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第9-5話「守れなかった約束」~選べと言われた檻の中で

目を閉じて、どれくらい経ったのか分からない。

時間の感覚が、曖昧だった。


眠っていたわけではない。

かといって、起きているとも言い切れない。


意識は、浅い水面に浮かんでいるようで、少し気を抜くと、すぐに沈みそうになる。


(……まだ、ここか)


再び目を開ける。

景色は、何も変わっていない。

暗闇。

檻。

自分。


(……時間、進んでるのか?)


腹は、空いていない。

喉も、渇いていない。

それが、逆に怖かった。


(……生理現象、止められてる?)


試しに、立ち上がろうとする。

足に、力を込める。


……立てる。


ただし、重い。

身体に、常に薄い膜が張り付いているような感覚。


動くたびに、空気ではない“何か”を押し分けている感じがする。


檻の内側を、ゆっくり歩く。

数歩で、端にぶつかる。


(……狭い)


広さは、六畳ほど。

天井の高さは分からないが、圧迫感はない。


(……逃げ道は、ないな)


分かっていた。

それでも、確かめずにはいられなかった。


檻に手を当てる。

両手で、押す。


━━反発。


強く押しても、びくともしない。

触れている部分だけ、少し温度が上がった気がした。


(……反応、してる?)


拳で、軽く叩く。


ぼん。


音は、鈍い。

金属でも、ガラスでもない。


「……くそ」


歯噛みする。


(……ソラなら)


無意識に、比べてしまう。

彼女なら、この檻をどう見るだろう。

どう解析して、どう壊すだろう。


(……頼るな)


自分に言い聞かせる。

待つしかないと、言われた。

なら、待つしかない。


━━でも。


(……本当に、何もしないつもりか?)


影の言葉が、頭をよぎる。


「選べる」

「生き方」


(……意味、分からない)


考えていると、再び、空気が揺れた。


(……来る)


さっきよりも、はっきりと分かる。


檻の外。

暗闇の奥。


影が、現れた。


今度は、一体ではない。

三つ。

いや、四つ。

輪郭が、曖昧なまま、並んでいる。


「……複数?」


思わず、声が漏れる。


「警戒する必要はない」


最初に話した影が、前に出た。


「この場で、お前に害を与えることはない」

「……信用できるかよ」


吐き捨てるように言う。

影は、気にした様子もなく続ける。


「恐怖は、自然だ」

「だが、それは悪い兆候ではない」

「……何が言いたい」


影は、檻の外側に手を伸ばした。


触れていない。

だが、檻の表面が、微かに波打つ。


「魂は、刺激によって形を変える」

「恐怖も、痛みも、選択の材料だ」

「……実験台、みたいな言い方だな」


影が、少しだけ間を置いた。


「否定はしない」


背筋が、冷たくなる。


「……じゃあ聞く。僕を、どうする気だ」


沈黙。


影たちは、互いに視線を交わすような気配を見せる。


「まだ、決まっていない」

「……は?」

「決めるのは、お前だ」


意味が分からない。


「条件は、揃っている」

「だが、意思が足りない」

「……意思?」

「選ぶ覚悟だ」


影の声が、少しだけ低くなる。


「お前は、流されてきた」

「街に入り、ギルドに行き、森へ入り」

「隣に立つ者に、導かれて」


胸が、ちくりと痛む。


「……悪かったな」

「否定ではない」

「だが、それでは足りない」


影が、一歩近づく。


「お前の魂は、強すぎる」

「自覚なく、世界を歪めるほどに」

「そのままでは……」


言葉が、途切れる。


「……どうなる」


影は、はっきりと言った。


「壊れる」

「……僕が?」

「周囲が」


息が、詰まる。


(……そんな)


キノコ。

薬草。

街での視線。

点が、線になる。


「……じゃあ、どうすればいい」


初めて、弱音が混じった。

影は、即答しなかった。


「目覚めろ」

「……だから、それが何だよ」

「自分の魂を、認識しろ」

「制御しろ」

「選べ」


言葉は、抽象的だ。

具体性が、ない。


「……それができなかったら」


影は、静かに告げる。


「我らが、代わりに使う」


ぞっとする。


「……拒否権は?」

「ある」

「今はな」


影が、檻から離れる。


「時間は、与える」

「その間、お前は“安全”だ」


安全。

それが、どれほど信用ならない言葉か。


「……ソラは、どうした」


思わず、聞いていた。

影たちの動きが、わずかに止まる。


「知らない」


即答だった。


「……本当に?」

「お前に関わる存在には、干渉しない」

「だが……」


言葉が、続く。


「こちらに辿り着く可能性は、高い」


心臓が、強く脈打つ。


(……来る)


その確信が、強まる。


影は、それ以上何も言わず、暗闇へと溶けた。

再び、一人。

檻の中。


「……くそ」


声が、震える。

怖い。

分からない。

縛られている。

それでも━━

逃げるだけじゃ、駄目だ。


(……ソラが来るまで)


いや。


(……来たときに、足手まといにならないためにも)


拳を、握る。


(……目覚めろ、か)


どうやって?

何を?


分からない。

けれど。


胸の奥。


ずっと、違和感としてあった“何か”。

それに、初めて意識を向けた。


(……これか?)


温かいような。

重いような。

自分の中に、確かに“ある”。


それは、これまで意識しないようにしてきたもの。


(……僕の、魂)


檻の中で、カナタは静かに目を閉じる。

外では、影が動き。

街が動き。


そして━━

ソラが近づいていることをまだ、彼は知らない。

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