通常そこまで注目される事はない。

 しかし、今年は違った。砂崎徹のせいで、一部リーグチャンピョンシップに次いで人気のある、一部降格チーム決定リーグよりも、三部リーグの昇格戦の方が視聴者数を稼いでいるのだ。


 稀にみる珍事だった。

 連日繰り返される報道。時期が時期だけにどうしても悲劇と一緒に語られる砂崎徹。


 あの悲劇の伝説が帰ってきた。美談だろう。語りたくなるだろう。

 四連戦全勝という結果が伴うにつれ、彼の復活を、伝説の帰還を祝う声は大きくなった。


 それを見て三国は複雑な思いになった。

 彼はいったい今、どんな気持ちでダンジョンに再び帰ってきたのだろうか? と。


 その答えを今日、三国は得た。

 砂崎徹という伝説的な戦術担当が、面倒くさそうに、何を当たり前の事を訊くのかと呆れながら答えたインタビューの答えを思い出す。


「プレイヤーを信じない戦術担当なんているわけないでしょ」


 その言葉通り、プレイヤーを信じ切っている彼がいた。

 彼は変わっていない。いや変わったのかもしれないが、少なくともダンジョンに彼は挑む事を忘れていない。


「勝ちたい」


 三国は思わずそう呟いた。


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