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飲んだくれ無職のオッサン、公園で美少女に拾われ、迷宮に帰る  作者: たけすぃ


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20/43

サンドシザーの帰還

 *


 アメリカのプロチームのファームの二軍との練習試合の翌日。

 俺は土下座していた。


 それも真剣に。ガチな土下座をしていた。

 意外な程に綺麗なフローリングの床が目の前数センチにある。


 なぜこんな事になったのか? 少しだけ時間を巻き戻そう。


 *


 自分達のチームが負けた理由が良く分からない。そんな顔をしたリチャードと薄ら寒い会話を交わしながら握手をする。

 前向きに検討してくれるのを期待しているよ、というリチャードの言葉は、負けた後のチームの常套句だ。


 揺さぶりかけておいて、負けてしまったので仕方無しに言っている、そんな顔だ。

 余裕たっぷりだった顔を引き攣らせ、信じられないといった顔をしながら、それでもなお余裕があるように見せる為の笑顔を浮かべる。


 だいたいのチームが負けた後にこんな顔をする。

 俺が仲間達と三部リーグで戦っていた時も、何度もこの顔を見た。


 まあ良い。うちのチームを舐めたツケだ。存分に引き攣ってもらおう。

 何はともあれ、勝利である。


 気持ち的には昔のように、仲間と勝利を祝う打ち上げなんかをしたいが――はい、そうです俺はオッサンです。

 若い女の子四人に混じっていれば、それだけで通報である。


 もしかしたら親戚のおじさんポジションに見えるかもしれないが。昨今は駅までの道を訊いただけで通報されるのだ。

 一度酔っ払って、スマホを無くした状態で、見知らぬ公園で目覚めた時に、近くにいた女子高生に駅を尋ねたら通報された。交番まで行く手間が省けたね。


 とにかくオッサンが若い女の子と一緒にいるのはリスクが高いのだ。


「今から打ち上げに行くけど、すな……戦術担当もくる?」


 と、御堂は誘ってくれたが、まあ社交辞令だろう。

 この娘はマイクミュートを忘れたオッサンを気遣ってくれたりと、意外な程に優しい。


 ダンジョンの中では全員殺す、みたいな目をしているのが嘘のようだ。

 ちなみに俺の返答は当然ながらノーだ。


 律儀に残念そうな顔をしてくれる御堂に、苦笑を浮かべながら言い訳を並べる。


「俺も出来れば参加したいが、これでも監督なんでな」


 俺の言い訳に「ああ」と御堂が短く納得する。

 実際この後に監督の仕事があるのは本当なのだ。


「それなら打ち上げは別の日にしても、良い……けど?」


 良い娘すぎる。提案しつつも顔が不安そうなのは、気遣いを本気にされたらどうしよう? という事なのだろう。

 ついさっき敵の首に剣を突き刺し、前腕の籠手で剣を押し込みながら刃を回転させて首を捩じ切った少女とは思えない優しさだ。


 気遣いが嬉しくて自然と笑みが浮かぶ。御堂が短く呻いて視線を逸らしたのは、見なかった事にした。


「俺の事は気にしないで行ってくれ」


 これだけ気を遣って貰えたら、オッサンとしては大満足だ。その辺の機微がまだ分かっていないのだろう、自分が正しく気遣えたか不安な顔をする御堂に言う。


「何度だって勝たせてやるさ。打ち上げはその時にでもまた誘ってくれ」


 大人としての自分が満足する。なんという上手い返しであろうか?

 お前はダンジョンの事以外は本当に極端に馬鹿になるな、と俺を馬鹿にしていた連中に見せてやりたい。


 砂崎透、立派な大人になりました。


「そう……そうよね! また次があるわよね!」


 御堂さん、オッサンが打ち上げに参加しないのが嬉しいのは分かるけど、ちょっといい笑顔すぎて傷つくよ?

 俺は「それじゃあまたね」と去っていく御堂を見送りながらちょっと泣いた。


 ――でだ。

 監督のお仕事である。


 ダンジョンアタック競技は、ダンジョンからの資源採掘をスポーツ化した物だ。

 三部リーグで言うと魔石である。魔石である、というか魔石しかない。


 三部リーグが潜れる深度が2までなので、仕方のない話なのだが。最も需要があるのもまたこの魔石という名前のエキゾチック物質だ。

 御堂達が使う武器や防具にも使われているし、身近な所で言えばスマホのバッテリーや、大きな物で言えば核融合発電なんかにも使われている。


 これが結構な値段で売れる。

 そして建前上、ダンジョンアタックで採集された魔石の所有権は、チームが持っている。


 つまり、チームがお金を得ようとすると、それを売らなければならない。

 ダンジョンからの採集物の売却益は、チームの収入源の柱なので、上位リーグのチームでは専門の部署がある事が殆どだ。


 これも昔は面倒だったなぁ。一回のダンジョンアタックでいったい何枚の書類にサインした事か……。

 それが今ではスマホで数回タップするだけで魔石を売って、しかもその金もほぼリアルタイムでチームの口座に振り込まれるというのだから。楽だ。


 二部リーグに上がった時は、流石に限界だと税金関係だけは税理士に頼んだが、今ではそれすらもアプリで出来てしまう。

 神か、神だな。DX万歳!


