サンドシザーの帰還6
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関西人の家にはたこ焼き器がある、これは誇張を含んだ真実だ。
明らかに未成年が使っているマンションの一室にまで、たこ焼き器は用意されていない、普通は。
俺は御堂の命令により突然始まったたこ焼きパーティー、略してタコパの準備をしながら、尋ねる機会を失っていた疑問を訊くことにした。
「そう言えばこの家は誰の家なんだ?」
ちなみに御堂の発案により、たこ焼きに入れる具の買い出しを近くのスーパーで済ませた後だ。タコ以外の具を一人一つ選べという事らしい。
「牡丹の家から借りてる。事業用に買ったらしいんだけど、使い道が無くなったとかで空いてたから」
御堂が俺の作るたこ焼きの具、白ネギのアヒージョを覗き込みながら答える。
ちなみにこのマンション、かなりの好立地なので、使い道が無いのなら賃貸にするか、売ればそれなりの金になる。四ツ橋さん家がますます怖くなる。
「そうか。あと今更なんだけど御堂達は何歳なんだ? ちなみに十代っぽいのは流石に分かるぞ?」
「随分と今更な質問ね」
白ネギの沸具合を監視ながら、御堂の呆れ声を聞く。いやだって訊くタイミングが無かったのだから仕方ないだろって思う。女性に年齢を訊くのって想像以上に難しいからな?
しかも相手は公園で酔っ払ってた無職のオッサンを拉致るような奴だ、もう少し傍から見た時の自分のヤバさに自覚を持って欲しい。
「全員十七歳よ。若すぎて不安になってきた?」
どこかこちらを試すような調子があるのは、彼女達をこれまで年齢で舐めて痛い目を見てきた連中がいるという事の証左だろう。全く持ってアホである。
「ダンジョン競技で年齢と性別でどうこう言う奴は、馬鹿かアホか愚か者かノータリンのどれかだな」
ダンジョンから得られる能力は、性別や年齢の差を簡単に埋める。あそこで物を言うのは経験と殺意と根性だ。
「全部同じじゃない?」
たこ焼きの生地を撹拌機で混ぜながら首を傾げる御堂。変な所で彼女の真面目さが垣間見える。
というより、この唐突なタコパ自体が彼女の真面目さの現れだ。
「ありがとうな」
「……なにが?」
俺の礼の言葉に、一瞬挟まった御堂の沈黙。それで言いたい事が通じた事が分かった。
「このタコパ。一緒に飯を作る、一緒に飯を食べるってのは、まあベタだけど信頼関係を培うには定番だからな」
「私がお腹空いてただけだし」
えぇ……。ここで否定入るの? おじさんマジで女子高生わからない。
「まあそういう事に」
「そういう事なの!」
力いっぱい否定されてつい、本当の事かもしれない、とか思っている間に他の三人が帰って来た。三人とも、たこ焼きの具を何にするか、決められなかったのでスーパーに置いてきたのだ。
「メッチャいい匂いするぞ!」
堺がアヒージョの匂いを嗅いで元気よく叫ぶ。堺が飛んでも叫んでも、近所からクレームがこないので、このマンションは本当に高そうだ。
「あらあら……え? 白ネギのアヒージョ? オッサンのくせにシャレオツな具を考えますね」
四ツ橋がオッサンみたいな事を言いながらダイニングテーブルに買ってきた物を並べる。
「おい」
並んだ物を見て思わず声が出る。
「エビは分かる。だがチョコボールとその青唐辛子はなんだ?」
四ツ橋と堺が、何か悪いのか? みたいな顔をする。
「オレ辛いの好きだからな!」
「アヒージョごときでシャレオツ番長の座は譲りませんわ! たこ焼きの具にお菓子を使うという高等女子テクニックをお見せいたしますわ」
まさかの谷町がエビだったか。たこ焼き器に入れるサイズに切るために、谷町からエビを受け取りながら溜息を吐く。
「たこ焼きに青唐辛子は、辛いもの好きでも割と罰ゲームだし、普通のたこ焼きにチョコボールはナッツの食感が違和感バリバリだぞ?」
ちなみにチョコとか、チョコボールを使ったたこ焼きを作りたい場合は、生地をホットケーキミックスなんかで作ると、お菓子みたいなのが出来る。
堺のように辛い物が好きというのなら、辛いスナック菓子を具にすると結構良い感じのたこ焼きになったりする。チーズとも相性が良い。
「まるで経験してきたかのような物言いですね」
四ツ橋の弱冠うろたえたかのような声。ちょっと演技が薄くなってるぞ?
