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飲んだくれ無職のオッサン、公園で美少女に拾われ、迷宮に帰る  作者: たけすぃ


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16/43

落ちるには低すぎて、登るには高すぎた16

 *


「正面から殺す」


 俺の宣言に一番最初に反応したのは四ツ橋だった。


「さっきは奇襲したのに負けたんですけど?」


「実際には、奇襲には失敗してた」


 相手はテトラコードが近づいている事に気がついていた。


「何で分かるのよ」


「お飾りの監督兼戦術担当でもマップを見るぐらいの知能はあるからだよ」


 不満げな四ツ橋の声に皮肉で応える。


「マップには相手の移動にピン刺ししたんだけどな。言っておくけど責めてないからな? 全速で動いている攻略組にマップを良く確認しろとか言う奴は、クソ戦術担当だ」


「前監督に聞かせてあげたいわ」


 四ツ橋の言葉に全員がウンウンと頷く。そうか前監督は戦術担当もしていたのか。

 プレイベーターでは珍しい話ではない。俺も二部リーグまでは戦術担当だったが、実質的に監督としても働いていた。


 あの天才どもが良く俺の言う事を聞いてくれていたなと、今更ながらに思う。


「基本方針はさっきと同じだ。最速で攻撃権を得る。アタッカー四枚構成に交戦タイミングの主導権を握られる恐怖を教えてやる」


 相手が一度目と同じ戦略、慎重に進むのならやりたい放題だ。存分に嫌な目にあってもらおう。

 もし相手がやり方を変えるとしても、殲滅力はこちらの方が速いので、先制攻撃権は先に取れるだろう。問題ない。

というわけで俺は一度目の作戦を踏襲するつもりだ。


 あの野郎、作戦読めてたから勝てましたわ、みたいな顔しやがって。コイツラが十全に動けるならお前らの出したチョキをパーで握りつぶしてたわ。

 リチャードの紳士的な勝ち誇った顔を思い出して腹が立ってくる。


「えーっと」


 御堂の声に顔を上げる。モニターの中で御堂が首を傾げていた。


「つまり貴方の指示で殺せば良いのね?」


 おかしい。先程の試合で自身も戦いながらチームを纏めていた少女の姿が見当たらない。

 いや言っている事は正しい。平たく言えばその通りだ。


 戦術担当の指示で攻略組が動くのは当然の事だ。

 いやしかし、ええ? こんな感じだっただろうか?


 五年前の記憶を漁るが、こんな全幅の信頼というか、殺意の丸投げはされた記憶はない。

 俺が答えあぐねていると、それを肯定と取ったのか御堂が堂々と宣言した。


「分かったわ。貴方が殺せと言った物は絶対に殺してみせるわ、戦術担当」


「なるほどシンプルだな!」


 食い気味に青髪オレ少女の堺が拳を打ち合わせる。彼女の武器であるガンドレッドに覆われた拳が火花を上げる。


「椿ちゃん……知性は大事ですよ? 殺すのにも知性は大事」


 黒髪ご家族ヤバそう少女の四ツ橋が溜息を吐き、杖にコツンと頭をぶつける。


「グシャー! グシャー!」


 銀髪サイコパス少女の谷町に至っては何を言っているのか分からない。

 大丈夫か? 俺は急に心配になった。


 *


 練習試合の第二試合が開始される。

 前半戦、後半戦、ではないので。マップ情報はクリアされる。


 一日に三部リーグのチームが二試合の練習試合を組める。これも他国からすれば意味が分からないと言われるだろう。

 ダンジョンに入り、短い待ち時間。人数と装備レギュレーションのチェック。


 ルーティーンなのか、御堂が先程と同じように小さな声で手順を囁いている。

 時間だ。感覚だけで分かる正確なタイミング。


 試合開始の合図と共に御堂達が走り出した。




 ダンジョンアタック競技の戦術には、大きく分けて二通りの筋がある。

 一つは先程の御堂達のような戦術。


 プレイヤー対プレイヤーに重きをおいた戦術。

 もう一つが、プレイヤー対エネミーに重みを置いた戦術だ。


 ダンジョンアタック競技の勝敗が、獲得した魔石量で決まるので、後者の戦術を先行逃げ切りとか呼ぶ事もある。

 逆にプレイヤー対プレイヤーは、相手を全滅させると、相手が所有していた魔石の半分を自分の物に出来るので、蛮族プレイとか呼ばれる。


 ダンジョンアタック競技では手に入れた魔石が、そのままチームの収入になるので、懐事情が厳しい三部リーグまでは蛮族プレイは割と他のチームから嫌われる。

 四部リーグだと、互いに攻撃権利を所持している時にカチ合っても戦闘を避ける、というのも珍しくない現象だ。


 三部リーグでも対人戦闘が選択肢として現実的になるのは上位になってからだ。

 ヒットポイントを回復させられるヒーラーがおらず、継戦能力が低い為に、先行逃げ切りが難しいアタッカー四枚構成が、どれだけヤバいか分かるだろう。


 ほぼ確信しているが、テトラコードの四人は四部リーグからアタッカー四枚構成だったはずだ。そう確信できるくらいに彼女達の対人は慣れていた。

 ダンジョンの中だから人は死なない。そうと分かっていても、普通は人を本気で殺しにいけるものじゃない。


 物騒な話だが、人を殺し慣れてないと、人は人を殺す気では襲えないのだ。

 殺す気がなくて襲うのは素人でも出来る。でも最初から殺す気で人に襲いかかれるのは、才能か訓練が必要なのだ。


 彼女達の場合は……どっちだろうな?

 俺はモニターに表示される魔石の収集量を見ながら疑問に思う。


 一試合目より、モンスターを狩る速度が速い。

 ダンジョンのマップは一度リセットされているが、構造は変わっていない。おそらくだけど大雑把には構造を覚えているのだろう。


 小部屋と大部屋の位置を大雑把にでも把握していれば、効率よくモンスターは狩れる。

 梅田ダンジョンのデータによれば、ダンジョンの構造が新しくなったのは昨日の事なので、完全初見であるはずだ。


 深度2の比較的単純な構造だから出来る芸当だ。

 モニターの中で、堺が影犬の頭を掬い上げるように蹴り上げトドメを刺す。


「よし、規定量クリアだ」


 俺はヘッドセットに向けて喋る。魔石の規定量をクリアするまでは指示は出さないと言っていたので、試合が始まってからは初めてだ。

 昔の感覚が蘇る。


 自分より遥かに優秀な人間に指示を出し、その能力を十全に発揮させる事に喜びを見出す。自分では剣も振れない小心者が見い出した戦場。

 それで良い。俺はそれで良い。


 だから俺は彼らを信じるのだ、100%彼らを信じるのだ。

 舞台に立てさえしない臆病者、主役ではない、脇役ですらない。なんなら舞台の書き割りの方が俺より価値がある。


 だが俺は彼女達を勝たせるのだ。


「狩りの時間だ、楽しもう」


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