サンドシザーの帰還4
*
人生は旅だ、とは使い古された表現だが。俺の人生が各駅停車の旅だとしたら、彼女たちの人生はリニア新幹線か、もしくはジェット機だろう。
下手をしたら大海原を彷徨う難破船かもしれない。
「あー待ってくれ。これからも……何だって? もう一度言ってくれ」
俺はどうにかケツが乗るだけ、という小さく背の低い椅子の上で呻いた。
御堂が堂々とした態度で俺のリクエストに応えてくれる。
「私達はクリスマスシリーズ、つまりは昇格リーグを今と同じ構成で戦うわ」
やっぱり彼女たちの人生は難破船かもしれない。
戦術担当が付いたが、アタッカー四枚構成というクソピーキーな特殊構成はやめない。
それが御堂の意見だった。意見というか結論だろう。
一応俺は監督という事になっているが、チームとしての実質的なリーダーは御堂だ。チームオーナーみたいなもんだな。
経営者側と現場側で苦労していたライトニングワイバーンの監督の気持ちが、チームを離れて五年経った今になって分かる。
テトラコードが昇格リーグへの参加資格を持っている事は、出会って初日に調べて知っていた。狂気のアタッカー四枚構成で昇格リーグへの参加権、つまり年間順位で五位以内を獲得したというのは、それはもう凄い事なのだが。
監督からすると、それで昇格リーグに挑むというのは、素直に賛成できない。
「お前らの実力なら、例えば四ツ橋か谷町をヒーラーにコンバージョンさせれば今よりずっと楽に勝てるぞ?」
遠距離アタッカーとヒーラーは隊列での立ち位置が似ているので、コンバージョンするのは比較的簡単だ。ヒットポイント管理やバフ管理など、やる事は多く覚える事も多いが、そこは慣れない内は俺がサポートすれば十分に機能する。
谷町に関して言うと、正直に言えば適正はなさそうと思うが。四ツ橋に関してはヒーラーの適正は十分に有りそうだと思う。
「却下ね。私は今年二部リーグに上がりたい。でもこの構成は絶対よ」
だが御堂の返答はノーだった。それも強い意思が感じられるノー。
こりゃ説得は駄目だなと、一瞬で諦める。
高校生の俺だったらどうにか説得しようとしただろう。何せ〝同じ〟アタッカー四枚構成で苦労したからだ。
しかも俺達の場合、好んでそうなったわけじゃない。仲間全員が馬鹿だったから仕方なくアタッカー四枚構成だったのだ。
ダンジョンアタックは蛮族のゲームだが、蛮族は蛮族なりに頭を使ったり、向き不向きが発生する。それがヒーラーとタンクだ。
この二つのポジションはテクニックと選手の性格が噛み合って初めて機能するポジションなのだ。
「何もそんな苦労をしなくても、と思うんだけどな。理由を訊いても?」
御堂の意見に誰も反対の声を上げない事から、これはテトラコードの共通認識であるようだ。チーム構成を変えるというのは諦めるにしても、その理由は知っておきたい。
「それは……」
御堂が俺の顔をじっと見つめてくると、凄い豪快に視線を逸らされた。
顔ごと逸らしたので御堂の赤い髪がブワッと空中を舞う。
「憧れのチームがそうだったからよ!」
「なるほど、そりゃ大事な理由だな」
蛮族のゲームを始めるには、十分かは別として何かしらの理由が必要だ。
お金、名誉、合法的な暴力、憧れ、就労ビザの為、人それぞれだけど理由は必要だ。
御堂の場合はそれが、憧れのチーム、だったわけで。おそらくそのチームがアタッカー四枚構成だったからそれに拘るのだろう。
テトラコードの共通認識みたいなので、誰がテトラコードを作ったのかも分かる。
きっと御堂が他のメンバーに声をかけて集めたのだろう。
かつて俺がそうしたように。
憧れのチームと同じ構成に憧れるのは分かる。というか俺も憧れのチームがあってダンジョンアタックを始めようとした口なので、本当に良く分かる。
憧れのチームと同じ様なチームを作りたい、これは単純だけど大事な理由だ。
それにしてもアタッカー四枚構成かぁ……ストームウィップとかだろうか? 女性のみで構成されたチームでアタッカー四枚構成だと有名だし。
御堂は憧れたチームはどこだろう? そんな事を考えていたら御堂と目があった。
相変わらず炎がそのまま押し固まったかのような瞳が、じっと俺を見つめている。
なんだ? 相変わらず唐突にオッサンに高難易度ミッションを投げてくる奴だな。オッサンが若い女の子の視線だけで何かを察するなんて、不可能に近いんだぞ。
射抜くような視線に晒されたのは一秒程で、俺は御堂に大きな溜息を吐かれて再び視線を逸らされてしまった。
「だから……チーム構成は変えない」
「そうか、分かったよ。リーダー」
おどけて答える俺に、御堂が小声で「何がリーダーよ」、と呟いた。




