落ちるには低すぎて、登るには高すぎた2
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「みんな! 私たちの新しい監督兼戦術担当を見つけてきたわよ!」
俺はもともと勇気があるタイプではない。人見知り気味だし、体を動かす事に関しては才能の欠片もない。
タッパはあるが、それを扱う為の才能がことごとく欠如していた。
つまり、推定ダンジョンアタック競技者の、ダンジョンによって強化された力に抗う事なぞ出来るわけがなく、早々に諦めて赤毛の少女に引っ張られるままについて行った。
公園から歩いて五分、最近出来たのだろう近代的なタワーマンションに俺は連れ込まれた。これは本格的に誘拐なんではないだろうか?
良いのかいお嬢さん? ダンジョンの外での力の行使は重罪だぜ?
未だアルコールでポヤポヤする頭で下らない事を考えるが、それを口にする勇気は起きない。
何故なら、赤髪少女の突然の宣言によって、新たに少女達の視線に晒されていたからだ。
その数三人。全員がポカンとした顔をしている。
そりゃそうだろう。俺でも驚く。
自分の友達がオッサン連れてきて、突然コイツが新しい監督兼戦術担当だって宣言するのだ。オッサンの正体より、宣言した友人の頭を心配する。
「えっと」
おそらく彼女もダンジョン競技者なのだろう。
日本人、というより地球人とは思えない深い青色の少女が口を開いた。青色と言えば冷静担当と決まっている。これでおそらく何かの説明をして貰えるだろう。
「俺はそいつをボコボコにすれば良いのか?」
青髪少女は首を傾げながらとんでもない事を言い出した。
タワーマンションのリビングが一瞬にして自分の処刑場のように思えてきた。
駄目だ、オッサンが助けを叫んだ所で返ってくるのは〝うるせぇ〟の罵倒だけだ。
「いやいや待って下さい、待って下さい」
慌てて止めに入ったのは黒髪の少女。色だけで言えば日本人なら珍しくない髪色だが、艶がシャンプーのコマーシャルのそれだ。
青が駄目なら黒だろ、冷静担当。
「死体の処理とか私の家でも無理ですよ」
クソがお前もか! 最近の若い女の子はどうなってんだ? あと黒髪、お前の家はなんなんだ!?
俺は最後の希望を求めて三人目の少女を見る。
ソファの上で体育座りする銀髪の少女。期せずして目があう。
薄い表情に金色の目、銀髪無表情は不思議ちゃんキャラと相場が決まっているが、既に二度も期待を裏切られている。この少女が冷静担当である可能性は十分にある。
「三枚おろし?」
お前が一番こえーよ。
不思議ちゃんじゃなくてサイコパスだよ。オッサンの三枚おろしなんて産業廃棄物が増えるだけだよ?
「あんたら何を馬鹿な事を言ってるのよ」
赤髪少女が溜息を吐く。
「言ったでしょ? 新しい監督兼、戦術担当だって」
まさかの赤髪キャラが一番の冷静キャラだったオチか。こいつはコイツで見知らぬオッサンを公園から誘拐してくるような奴だが。
黒髪の少女がコロコロと笑う。笑うたびに日本人形のような髪がサラサラと流れる。
「すいません、リーダーが突然見知らぬ男性を連れてきたものですから。つい驚いてしまって。ごめんなさい、からかい過ぎましたね」
ほんとか? 本当に冗談だったか? お前の黒い目が一番本気度高かったぞ?
「そうか、冗談だったのか」
青髪少女がウルフカットっていうのか? なんか適度に短いけど女の子らしい髪をボリボリと掻きながら、銀髪少女の隣に座る。
冗談だったのか、とか言っているが開口一番にボコボコにすれば良いのか? とか言ったのはコイツで、そこに何の冗談があったのかと思う。
青髪少女が座った勢いで銀髪少女がソファの上で跳ねて、何故か俺を恨めしげな目で見てくる。怖いよ、俺のせいじゃないよ。
「やっと落ち着いたわね」
赤髪少女が呆れたように言うが、俺の心は何一つ落ち着いていない。若い女の子四人とオッサン一人が同じ部屋にいるのはそれだけで事案だ。
この子たちの親御さんが現れたらそのまま通報されるだろう。勘弁してほしい。
「とりあえず貴方、そこに座りなさい」
かといって俺が逃げ出すのは難しいだろう。赤髪少女の炎を固めたかのような赤い瞳に見つめられて、俺は大人しくソファの一角に座る。
彼女たちの容姿は明らかにダンジョンからの影響を受けている。地球人ではあり得ない髪の色に瞳の色。ダンジョン競技者に多く見られる身体的変化だ。
当然ながら身体能力も高いはずだ。俺も一時はプロダンジョンアタックチームに所属していたが、戦術担当としてだ。ダンジョンには潜らない。
つまりタッパはあるがヒョロヒョロのオッサンである。たぶん彼女たちが普通の女の子でも逃げるの難しいね。走って逃げても直ぐに捕まる自信がある。
ちなみに四人とも美少女だが、これはダンジョンは関係ない。良かったな、奇抜な髪色に耐えうる顔面偏差値で。
俺は、よりにもよってなんでファッションピンクなんだと、いつも愚痴っていた昔のチームメイトを思い出す。アイツ顔の作りは悪く無かったけどゴリマッチョだったからな。
「それじゃあ、もう一度言うわ」
全員が座った事を確認して、赤髪少女がとびきりのアイデアを披露する顔で言った。
「彼が私たちテトラコードの新しい監督兼戦術担当よ」




