サンドシザーの帰還5
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ダンジョンアタック競技は、人気スポーツだ。
人類の正気を疑いたくなるが、二十一世紀の人類は殺し合いをエンタメにしている。そして人気があるという事は、それすなわち現代では共有されるという事だ。
俺の旧友が動画配信で俺を発見したように、運営側も共有されやすいように色々と工夫している。
俺はJDA西、日本ダンジョン連盟西日本の公式配信動画を見ていた。恐ろしい事に視聴に年齢制限はかかっていない。ダンジョンでは本当に死ぬわけではないので、大丈夫、という暴論らしい。
ゲームのZ指定が虚しく思える。
この動画配信は日本だと全試合を配信している。リーグは関係ない。
四部リーグから一部リーグまで全てだ。しかも練習試合まで含めて。
二次利用も自由なので、ダンジョンアタック競技の実況で人気を博している動画配信者なんかも珍しくない。中には元プロの競技者のチャンネルなんかもあるので、なかなか濃い解説が聞けたりする。
ダンジョンアタック競技に関わる人間としては、実に良いことだとは思うのだ。
思うのだが、この時期になると少し困った事が起こる。
昇格リーグが始まる前に練習試合を組みづらくなる、という事だ。
当たり前の話だが、誰が好き好んでチームの運命が決まる昇格リーグの前に、自分の手の内を晒したいと考えるのか? という事だ。
本来であれば、俺達テトラコードも本番まで隠したい側なのだが。直前で前監督はクビになり、それを引き継いだ俺はまだ一度しか彼女たちを指揮していない。
本番まで隠しておきたいとか、言う以前の問題なのだ。
テトラコードとしては、昇格リーグが始まるまでに出来るだけ練習試合をしたい。
しかし現実問題として実力が近いチームを相手に練習試合を組むのは不可能なので、代わりのチームを探したのだが。
これがまた難しかった。
現在、全リーグはオフシーズンだ。他国の人間からすると目を剥きそうな事だが、日本のダンジョンアタック競技リーグにはオフシーズンが存在する。
そして十二月というのは一般的に忙しい人が多い時期なのだ。
というわけで、丁度順位が一個したのチームとか、そうでなくても順位が五位以内のチームと都合よく練習試合が組むことも難しかった。
仕方がない、という事で順位を気にせずに同じ三部リーグ所属のチームに声をかけまくったわけだが。
結果論だがこれで良かったのかも知れないと、俺は思った。
「ぬぅ」
いつものマンション、いつものメンバー。十二月十七日、昇格リーグまで一週間という所で、御堂は眉根にシワを寄せて唸った。
「三勝二敗か」
今日までの練習試合の結果だ。勝ち越しているが内容が良くなかった。
三勝テトラコードの順位、年間五位からさほど離れていないチームとの練習試合。そして二敗が、テトラコードよりかなり低いチームの結果だった。
つまり強いチームには勝てて弱いチームに負けている事になる。
「おほほほ! 無様ですね!」
四ツ橋が手の甲を自分の頬にあてながら高笑いする。お前それ現実にやる奴は相当レアだぞ?
「牡丹、お前のせいだぞ」
「牡丹が人のせいにしてる」
堺と谷町が速攻でツッコミをいれる。
四ツ橋がぐぅっと下唇を噛んで呻く。ここで言い訳が出ないあたり自覚はちゃんとある。
「仕方ないではないですか」
そして俺をキッと睨んでくる。
「こんなドコの骨とも知れない男を信じるなんて無理です!」
そう、俺達が三勝二敗、それも弱いチームと試合して負けている理由はこれだ。
弱いチームと試合をしている時、四ツ橋の反応が一歩遅れるのだ。
おそらく癖になってしまっているのだろう。俺の指示に対して御堂からの指示を一瞬待ってしまうような動作が入るのだ。
アタッカー四枚構成だと、この一瞬の待ちで瓦解する。
プレイヤーのヒットポイントを確実に減らすには、遠距離アタッカーが使う魔法が必要だ。ダンジョンの研究で分かった事だが、魔法は体に当てさえすれば防御力を無視してヒットポイントを減らせるのだ。
御堂がアルデバランアルファにやった、クリティカル攻撃も相手の防御力を無視してヒットポイントを削れるが、狙ってやれるようなものではない。
当然、相手はこちらの魔法を警戒するので、防御力ペラペラ四人組にとって魔法とは、相手を倒す為の鉾であると同時に牽制する為の盾なのだ。
なのでタイミングが重要となってくる。
事実、負けた二回とも四ツ橋が牽制のタイミングをミスった所を、御堂か堺がやられる事で負けている。
そこそこ相手が強いチームの場合、明らかに御堂が忙しそうなので、反射的に御堂の指示を待ってしまう、という癖は出ないものの。相手が弱そう、というか弱くて御堂に余裕がありそうな時に四ツ橋はつい待ってしまうのだ。
「ちなみに四ツ橋ほどじゃないけど、堺と谷町も何回か御堂の指示を待ったぞ」
俺の指摘に二人がピューっと下手な口笛を吹く。四ツ橋のオホホ笑いと同じくらいにレアだな。
「ちょっと! 私だけじゃないじゃないですか!」
「二人は戦闘の時は御堂待ちしないからな」
四ツ橋がキーっと叫びながらハンカチを噛む。相変わらず全てが演技臭い。
だけどまあ、これは四ツ橋のポジションの問題だ。おそらく四ツ橋は今までずっと御堂の下で支えてきていたのだろう。それに比べて堺と谷町の二人は指示に従って好き勝手やっていたのだろう。
アタッカー四枚構成でかつ戦術担当なしという、特殊な条件で三部リーグ年間五位までテトラコードを支えたのは彼女の献身あってだ。無茶なチームの無茶な作戦を支え続けた四ツ橋の苦労が忍ばれる。
が、これの根本原因は結局は俺が信頼されていない、という事に他ならない。
以前一年だけだけどプロチームで戦術担当をやっていた、と言ったら彼女達は信頼してくれるだろうか?
動画なりは残っているだろうから、見せて証明するのは容易いが、たぶんそういう事ではないんだろうな。
時間、もしくはインパクトが足りないのだろう。
時間は言わずもがな、インパクトに関しては俺の指示の精度を上げるために、御堂がやっていた戦術行動をそのまま採用している。新しい戦術なんかは一つも試していない。
彼女たちからすれば、代わり映えのしない〝いつもの〟戦術をやっているに過ぎない。
昇格リーグが始まるまであと一週間、前日を完全な休日に当てるとして残り六日。組める練習試合はあと一回が限度だろうな。
どうした物かな。
そう思って視線を巡らせたら、真剣な顔で黙っている御堂と目があった。
今の状態なら、やっぱりクビ、と言われても文句は言えないな。昇格リーグは全チーム強い相手なんだから気にしなくて良いだろう、というのは甘えた考えだ。
ダンジョンの中で戦術担当がプレイヤーから信頼されていない、というのはそれぐらいに深刻な問題なのだ。
クビ宣告でも出てくるのだろうか?
御堂の小さな溜息に、お願いだからもう少し時間をくれないかと、情けない言葉が喉までせり上がってくる。
「お腹すいたわ」
御堂は堂々と言った。
「たこ焼きパーティーします」




