サンドシザーの帰還7
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「嘘でしょ……勝ってしまいましたわ」
モニターの中でそう呟いたのは、四ツ橋で。日時は十二月二十一日の日曜日。
場所はいつもの梅田ダンジョン。ダンジョンの深度は練習試合の相手、アルデバランアルファのリクエストで1だ。
戦術担当ブースで、作戦が上手くいった事に安堵の溜息を吐いていると、背後で呆れきったと言わんばかりの溜息を吐かれた。
「嘘だろなんでこれで勝てるんだ……意味がわからねぇ」
そう言ったのは前回対戦した時に、アルデバランで前衛アタッカーをしていた男だ。
ちなみに前回のアルデバランチーム全員と、監督であるリチャードまでテトラコードのブースにいる。
これが今回、彼らが練習試合を受けてくれる為の条件だった。
俺の戦術を見たい、見せたい、だそうだ。
アルデバランアルファの順位は七位。練習試合の相手としては好都合だったし、テトラコードのメンバーに俺を〝試してもらう〟のにも都合が良かったので、俺は条件を飲んだ。
別に見られて困るような事はしてないしね。
ちなみにアメリカトップチームの育成の育成であるアルデバランアルファが日本の三部リーグ七位であるのは、彼らが育成チームである事が原因だ。
強い競技者は速攻で上位チームに送られる。そしてチーム自体が育成を主眼に置いているので、競技者が戦術担当含めてコロコロ変わるので、勝率が安定しないからだ。
「監督すいません、参考にならないです。アレを私に求められても不可能です」
アメリカでは戦術担当も元プレイヤーが多い。今もリチャードに文句を言っている女性の髪は奇抜な透明感のある紫だ。
俺はテトラコードに、後は時間一杯魔石を集めてくれと指示を出し、視線を感じたので体ごとそちらに向ける。
視線どころか、戦術担当の女性に指までさされていた。
「彼はその、クレイジーです。意味が分かりません。アタッカー四枚をバラバラに動かしてマップを埋めるするとか、狂気の産物です」
酷い言われようである。
「しかも四人への指示を平然と同時にこなしています。それも片方は戦闘の指示、片方はマップ埋めの道順を指示。挙げ句、最後は四人バラバラのままで個々に事細やかに攻撃タイミング等の戦闘支持まで出してました」
欧米人っぽい目玉をぐるりと回す大げさなジェスチャー。
「彼は〝イカれ〟です」
この野郎、わざわざ〝イカれ〟の部分だけ日本語で言いやがったぞ。
「彼は英語を理解できるという事を忘れていないかね?」
リチャードが流石に監督として諌めようとしてくれる。
「はい、忘れておりません」
そうか、なら仕方ないね、とリチャードが諦める。
「すまないね、ミスター砂崎。彼女は前回の練習試合で君に手玉に取られた事を恨んでいるんだ。諦めてくれたまえ」
なんで俺が諦めないと駄目なのか? 何なんだお前のその目は? なんでそんな、お前は強者の余裕持ってるよね? みたいな同族を見るような目で見てくるのか?
俺はオッサンだぞ? お前みたいな筋骨粒々のムチっとしたスーツが似合うナイスミドルじゃないんだぞ? 無茶言うな。
俺はリチャードの胸筋が怖くて、愛想笑いしながら仕方ないなぁと頷く。
物理的恐怖はだいたいの物を凌駕する。オッサンの安いプライドなんて最たる物だ。
出そうになる溜息を我慢しながら、考える。
しかしそんなに難しい事だろうか?
今回、俺がやったのは酷く単純だ。自分のチームメンバー一人一人からの信頼を得たい。だったら一人ずつに自分の実力を示せば良いじゃないか、というわけだ。
なので試合開始そうそう、全員をバラバラに動かした。俺がやったのは本当にそれだけだ。テトラコードのメンバーが、ちゃんと支持を出せば全員がソロでも十分にやれると分かっていたのだから、そんなに難しい話でもない。
それを〝イカれ〟呼ばわりは不本意だ。
俺が内心でプンスカしながらモニターに向き直ると同時に、四ツ橋から呼びかけられた。
「監督」
四ツ橋の声が妙に強張ってる。
「貴方、イカれてるわ」
選手からのあまりにも酷い一言に固まっていると、ゴツい手で肩を叩かれた。
なぜかリチャードが優しい目で俺を見ていた。




