落ちるには低すぎて、登るには高すぎた11
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テトラコードが選んだ作戦は単純だった。
エントリー前に遠距離アタッカーが合図に合わせて先制攻撃。それに合わせて近接アタッカーが肉薄し、速攻で一枚潰して数敵有利を取る。
奇襲が成功した場合、これを防ぐ手立ては殆どない。
しかし――。
相手側はそれを防ぐ為のセオリーをちゃんとやっていた。
侵入経路となる通路を自分達でも踏破する。こちらが彼らの位置が分かったように、それだけでこの奇襲を防げる。
相手チームは大部屋を確保したら直ぐに通路の確保に動いていた。
これは三部リーグのチームでは珍しい動きだ。
三部リーグのチーム相手に、こんな序盤から奇襲を警戒する事自体が稀だ。
普通は三部リーグのチームにそこまでの殲滅力がある事を想定しない。アタッカー四枚構成であってもだ。
それに、防御力にレギュレーションがあるように、攻撃力にもレギュレーションがある。
ただのアタッカー四枚構成では、相手を削りきれずに反撃を受ける可能性の方が高い。
だけど彼女達であれば、それが出来る。成功させるだけの連携は取れるだろう。
それだけの実力があった。
惜しい。俺が指揮を執っていればと思う。思ってしまう。
相手が通路を確保しながら、慎重に行動している事も、マップにピンを刺すのではなく、口頭で伝えられたし、最適なタイミングを指示できたはずだ。
本来であるならば、相手が普通の三部リーグのチームであるならば、テトラコードの作戦は成功していたかもしれない。
だが相手チームは二部リーグのファーム。プロの卵とも言える連中だったのだ。
三部リーグでは機能するとは思えないアタッカー四枚構成を見て、敵チームがセオリー通りの動きをした時点で、勝敗は殆ど決していたのだ。
御堂が「エントリー!」と叫ぶ直前には、相手チームのタンク役が入口を塞ぐように立ち回り、四ツ橋牡丹が使った魔法を手に持った盾で防ぎつつ、後続の近接アタッカーのエントリーを阻止。
この時点で普通なら諦める。なんなら背後からの追撃を覚悟してでも、背中を向けて撤退しても良いぐらいだ。
攻撃を受けた側は魔石の回収量に関係なく、攻撃権が付与される。
先手を取られている時点で魔石の回収量では負けているのだ、絶好の反撃機会を捨てる可能性は低い。
苛烈な反撃が予想される。
どうするのだろう? 自分が戦術担当である事を忘れて見入ってしまう。
モニターが映し出すテトラコードの動き。その姿を見て、俺は咄嗟にマイクを覆う。
そうだ! 勝ちを諦めないならそうするしかないよな!
モニターの中、迎撃に成功したタンクが反撃の体制を取る真ん前で、赤い影と青い影が交差する。御堂椿と堺凛堂が最前線で位置替え。
一瞬、タンクの視線が彷徨う。タンクの盾に叩き込まれる堺凛堂の拳。
相手チームのタンクの驚きが手に取るように分かる。そうなんだよ、そいつら馬鹿なんだよ。アタッカー四枚組な上に、まともに防御力に振ってるのは御堂だけなんだよ。
ダンジョンアタックにおいて、防御力は攻撃力とトレードオフの関係にある。
レギュレーション内で、各々のロールに合わせて調整するのだが。テトラコードは四枚アタッカーの上に、近接アタッカーの一枚までもが超攻撃的スタイルだ。
防御力より攻撃力を取る遠距離アタッカー二枚はともかく、四枚中三枚が完全攻撃仕様の紙装甲スタイル。
前監督がドル売り志向で、スタイルに関してはノータッチだった事で成立しているスタイルだ。正気なら絶対にこんな編成認めない。
狂気が許した狂気の産物。
青いドレスに映えるように作られたガントレットが、敵の盾を叩いて火花を散らす。
それによって出来た隙は一瞬。
そして御堂椿という少女は、その隙を見逃すような人間ではなかった。
マイクを覆った右手が、スポンジを潰す感触。
ダンジョンで戦う事で手に入れた身体能力、それを使って御堂がダンジョンの壁を蹴る。
壁を使っての水平方向の三角飛び。
普通の人間では出来ない動き。ダンジョンが国内に現れた国が、十年間先行しただけで世界の軍事バランスを変容させたその理由。
御堂がタンクの頭上を飛び越え、大部屋にエントリー。
御堂がワンチャンスを通す。
マイクを握る手を離して、彼女達に指示を伝えたくなる。御堂が通したこのワンチャンスを形にする為の一言を。
だが俺はグッと我慢する。戦術担当と選手の間には、信頼関係が必要なのだ。
お飾りとしている自分、それが今俺に求められている役割だ。それを放棄するのは、勝利の為であっても裏切りだ。少なくとも俺はそう思う。
勝てるのに、勝てたのに。
〝俺が指揮を執っていれば、御堂のプレイを勝利に繋げられたのに〟、一度ダンジョンから逃げた自分から、とんでもない言葉が出そうになる。
だけど本音だった。
御堂椿が、あれ程のプレイヤーが、分かっていないはずがないのだ。
自分自身が開いた勝利への細い道、その先はどうやっても行き止まりだと。
テトラコードは御堂を中心としたチームだ。それはここまでの戦い方を見ていて分かる。
彼女が決断し、指示を出し、実行する。
その高い殲滅力、ダンジョン踏破速度、全てのキーは御堂椿というプレイヤーだ。
その御堂が仲間と離れたらどうなるか?
殴りで押し切ろうとする堺、堺が邪魔で逆に攻撃できない遠距離組二人。本来なら誰かが声を掛けてタイミングを合わせればどうにか出来ただろう。
だがそれをしていた人間はいない。3対1の数的有利を活かして、速攻で沈める。
もしくは、相手が並の三部リーグの選手だったら、背後に回った御堂がタンクを攻撃する事で打開できたかもしれない。
しかし相手はプロの卵みたいな連中だった、通らない。後方組がタンクを速攻で潰すのも、御堂のタンクへのバックスタブも、どちらも確実に潰すだろう。
俺の予想通り、相手チームの近接アタッカーが距離を詰めてくる。これで御堂はバックスタブも、そして相手の後方組への攻撃も潰される事となる。
「ああ……凄いな御堂。お前は凄い、お前らは凄いよ」
それでもなお途切れぬ闘志。
戦って生き残る、それを恐れない者だけが持つ力。
生き残った事を五年も……いや今も、後悔し続けてる俺には無い覚悟。
御堂が相手チームからの魔法をくらい、衝撃に体勢を崩す。
テトラチームで唯一まともな防御力を持っている御堂でも、魔法の直撃には耐えられない。今ので殆どのヒットポイントを失っただろう。
相手の近接アタッカーが容赦のない一撃を加える。
御堂の胸に深々と刺さる剣。それを見て俺はこのマッチが敗北に終わる事を確信した。
深々と胸を剣で貫かれた御堂がカメラの方を見る。
その顔は、まるで俺に「どうだ?」と尋ねているように見えた。
私は戦ったぞ。そう俺に問う瞳はランランと赤く燃えていた。




