過去は追いかけるには遠すぎて、未来は追いかけるには速すぎる2
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ダンジョンアタック競技の運営側は、結構な額を稼いでいるせいか権利関係に関してはかなりオープンだったりする。
本来なら高額で売り買いされるだろう放映権もフリーだ。
おかげで配信に関しては大手から個人勢まで選び放題だが、それでも最も視聴者が集まるのは公式配信だ。
それにしてもこの数字はおかしいだろう。
俺は、まだ試合が始まっていないにも関わらず、視聴者数百二十万人を超えた公式の配信ページを閉じた。きっとスマホか配信サイトのバグだろう。
三部リーグの昇格決定戦なんて三十万人で大盛況の世界だぞ? 何なの? お前らそんなに美少女が戦うところが見たいの?
見た目だけじゃないって事を見せてやるからな。驚く準備してろよ?
「余裕ね?」
ダンジョン入り口前で、ポケらーとスマホを見ていた俺を、御堂が口をムニョムニョさせながら責めてくる。
オッサンでもこれは流石に分かる。もっと真面目にやれ、という顔だ。
「決定戦はダンジョンが更新されたタイミングで行われるからな。中に入るまではぶっちゃけやる事ないんだよな」
御堂がやっぱり口をムニョムニョさせながら空中を睨む。
「作戦のおさらいとか……いえ、貴方に言う事じゃなかったわね。まあ相手チームが普通なのだという事を私は忘れないように気を付けるわ」
練習試合ではないので、俺も試合開始前の挨拶に参加しなければならず、ダンジョン前で御堂たちとその時を待っているのだが。相手チームも当然その場にいる。
「なんであんなに緊張してるんだ?」
「それ無自覚なんですか? 八目さん」
四ツ橋が横から顔を突っ込んできて、そして俺の事なのになぜか御堂に質問する。
相手の無知を揶揄するのに他人に質問するとか、中々に高度なテクニックを使ってくるなこの女子高生。
「担当はリプレイも公式から貰える奴しか見てないから、マジで知らねぇらしいぜ」
そしてなぜか堺が答える。
「なるほど。目が八つもあるのに節穴さんですね」
「監督ウナギウナギ」
四ツ橋に谷町まで乗っかってきて意味が分からなくなってくる。
最近では開始前にダンジョン入り口前でワチャワチャするのが恒例になっている。
最初はぎこちなさもあったが、すぐに俺が無害なオッサンだと分かったのか遠慮は速攻で消えた。蜉蝣なみの儚さだった。
御堂たちの顔に制御された緊張と高揚感が浮かんでいる。そしてそれを支えているのは四戦不敗という結果がもたらす自信だ。
監督兼戦術担当として、これ以上は求められないだろう状態だ。
今更言うべき事もないのだけど、そう分かっていてもつい心配になって、装備の最終確認はちゃんとやったか? そう言おうとした俺は近づく人の気配に言葉を飲み込み。よそ行き用の表情を作る。
このタイミングで声をかけてくるのは、大概が相手チームの責任者だからだ。
俺は対戦相手であるマナトーカーの監督を笑顔で迎えようと顔を上げる。
年齢が近そうでかつ、同じような苦労をしているんだろうなと、勝手にシンパシーを感じているので愛想よくしたかった。できれば飲みにとか誘いたい、きっと苦労話と愚痴で盛り上がれるだろう。
「一度勝ったからといって随分と余裕ね!」
俺は笑顔のまま固まった。予想外の人物だった。
顔を上げた俺を人差し指が迎え撃つ。
金髪の縦ロールに、頭からつま先までマナテック社のハイエンドモデル――をわざわざ三部リーグのレギュレーションに合わせて作り直した、ある意味すごい豪華なオートクチュール。
美少女ではあるが目が鋭い。オッサン的感覚だとツンデレ少女とかいう古の言葉が頭に浮かぶ。
えっと……名前なんだったけかな? 事前に調べたマナトーカーの情報を思い出す。
「何やってるんですか! 京!」
嗚呼、思い出した。車電阪京選手だ。
俺はマナトーカーの監督が慌ててこちらに駆け寄ってくるのを見て思い出す。
確かマナテック社の創業者の娘で、マナトーカーもこの京選手の為に買収されたチームだとかなんとか。
それで確か……。
「ですが周囲の評価を覆すその手腕! 流石わたくしのライバルですわ! 御堂さん!」
そう、自称御堂のライバルだ。
御堂と同じリーグで戦いたいからと、わざわざ日本ダンジョン連盟南から西に移籍してきたらしい。
さぞ因縁がある相手なのだろうと、昇格リーグで当たった時にも絡まれたので御堂に聞いたら、まったくそんな事はなく。一方的にライバル扱いされているらしい。
顔が良いのにダンジョンアタックに参加する奴はやっぱり変な奴が多いのだろう。
うちのチームだと御堂以外が全員ちょっと変なので、この説にはかなり自信がある。絶対に口に出したりしないが。
ちなみにマナテック社はダンジョンアタックの装備品を開発販売するメーカーで、マナトーカー以外にもちゃんと一部リーグにメインスポンサーをつとめるチームがある。
なのでマナトーカーは本当にこの京選手の一方的なライバル意識の為だけに作られたチームとなる。
テトラコードの前監督にしろマナテック社にしろ、ダンジョンに関わる人間は美少女に対してちょっと弱すぎる気がする。業界全体で事案か、駄目だぞ事案。
「すいません、うちの選手が」
そう言ってペコペコと頭を下げるのは、自然な茶髪にサラサラの髪に眼鏡。線の細い顔立ちに優し気な目と、絵に書いたようなイケメンだ。
「いえ大丈夫ですよ、三国監督」
イケメンだが、腰が低いし、明らかに俺と同種の苦労を抱えているので優しくなれる。
「すいません砂崎監督。昨日からあんな感じでして、よほど決定戦で御堂選手と戦えるのが嬉しかったようでして」
もしかして本当にツンデレ属性なのか?
「昨日なんて、どうにかして赤髪に染めるんだって、未試験の試作品の髪染めをしようとするので止めるのが大変でしたよ」
おっと急にキャラが変わったぞ?
ちなみにダンジョンの影響で変わった髪の色は髪染めで変える事が出来ない。そもそもブリーチしても色が抜けない。
「そこ! 何を余計な事を! 違いますからね! ちょっとわたくしも赤髪が似合うんじゃないかって思っただけですからね!」
京選手が抗議の声を上げるが、チラチラと見える重たい感情がオッサンちょっと怖い。
「まあ良いですわ! 前回は初戦という事で緊張しておりましたの! 今度こそわたくしの真の実力を御堂さんにお見せしますわ!」
そう言って鞘に入ったままの直剣をこちらに突き付けてくる。簡単に言うと失礼な態度なのだが、本人のキャラクターのせいか不快感より好感が勝る。
これから殺し合いをするという前に、話しかけてくる事自体が普通にマナー違反なので剣を突き付けるぐらいは、気にする事ですらないのかもしれない。
剣を突き付けられた御堂が俺に許可を求めるような視線を送ってきたので、自由にしろって意味で頷き返す。ここで御堂がキレて相手の失礼を糾弾しても、百パー許されるので気楽なもんである。
「それは楽しみだわ。私達が偶然や幸運でこの場にいるわけじゃないって事を貴方に見せてあげるわ」
この返答は京選手的に大満足な物だったらしく。分かりやすく顔をキラキラさせる。
「あ、それと良ければ私の事は椿って呼んで」




