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第7-3「冒険者として、歩き出す日」~魂とランク、初めての測定

建物の中に足を踏み入れると、カナタの目に広がったのは、想像以上に活気に満ちた空間だった。


木とレンガが温かく組み合わさった内部。

磨かれた床が朝の光を柔らかく反射し、壁際には小さな待合スペースが点在する。

椅子やテーブルには冒険者たちが腰掛け、軽食や飲み物を楽しみながら談笑している。


カナタは思わず息をのむ。

ここが――夢にまで見た、冒険者たちの拠点なのだ。

中央には受付カウンターが五つ並び、女性たちが手際よく業務をこなしている。

書類を整理し、端末に入力し、訪れる冒険者たちを次々と案内する。


「こちらへどうぞー!」


明るく事務的な声が響く。

その笑顔と手際の良さに、自然と安心感が漂う。


カナタは小さくうなずき、ソラと並んでカウンターに向かう。


周囲の冒険者たちの視線が自然と二人に注がれる。

鎧を着たベテランはわずかに横目で見るだけだが、初めての登録らしい少年少女たちは、興味深げにこちらを見つめている。


(……初心者って、登録のとき注目される……小説でもそんな話があったけど、そういうものなのか)


胸の奥で小さな緊張が走る。

しかし隣のソラは落ち着いた足取りで、カナタを自然にリードしてくれる。


「初めてのご登録ですね。申請書にご記入をお願いします」


受付嬢の声は明るく、茶色の髪を軽く結び、白と青の制服に包まれた姿は事務的で誰にでも接するような笑顔だ。しかし、どこか視線の焦点が微妙にずれている気配があった。


カナタは小さく肩をすくめる。


「……ソラ……文字……」


ソラは静かにカナタの横に寄り、穏やかな声で告げる。


「大丈夫です、カナタさん。私が代筆しますので安心してください。後で、ゆっくり教えますから、書けるようになりましょうね」


その言葉に、カナタの胸の奥が少し軽くなる。

誰かに見守られながら、慣れない世界に触れるのは不安だった。しかし、隣で落ち着いた手つきで自分の名前や情報を文字にしていくソラの存在が、安心感を与えてくれる。


ソラの手は正確に文字を整え、必要事項を漏れなく書き込んでいく。

カナタの名前、冒険者としての基本情報など、すべてを丁寧にまとめ、同時に自分自身の登録も済ませる。


「はい、完了です。カナタさんの分も、私の分も、これで問題ありません」


カナタは息をつき、少し肩の力を抜く。

自分ではまだ書けなくても、これで登録が進められるのだと安心する。


受付嬢は書類を受け取り、軽く微笑む。


「ありがとうございます。ソラ様にカナタ様ですね。それでは、これから確認を行いますので、少々お待ちください」


カナタは小さく頷き、ソラと並んでカウンターの脇に立つ。

周囲の冒険者たちの視線が、自分たちに注がれているのを感じる。

初心者として、自然と注目される時間。

少し緊張するが、隣で落ち着いたソラの存在が心を安定させてくれる。


受付嬢は手元の書類を整え、にこやかな声で呼びかけた。


「ソラ様、カナタ様、申請書の確認が無事に完了しました。お疲れさまでした」


カナタは思わず肩の力を抜き、ほっと息をつく。


「……ありがとうございます」


ソラは微笑み、そっとカナタの肩に手を添える。


「これで、正式に登録の一段階が完了ですね」


受付嬢は書類を片手に、説明を続ける。


「では、次は魂の登録とギルド情報の記録についてご説明します」


カナタの耳が少しピクリと反応する。


「魂の登録……ですか?」


受付嬢は頷き、手元の装置を指さした。


「はい。冒険者の皆さんは、ここで魂の特性や強さを簡易的に登録します。管理上必要なものですので、正確に測定させていただきます」


続けてギルド情報についても説明する。


「そしてこちらには、ギルド情報を記録します。これはランクやこれまでの依頼状況、依頼達成履歴といった基本的なデータです」


カナタは視線をソラに向ける。


「ギルドランク……ですか」


受付嬢は微笑みながら説明を重ねる。


「はい、ランクはFから始まり、Sが最上位です。もちろん最初はFランクからです」


カナタの胸の奥で、思わず小さな歓声が弾けた。


(……Fランク! 夢にまで見た、冒険者のランク……! これから少しずつ上がっていく――いずれSランクにも……)


だが、同時に胸の奥に、昨日の門番での出来事がよぎる。

定着検査で測定不能になった時のことを 。

あの時の焦りと無力感が、今も微かに心に残っている。


(……でも、もしここでも登録できなかったら……どうしよう……)


ソラは淡々と頷きつつ、内心では少し緊張していた。


(……カナタの魂、きちんと登録できるだろうか……まだ完全にはこの世界に定着していない。でも、昨日よりは乱れが落ち着いている。今は私が少し抑えているから、きっと大丈夫……)


ソラはそっとカナタの手を握り、落ち着いた声で続ける。


「落ち着いて。カナタの力は、測定すれば正しく記録されます。私がそばにいますから」


その言葉に、カナタは少し胸を撫で下ろした。


「……はい、分かりました。お願いします」


胸の奥で、わずかにドキドキと高鳴る感覚。

冒険者もの小説で何度も目にしたランク――Fから始まり、経験を積めば上がっていく――その一歩を、今、自分で踏み出す瞬間だった。


だが、胸の隅には小さな不安も残る。

もし、門番の時のように魂の登録がうまくいかなかったら━━という恐れ。

それでも、憧れてきたギルドランクが目の前にある現実が、わずかな心の不安を押し返す。


ソラは内心で小さく息を吐き、気持ちを再び整える。


(……カナタの魂は強すぎる部分もあるけれど、今は安定している。この状態なら登録できるはず……)


その手のぬくもりに支えられ、カナタはゆっくりと深呼吸を一つ。


「……やっぱり、ここまで来てよかった。夢にまで見たFランク……少しずつでも、いずれSランクになれるかもしれない」


ソラは微笑み、心の中で自分を励ますように囁いた。


「大丈夫。落ち着いて、今は私がそばにいる。順調に登録できるよう、導きます」


カナタはその声に、少し頬を赤らめつつ、小さく頷く。


「……はい、お願いします」


二人の間に流れる空気は静かでありながら、どこか温かい。

カナタの胸には期待と緊張、そしてわずかな不安が入り混じる高揚感。

ソラの胸には、守らなければならないという覚悟と緊張がある。


「さあ、魂の登録を始めましょう」


受付嬢が手元の簡易測定装置を指し示す。

小型の装置はカナタの前に置かれ、魂の輪郭を読み取るためのセンサーが微かに光る。

門番の時の失敗が頭をよぎるが、今はソラがそばにいる。

少しだけ心が軽くなる。


ソラはカナタの肩をそっと支え、視線を落として言葉をかける。


「落ち着いて。深呼吸して、自然に魂を装置に委ねてください」


カナタはうなずき、心を落ち着ける。


長い間、体も魂も縛られていた世界からの解放感が、今、静かに胸の奥を満たしていく。

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