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第7-幕間「初依頼と夜の安らぎ」~静かな通話

夜更け。


宿は完全に眠りに落ちていた。


人の気配は消え、廊下の軋みすら聞こえない。

外から届くのは、遠くの風音と、街灯のかすかな揺れだけ。


ベッドの上で、カナタは静かに眠っている。

寝息は、まだ少しだけ不規則だった。

深く沈みきれず、浮き沈みを繰り返す呼吸。

狭間に来てから、まだ数日。

魂がこの世界の“夜”に馴染みきっていない。


それでも━━


(……昨日より、落ち着いている)


ソラは、音を立てないように布団の横へ立った。

視線を落とすだけで、身体の緊張と魂の状態が伝わってくる。

過剰だった波打ちが、丸みを帯びている。

尖りが減り、外へ漏れ出す量も少ない。


(……確実に変化しています)


声には出さず、意識だけで確認する。

今日一日。

採取。

達成。

報酬。

食事。

休息。

魂が、内側から満たされた結果。

外へ溢れ出す必要が、わずかに減っている。


「……」


ソラは、ゆっくりと膝を折った。

床に座り、両手を重ねる。

今夜も、案内人へ報告を入れる必要がある。

この変化は━━無視できない。


(……起きていない今が、最適)


覚醒時のカナタは、まだ不安定だ。

無意識の干渉が強く、通信術式を弾く可能性がある。

眠っている今。

魂が世界に身を預けている、この時間帯だけが許される。


ソラは、静かに術式を組み始めた。

昨日と同じ━━

だが、今日は少しだけ負荷が減る。

指先から、細い光の線が生まれ、空間をなぞるように伸び、膜に触れる。


(……繋がります)


意識を、送る。

空気が、ほんの一瞬だけ歪んだ。


「報告を」


案内人の声が、直接ではなく、思念として響く。

低く、抑えられた、距離のある声。


「本日の経過を報告します」


ソラは淡々と伝えた。

初依頼の完了。

精神的達成。

魂の揺らぎの変化。


「昨夜と比較し、魂の揺らぎは明確に減少しています」

「……ほう」


案内人の反応が、わずかに変わる。


「外部への影響も低下。空間干渉は、現在は限定的です」

「原因は?」

「達成感と、満足による内的安定と推測します」


短い沈黙。


「……一日でそこまで変化するか」

「例外的ではありますが」

「ああ、例外だな」


案内人の声に、わずかな興味が滲む。


「だが、許容範囲ではないのだろう?」

「はい。依然として、基準値を超えています」


正確に。

誤魔化さず。


「ただし、悪化ではなく、改善傾向です」


再び、沈黙。


「……引き続き、観測とサポートを続けろ」

「承知しました」

「戦闘は、まだ許可しない」

「理解しています」


魂の制御が追いついていない。

今は、積み上げる段階だ。


「彼には、知らせるな」

「はい」


通信が、静かに途切れる。


歪みは消え、部屋は元の静寂へ戻った。


ソラは、穏やかな寝顔を見下ろす。

知らないうちに。

気づかないまま。

彼は、確実に前へ進んでいる。

狭間の世界は、それを静かに受け止めている。


(……この調子なら)


まだ遠い。

だが、可能性は見えている。


ソラは灯りを落とし、布団に目をやる。

━━その時、ふと、胸に熱い感覚が走った。

カナタの寝顔が、あまりに柔らかく、穏やかで。

小さな口元と、微かに動く呼吸。

無防備な寝姿に、思わず視線が釘付けになる。


「っは……」


反射的に声を漏らし、慌てて我に返る。

心臓が少し早く打った。


(……良くない、良くない)


ソラは自分を責める。

任務に集中しなければならないのに、私情が入った━━と。

肩を軽く揺らして息を整え、再び手を下ろす。


夜は静かだ。

揺らぎも膜も、完全に落ち着いた。

カナタの寝息だけが、微かに響く。


(……でも……可愛い、な)


そう呟いて、ソラは小さく自分を叱った。

無事な姿を見る喜びと、不可抗力の心の動き。

それを抱えたまま、ソラも眠りへと横になった。


外から見れば、何事もない夜。

しかし、狭間の深部では、確かに“前進する魂の痕跡”と、

観察者の小さな人間らしい揺れが刻まれていた。

カナタ

年齢・性別:男性・十代後半

性格:純粋・真面目・好奇心旺盛、少しおっちょこちょい

特徴:生前は病弱だが、魂は極めて強大で規格外

能力・特性:魂の密度が高く、狭間に影響を与えるほどの力を秘める

状況:狭間に導かれたばかり。測定不能扱いの例外魂。冒険者ランクはFからスタート

ソラとの関係:案内天使に導かれ、精神・魂の補助を受けながら成長中


ソラ

年齢・性別:女性(外見は十代後半)

性格:冷静・慎重・思慮深いが、内心では感情を強く抱く

特徴:案内天使。職務と感情の間で葛藤することも

能力・特性:魂の流れを整え、狭間への定着や暴走防止を補助する

役割:カナタのサポート担当、狭間での生活・魂の安定を見守る

注意点:カナタには自身の本当の感情や狭間の裏事情を悟らせない


案内人

性別・年齢:不明(外見の制約なし)

性格:冷静沈着・絶対的権限・断定的

特徴:狭間全体の均衡を管理、魂の導入と監視を行う

役割:カナタを狭間へ導き、ソラに指示を出す。例外扱いの魂にも厳格

注意点:命令は絶対。失敗や逸脱は許されない


行政天使:ラファエル=アーカイヴ

性別・年齢:不明(外見は成人男性風)

性格:業務的・冷徹、感情を表に出さない

特徴:狭間行政庁・魂定着管理局所属、例外事案監査官

役割:魂の定着確認、規格外の魂を監査

注意点:測定不能や例外事案に動揺せず、淡々と判断を下す


ギルド長:ハルヴェル

年齢・性別:中年男性

性格:豪快・親しみやすいが、公正

特徴:冒険者ギルド運営全般、経験豊富

役割:冒険者の登録・管理、臨時対応も可能

注意点:新人にも親切だが、規則・魂の制御には厳格


街:インテルム(外周縁中規模街)

立地:狭間の外周縁に位置する中規模都市

用途・機能:交易・滞在・冒険者登録の全てが整備され、初心者魂向けに最適化

秩序:多種族共存。街全体が光と秩序の調和で維持され、騒音や混乱は最小限

特徴:石畳の広場や整備された街路。遠くに塔や広場、光の粒子が都市の生命感を演出

安全性:初心者でも街の秩序に溶け込めるよう配慮

住民:人間、亜人、獣人、翼や角を持つ存在など、多種族が行き交う

文化・雰囲気:活気と秩序が共存。外界の刺激に圧倒される新参者も落ち着ける環境

特殊性:魂の定着検査や行政手続きの拠点としても機能

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