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第11-5話「動き出す理由」~準備という一歩

ギルドの扉を出ると、朝の空気が肌に触れた。


人の流れは、少しずつ増えている。

露店の呼び声。

荷車の軋む音。

街が、完全に動き出す前の時間帯だった。


カナタは、無意識のうちに肩を回す。


「……さて」

「まずは装備ですね」

「だよね」


ソラの言葉に、カナタは頷いた。


「武器と防具。それから回復薬……」

「順番としては、近くの武器防具屋が先にしましょう」

「そうだね」


二人は、街の中心から少し外れた通りへと足を向けた。


この辺りは、冒険者向けの店が集まっている。

看板の数が多い。

剣、盾、鎧、革製品。 用途が一目で分かるような意匠ばかりだ。


「……思ったより、ちゃんとした店多いね」

「需要が安定していますので」

「そっか。冒険者、いっぱいいるもんね」


最初に入ったのは、武器防具屋だった。


分厚い木製の扉を押し開けると、金属の匂いが鼻を打つ。

鉄と革。

油の香り。

壁一面に並ぶ武器。

槍、剣、斧、短剣。

床際には、盾や簡易防具が整然と置かれている。


「いらっしゃい」


カウンターの向こうから、落ち着いた声がかかった。

年嵩の店主だ。

無駄な愛想はないが、目つきは鋭すぎない。


「武器をお探しで?」

「はい。Eランクになったばかりで」

「なるほど」


店主は一度だけ二人を見てから、頷いた。


「初装備だな」

「分かります?」

「雰囲気でな」


そう言って、壁際から一本の短剣を外す。


「スライム討伐なら、これくらいが扱いやすい」

「短剣……」


カナタは差し出されたそれを受け取る。

思ったより軽い。

重心も、手元寄りだ。


「振ってみな」

「え、ここで?」

「いいから」


言われるまま、軽く振る。

空を切る音が、短く鳴った。


「……悪くない」

「そうだろ」


店主は満足そうに頷いた。


「刃も薄すぎない。核を潰しにくい」

「それ、大事って言われました」

「だろうな」


ソラが静かに尋ねる。


「防具は、どの程度が適切でしょうか?」

「スライムなら、革製で十分だ」


そう言って、手袋と脚部用の防具を指し示す。


「粘液避けだ。重さより、覆いを重視しろ」

「なるほど……」


カナタは、それらを手に取る。

思ったほど重くない。


「動きづらくは……なさそう」

「慣れればな」


価格を聞き、カナタは一瞬だけ目を伏せた。

高すぎない。

だが、安くもない。


「……買える?」

「問題ありません」


ソラの即答に、カナタは小さく息を吐いた。


「じゃあ、これで」


短剣。

革手袋。

脚部防具。

最低限。


だが、確かに“装備”と呼べるものだった。


会計を済ませ、店を出る。


「……冒険者っぽくなってきたね」

「外見上は、そうですね」

「外見上って言うなぁ」


次に向かったのは、道具屋だった。


こちらは、武器屋とは違い、棚が多い。

瓶、小袋、布、紐。

用途が分からないものも、少なくない。


「いらっしゃいませ」


店番の若い女性が、にこやかに声をかける。


「回復薬を探していて」

「はい。低級用ですね?」


言われて、カナタは少し驚いた顔をした。


「分かるんですか?」

「最近、その質問多いので」


苦笑しながら、棚の一角を指す。


「こちらです。火傷・皮膚損傷向け」

「……これが」


瓶は小さい。

中身は、淡い色の液体だ。


「使い切りですか?」

「はい。一本で一回分になります」

「持ち歩くなら、何本くらいがいいかな?」

「初回でしたら、二本から三本をおすすめします」


ソラが確認する。


「魂への影響は?」

「ありません。完全に肉体用です」


価格を見て、カナタは頷いた。


「じゃあ、三本で」

「かしこまりました」


包まれた回復薬を受け取り、腰袋に収める。


「……思ったより、準備ってやること多いね」

「事前準備は、生存率に直結します」

「だよね。大事だよね」


道具屋を出ると、街はさらに賑わいを増していた。

二人は、通りの端で一度立ち止まる。


「これで、一通り?」

「武器、防具、回復薬。必要最低限は揃いました」

「よし」


カナタは、自分の装備を改めて確認する。


短剣の感触。

防具の重み。

腰にある回復薬。


どれも、さっきまでは存在しなかったものだ。


「……不思議だね」

「何がですか?」

「昨日まで、こんなの考えてもなかった。もう少し先の話だと思ってたよ」


ソラは少しだけ間を置いてから答える。


「環境が変わった、ということです」

「うん……そうだね」


カナタは、街道の方角を見る。


湿地帯は、街の外。

遠くはないが、日常からは確実に外れている。


「今日は、準備だけにしておく?」

「判断は任せます」

「無理しない、だよね」

「はい」


カナタは、短く息を吐いた。


「じゃあ、今日は準備だけ」

「妥当です」

「明日か、明後日。様子見ながら行こう」


ソラは静かに頷いた。


二人は再び歩き出す。

装備の重みを確かめながら。


まだ戦っていない。

だが、もう“準備前”ではなかった。


Eランクとしての一歩は、確実に、形を持ち始めていた。

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