第3話「狭間を見つめる者」
淡い光の海の中で、私は静かに漂っていた。
見渡す限り、無限に広がる光の粒子。
まるで宇宙に散りばめられた星々のように、無数の魂たちがゆらゆらと揺れ、淡い光を放っている。
目を凝らせば、それぞれの魂が放つ色や輝きに個性があるのがわかる。
幼い魂の光は柔らかく、温かみがある。
老いた魂は深みを帯び、落ち着いた波紋を広げる。
善良な魂は澄んだ光を放ち、罪深い魂は濁りながらもどこか抗えない力を秘めている。
この広大な光の海に漂いながら、私は、天国と地獄を隔てる微細な均衡を感じ取ることができる。
狭間は、魂の力と意志の均衡で保たれている。
しかし、その均衡は決して揺るがないものではない。
近い将来、必ず、何かが触れ、波紋が広がる。
——近い。
胸の奥で、警告のような予感が淡く震えた。
私はこれまで、数え切れないほどの魂を案内してきた。
生まれたばかりの幼い魂、力に満ちた英雄の魂、罪を背負った悪しき魂、大小関係なく、すべての魂を見守り、導いてきた。光の道を辿る魂たちは、私の目からは一瞬たりとも逃れない。
天国に向かう魂も、浄化の試練のために地獄へ導く魂も、そのひとつひとつが狭間の均衡を微妙に揺らす。
だが、近い未来――この均衡は必ず崩れる。
血気盛んな地獄勢が狭間に踏み入り、混沌の火種を撒き散らす日が来るだろう。
歴史上の大罪人たちは、魂を操り、地獄の軍勢を率いる。
その時、天国側も黙ってはいない。
善良な魂を結集し、狭間を守ろうとする。
しかし、防壁である狭間の結界には限界がある。
私はその未来を、静かに予測している。
だが、あまり多くを語ることはできない。
言葉にしてしまえば、狭間の均衡に干渉する者たちに察知されるかもしれない。
だから、必要最小限の予測だけを心に留めている。
そのために、希望となる魂を探していた――狭間を救う可能性を秘めた存在。
そして、私は彼を見つけた。
生前、彼はあまりにも強大な魂を持っていた。
しかしその力は、彼の体とは釣り合わなかった。
病に蝕まれ、弱く細い体の中で、魂だけが輝き続ける。
その不均衡こそが、狭間を救う鍵になる――私は直感した。
私は決めた。
彼が狭間を選ぶだろうと。
私は直接彼を救うことはできない。
介入すれば魂の本来の成長を阻害するかもしれない。
私ができることは、サポートとして、必要な存在を彼に届けることだけ。
そのために、選ばれた魂――ソラの魂を、彼の元へ送ることにした。
だが、計画は完璧ではない。
地獄勢の微かな干渉がある。
意識のわずかな揺れ、魂の軌道のずれ。
思った通りに届かない可能性もある。
荒野の外れに降り立つかもしれない。
しかし、それでも構わない。
届く魂は、彼にとって必要な存在であるはずだ。
導かれるべき魂には、必ず出会いが訪れる。
偶然か、運命か、それは私にも完全には分からない。
もしかすると、予期せぬずれが、未来に奇跡を生むのかもしれない。
それもまた、狭間の計画の一部だ。
私は光の海に身を委ね、無数の魂たちの中で静かに待つ。
目に見えぬ未来を見据え、彼の歩む道を、そして狭間に生まれる新たな物語を、見守るために。
揺れる均衡の端に触れるたび、胸の奥がざわめく。
近い――その時、世界は大きく変わるだろう。
しかし、彼と出会う魂が存在する限り、希望は消えない。
私はさらに深く光の海に溶け込み、静寂に包まれる。
無数の魂が漂い、各々の光が交錯する。小さな光が連鎖する様は、まるで遠くの未来を暗示しているかのようだ。
どの魂が重要か、今は誰も知らない。
ただ、必然的に何かが動く――それだけが分かる。
そして、私は待つ。
彼の魂が目覚める瞬間を、荒野で立ち上がる瞬間を、まだ誰も知らない物語の始まりを。
微かに揺れる均衡の中、私は自らの役割を胸に刻む。
希望の芽は、必ずここで育つ。
未来は、まだ光に包まれた海のように、柔らかく揺れているだけだ。




