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飲んだくれ無職のオッサン、公園で美少女に拾われ、迷宮に帰る  作者: たけすぃ


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サンドシザーの帰還9

 作り終えたポテトサラダが入ったボールにラップを被せる。


「俺は……ああ、いや。俺の事はどこまで知ってる?」


 返って来ない答えを待ちつつ。

 ガラス製の急須……というよりティーポットだろうか? に、緑茶を飲むのが俺だけだったので、自分で持ち込んだ茶葉を入れお湯を入れる。緑茶を入れるのにも色んな作法があるらしいが、知らんので電気ポットから直接だ。


 湯呑を二つ持って、ダイニングテーブルに着く。ついこないだのタコパが既に懐かしい。

 そう思えるぐらいには、テトラコードといると色々起こる。


「火を弱火にして、ちょっとお茶でも飲んで話そう」


 どうせスパセン組は後一時間ぐらいしないと戻ってこない。

 御堂と俺の分の茶を湯呑に入れる。ビーフシチューの香りの中に立つ、玉露の匂いはなんだか場違いなジョークのようで、女子高生チームに居る自分のようで面白い。


 御堂が座るだろう席の前に湯呑を置いて顔を上げると、変な顔をした彼女の顔が目に入る。


「なんでそんな怒られる、みたいな顔なんだよ」


 だって。御堂の拗ねたような声。


「どこまで知ってる、なんて訊くから」


 そんなんで、そんな顔になるの? いや確か昨今では、メッセンジャーアプリで句読点とかの付け方とかで感情の機微を感じるのが若者らしい。文豪か?

 俺なんて語尾に(笑)がないと、相手が怒ってるんじゃないかと思うタイプだぞ? 〝。〟とか〝、〟の使い方で感情とか分かんないよ? でも顔文字はキモいよね? みんなもそう思わない?


 いや駄目だ、仮想の友人に共感を求めてる場合じゃない。


「過去を隠して生きていけないし、チームのリーダーである御堂が俺を調べるのは当然の事だろ。まあ、普通は調べた後に戦術担当に選ぶべきだけどな」


 椅子に座りながら、別に怒ってるわけじゃない事を伝える。伝わるかな? 伝わるよね? 本当に若者が分からない。

 俺に合わせて座る御堂に、どうにかこの俺の気持ちを正しく伝えたいと思う。


 戦術担当は選手に対して、攻略組に対して正直であらねばならない。これは俺がほぼ絶対的に信じてる事の一つだ。

 俺はそれで勝った。勝ってきた。


「俺が怒っている、と感じたと言うのなら。多分だけさっき俺が思った事が間違って伝わったんだと思う」


 それは何? と視線だけで問うてくる御堂。非言語(ノンバーバル)な仕草だけで色濃く感情が見えるのは、かつて失った人のようで、懐かしく暖かい気持ちになる。

 人は過去の残滓によって傷つくだけではないのだな。


「俺は〝舐めんな〟って思ったんだよ」


「やっぱり怒ってるじゃない」


 首を横にふる。


「俺は確かに、俺の指揮のミスで、恋人をダンジョンで亡くした」


 口を開きかける御堂を片手で制止する。その顔はもう何度も見たのだ。俺のせいじゃないと言ってくれる優しい人達。それは確かに事実の一端を捉えている。

 でも本当にそうか? そう自分に問い続ける自分を俺は否定できない。


 ダンジョンは、まるでゲームの世界を現実に切り取って持ってきたかのように、出鱈目で都合が良い場所だ。人はその中では魔法が使えるし、モンスターを倒せばまるでレベルが上がる如く身体能力が強化される。

 身体を真っ二つにされても死なないし、ダンジョンの外に排出されれば壊れた装備品ですら元通り、何も無かった事にされる。


 そんな出鱈目な場所を、人類は何一つ理解もしていないのに利用しているのだ。

 選手の生死を預かる戦術担当として、俺はそういう所で、自分の指揮のもとで攻略組を戦わせているのだと、そういう覚悟が足りなかったのだ。


 予想外は俺の中では言い訳にならなかった。


「俺は――」


 一瞬言葉を探す。一番最初に出かけた言葉が小っ恥ずかしかったからだ。


「まあダンジョンで死んだんだ、殺されたって言っても良い」


 ダンジョンに入らない戦術担当の俺が、攻略組の御堂にこれを言う恥ずかしさ。でも他に良い言葉が思い浮かばない。


「大負けだ、大敗北だ。自分の大事な人をダンジョンに奪われた」


 手持ち無沙汰な手を軽く合わせる。四ツ橋ならここで芝居っぽく両手を打ち鳴らしたりするんだろうか? オッサンの俺にそんな仕草は似合わないので、中途半端な祈りの所作のように手を合わせて離す。

 アイツには今も墓がない。公式には〝行方不明〟という事になっているせいだ。


 そのせいで家族が墓をたてる踏ん切りも、葬儀を行う踏ん切りも付かないのだそうだ、もう五年も前に見たニュース記事での話なので、今もそうなのかは知らない。


「ダンジョンアタック競技において、勝敗の部分に関して言えば責任を負うべきは戦術担当だ」


 落としていた視線を元に戻す。御堂の目、赤い目、ダンジョンで戦ってきた者の目。俺に火をつけた、灰を燃やす火の宿った目。


「御堂。俺は負けたんだ」


 繰り返す言葉に、自分が秘めていた、目を背けようとしていた敗北感をひしひしと感じる。


「そして俺は、それが悔しいんだ」


 数秒前まで鉄板だった戦術が、一瞬で役に立たなくなるような目まぐるしく変わるダンジョンの中で知力を絞り、選手に勝ち筋を示す。

 俺はかつて“逃げろ”のたった一言が言えずに負けた。


 その敗北感は、彼女に対して背負える責任があったら解消されただろうか?

 あるはずの無いものを夢想して、そんなわけがないと思う。その結論はとうに出ている。


 どんな物があっても、どんな物を与えられても、この敗北感を拭う事は不可能だ。


「だから御堂。俺はお前に感謝しているんだ」


 俺の感謝の言葉に、首を傾げる御堂の姿に思わず笑みが漏れる。年相応の鈍感さを見た気がした。


「戦術担当に大事なことって何か知ってるか?」


「いいえ、知らないわ」


 いい機会だから覚えておいてくれ。

 俺は湯呑で温めた右手の指を一本ずつ上げていく。


「一つ目、攻略組を信じる事。二つ目、攻略組に嘘をつかない事。最後に」


 おっさんらしく、ふてぶてしく、《《舐めんな》》と笑う。


「三つ目、攻略組以上に負けず嫌いな事だ」


 御堂がお茶を啜ってから、ほぉっと息を吐いて笑う。


「それじゃあ次は負けられないわね」


 俺を見つめる赤い目から前ほどの熱は感じない。きっと俺にはもう火がついているから。


「おかえりなさい。戦術担当」

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