 俺は文明の利器に感謝しながら、魔石売買の証明書その他をチームメンバー全員にメッセンジャーアプリで送り、ダンジョン施設の端末に活動報告書(これも自動で作成される)をアップロードする。

 これで監督としての業務は終わりだ。


 プロになった時に解放された雑事だが、久しぶりにやってみると時代の進化に驚く。

 これなら打ち上げに参加しながらでも出来たな。


 そう思いながら梅田ダンジョンが入ったビル、通称ダンビルから出た所だった。


「やっぱり砂崎だった!」


 俺は予想外の人物に声をかけられた。


「その髪! まさか針中野か!?」


 見覚えのある髪色に、突然人から声をかけられた困惑を飛び越えて一瞬で記憶が蘇る。


「髪で人を判別するのマジでやめろ」


 まるで青竹のような緑色の髪をしたオッサン、というかスーツをピシっと着たイケオジが、綺麗に整えた髪を撫で付けながら苦笑する。

 笑う時に右頬が左頬よりもキュっとあがるその顔、間違いない。高校から大学まで俺と一緒にダンジョンアタック競技に参加してくれた針中野はりなかのげんだ。


「なんでここに?」


 思わず問うてしまう。嬉しい再会だが、やっぱり砂崎だった、と言われる理由が分からない。やっぱりっていうのは偶然の再会で出てくる言葉じゃないからだ。


「ダンジョンアタックの配信見てたらお前が出てきたからビックリしたんだよ!」


 会議をキャンセルして出てきたぜ。

 堂々と社会人としてはどうなのか? みたいな事を言う旧友の顔に、昔の面影を見い出して何とも言えない気分になる。


 こいつバチクソ怖かったんだよなぁ高校の時。理由なく人を殴ったら自分が不利益を被る、それを理解して喧嘩ふっかける相手を探しているクレバーさが気に入ってチームに誘ったのだ。

 人を殴り放題でかつお金も儲かる、君もダンジョンアタックをやってみないかい? 我ながら酷い誘い文句だと思う。


 確か、大学を卒業後は大手金融機関に就職したはずだ。五年前から友人の近況は見ないようにしていたので、今もそうかは分からないが。

 何となくツーブロックの髪型的に今も大手金融機関勤務のような気がする。


「よっしゃ! 今から飲みに行こうぜ! 丁度金曜日だしよ!」


 そして容赦なく首に腕をかけてきて勝手に予定を決める行動力。間違いない金融機関に勤めてる奴だ。

 そして俺の返事を聞く前にスマホを高速で操作している。


「全員呼び出そうぜ。来るかな? 来るわな戦術担当の命令だし」


「まて、俺は何も言ってない」


「はい残念。五年も音沙汰なかった戦術担当の言う事なんて聞きませーん」


 俺の抗議を都合よく無視してスマホをタップ。

 秒でスマホが通知音を連打してくる。


「はい、全員参加っと」


「嘘だろはえぇなおい!」


 午後五時ってまだ働いてる時間じゃないの? どうなってるんだ元チームメイトどもは。社会経験がダンジョンしかないので分からん!


「はい、行くよー。場所は天神橋筋商店街のいつもの店な」


 まて、待ってくれ。心の準備が!

 五年間も社会から遠ざかっていた人間にいきなりこれはキツイんだよ!


 どんな顔をして元チームメイトと顔を合わせれば良いと言うのだ。

 暴れる俺をなんなく引きずる元ダンジョン競技者。お前これ事案だぞ、という言葉は笑い声で打ち消される。


「俺達の戦術担当のご帰還だ! 逃がすか馬鹿野郎」


 その笑い声に混じる鼻水を啜る音。

 それに俺は覚悟を決める。


 公園で美少女に拉致られるよりかは健全だろう。なにせこっちは逮捕される心配がない。せめてもの抵抗に俺はボヤくように宣言する。


「酒は飲まないからな」


 ふと、五年前に東京から大阪に帰ってきて。初めて自分が故郷にいるのだと強く実感した。


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