落ちるには低すぎて、登るには高すぎた12
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ヒットポイントの全損からの致命攻撃。
《《ダンジョン》》が御堂の死亡を認定して、ダンジョンから強制的に排除する。
後は時間の問題だった。数的不利かつ指揮を執る人間がいなくなった事で、テトラコードは敗北した。
通路側に押し留められた残りの三人は、五分と掛からずに押し切られ敗北してしまう。
ダンジョンの入口に強制排除された四人の死体がムクリと起き上がる。
「すまねぇ! 相手の盾が硬かった!」
青髪ウルフカットの少女、堺が御堂に頭を下げる。相手の魔法で頭を吹っ飛ばされた直後だと言うのに元気な奴である。
「凛堂さんはもう少し落ち着く事を覚えて欲しいですわ。後方にいる私達の事を忘れてませんか?」
右肩から胸の真ん中まで剣で斬り裂かれた少女、四ツ橋が「まだ剣で斬られた時の感触がありますわ」とボヤきながら文句を言う。
それに同意するように頷いたのは、最後に四ツ橋ごと相手のアタッカー一人を魔法で消し炭にした後に、相手の魔法で上下二分割になった銀髪の少女谷町だった。
「凛堂、邪魔。後ろにも目を付けて」
その様子を見て俺は安堵の息を吐く。彼女たちの見た目に引っ張られて無意識の内に侮っていたようだ。
ダンジョン内で死んでも、ダンジョンが持つ機能のおかげで無かった事にされる。
しかし、選手曰く。その死の感触は本物であるという。
痛みは無いらしいが、全員が口を揃えて言う、本当に死んだのだと。
ダンジョンアタック競技に選手として参加するのなら、この死の体験は避けては通れない。モンスターに殺されるか、人間に殺されるか、いつかは経験する事だ。
数値化される防御力に攻撃力にヒットポイント、モンスターを倒せば向上する身体能力。極めつけはダンジョン内であれば死んでも生き返られる。
ご都合主義の塊のようなダンジョンという存在、世の科学者が頭を抱えて「ふざけるな」と叫んだゲーム的すぎるという不条理。
だが実際にダンジョンに挑もうとする者には覚悟が求められる。
何度も死ぬ、これを恐れない者だけがダンジョンアタックの競技者になれるのだ。
当たり前と言えば当たり前だが、三部リーグに所属している彼女達は、本物のダンジョンアタック競技者だった。
「ごめんなさい」
死んだ直後だと言うのに、あーだこーだと、あの時こうしていればと、タラレバを並べて反省する三人に、御堂が謝罪した。
「私の判断ミスだった。相手があんなに慎重だったとは予想してなかった」
正直に言えば、俺もしょうがないと思う。
そう思えるだけ、テトラコードの討伐速度は速かった。それこそタラレバだが、単純にモンスターを狩り続ければ勝てただろうと思う。
しかも相手は、テトラコードの接近に気がついていたのに、気がついていないフリまでしていた。三部リーグでやるような事じゃないだろうと思う。
「今回だけは絶対に勝ちたかったのに……ゴメンみんな」
モニターに映る御堂、俺はそれを見てヘッドセットを外す。ブースに人が来たからだ。
何だ? と思いながら左手デバイスを操作して、扉のロックを外す。
入ってきたのは、相手チームの監督だった。
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背の高い、筋肉質の白人男性。
アメリカのチームには良くいるタイプだ。軍人だ。
現在の地位は軍籍から抜けているだろうが、まあ政治的理由って奴だ。
ダンジョンが発見されて、最初に中に入ったのも、最初にモンスターを倒したのも軍人だった。
そして最初に、ダンジョンでモンスターを倒すと、人間の体に変化が起こる事を知ったのも軍人だ。
ダンジョンでモンスターを倒すと人間の体には幾つかの変化が生じる。
その一つが、髪の色などの変化だ。
そして身体能力の大幅な強化、が起こる。
ダンジョンの調査に携わっていた兵士が、軽く流して百メートル走の世界新を出すようになって、この事実は発見された。
こうなれば当然どうなるか? ダンジョンのある国は強い兵隊を作れる事になる。
それも驚くべき持久力、力、素早さを持った兵士を。
ハイテク兵器とドローンが飛び回る戦場になっても、戦争の主役は歩兵だ。国内にダンジョンが無い国がビキビキしたのも分かるだろ?
これが十年、もう本当に戦争が起きるな、ってなるまでダンジョンが理由で戦争が起きなかった理由だ。世界各国の軍事バランスがダンジョンのせいで滅茶苦茶になったのだ。
早くからダンジョンの軍事利用に積極的だったアメリカは、その十年で十分に先行したが、今も積極的に〝活用〟している。
これはアメリカだけの話ではない。単にダンジョンの数が多すぎて、自衛隊の服務規律を変えるだけで十分に元ダンジョン競技者が揃う日本が異常なだけとも言える。
皮肉を込めて、日本が最もダンジョンアタック競技に〝真面目に〟本気の国、と呼ばれるのはこういう理由だ。他国のダンジョンアタック競技の影には少なからず軍の影がちらつく。
ダンジョンが数多くある日本には、各国の建前上軍人ではないですよ。という人間で組まれたチームが数多くあるが。
あからさまなのはアメリカぐらいである。
ダンジョンのない中国やロシアのチームは、もっとちゃんと民間人させてるぞ。
俺は椅子から立ち上がりながら、入ってきた男に挨拶する。
「見事な対応でしたね。どうもこちらの戦術を読まれていたようで」
右手を差し出すと、力強い握手が返ってくる。アメリカ人のこういう所ホント嫌い。
「あの砂崎徹が戦術担当の席に着いているのなら当然でしょう」
この野郎。
英語で話しかけた俺に対して、日本語で返してきやがった。御堂に英語で話しかけたのは揺さぶりだったか、単なる嫌がらせだったのか? どっちにしろ気に食わない。うちの可愛い選手をいい大人がイジメやがって。
嗚呼いや待て。
「俺を知っているんですか?」
五年前に逃げ出した戦術担当を知っているとか、このオッサンはダンジョンアタック競技の熱烈ファンか何かか? 軍人っぽいのに。
「当然ですよ、ミスター砂崎」
男が両手を大きく広げる。ジェスチャーがいちいち大きすぎる。行動の端々に男の自信が見える。肉体的、精神的な強さ。
こっちは平均的な日本人男性だぞ? 精神的な所に限って言えば平均以下のクソザコおじさんだ。こっちをいつでも殺せる猛獣を前にしている気分になる。
「ライトニングワイバーンを最強たらしめていたのは貴方だ」