「選んだのはお前らだ。責任は持てよ」
ダンジョンアタックの最中であるのなら、俺が間違いを正してやるし、勝てる方法をどこからでも提示してやれる自信はあるが。
流石に見てない所でのミスチョイスは、自分で責任とって貰おう。
それで良いよな? と御堂に確認をとると、当然ですと言いたげな顔をして頷き返してきた。
「ルール追加だ、自分が選んだ具のたこ焼きを食い終わるまでノーマルたこ焼きは無しだ」
「そんな!」
堺が今更自分の買ってきた青唐辛子を怖怖とした目で見ながら抗議する。
「私はエビも食べて見たいんだけど?」
「自分の選んだ具と交換するのはオッケーだ」
御堂のリクエストに更にルールを追加。ちなみに御堂が選んだ具は、ブロッコリー。それを具にするように塩コショウ、ブラックペッパー多めで炒めてある。美味そう。
「横暴です!」
「監督権限だよ」
抗議する四ツ橋を無視して、具材を良い感じに取りやすく皿に盛っていく。
ムキーと抗議する四ツ橋と堺に用意を手伝わせる。うわ、なんで女子高生チームの部屋に、たこ焼きの生地を流す為のあのジョウロみたいな器具があるんだよ。ガチじゃねーか。
御堂が驚く俺を見てドヤ顔してるので、彼女が持ち込んだ物なんだろうか? 恐るべし女子高生。
ガスコンロを人数分並べて、たこ焼きプレートを置いていく。
誤解なきように言っておくが、関西人のタコパと言えど、たこ焼き器を一人一個ずつ配備はガチ オブ ガチだ。
開始早々、顔面を暗くしている二人を除いて、たこ焼きを焼いていく。
関西人の基本スキルとして、たこ焼きをクルクル回しながら焼き上げ、出来上がった自分の奴を早速食ってみる。
オリーブオイルで煮たら大概何でも美味い、大きめに切ったゴロっとした白ネギが熱い上に熱いが重なって凶器と化してるが、俺のは成功だな。
「出汁が効いた生地とチョコレートが絶妙に合いませんわ」
「くあ! くあ! くああ!」
ションボリ四ツ橋さんと、怪鳥と化した堺さん可哀想。
俺は御堂と四ツ橋にたこ焼きを交換して貰いつつ、ズルをしようとする二人を牽制する。
こうやって見ておけば……。
見ておけば個々の……。
信頼を……。
「うわぁマジかぁ」
思わず呟いた俺に御堂が顔を伏せる。
「ごめんなさい、私のブロッコリー駄目だったみたいね」
「いや違う、御堂のたこ焼きは美味しい」
嘘なしの本音なので、即答できた。
じゃあお前の呟きは何なのか? テトラコードの面々から視線だけで問われる。
「いや、食い物で問題解決のアイデアが浮かぶとか、そんなグルメ漫画みたいな事って本当にあるんだなぁって」
言ってから気がついた。世のグルメ漫画は大体が大人向けの漫画であり。女子高生が好んで読む物ではないと。
案の定、四人揃ってキョトンとされた事に深く傷つきながら、俺は「忘れてくれ」と絞り出すような声で返事した。
昔はあったんだよ、子供向けのグルメ漫画が。




