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第5-5話「石壁の街」ーようこそ、インテルムへ

街へと足を踏み入れた瞬間――

胸が高鳴る感覚は、カナタにはなかった。

むしろ頭の中が一瞬、真っ白になる。


石畳の上を行き交う無数の足音。

聞き慣れない言語の響き。

金属が擦れる音、羽ばたきの音、角や鱗が光を反射する背中。

かつて画面や文字で見てきた“異世界”の光景が、距離ゼロで押し寄せてくる。


(……すごい)


思考するより先に、感覚が圧倒された。

憧れていた光景だ。

しかし今の自分は観光客ではない。

門での魂定着の検査。

測定器が止まり、行政天使が一瞬フリーズし、上位の監査官が呼ばれたあの流れ。


(測定不能……)


その言葉の重みを、カナタは理解していた。

物語の中で規格外とされる存在は、決して“普通”ではない。

想定外、管理外。

運が良ければ特例、悪ければ危険因子。

今は、何も目立つ行動をしてはいけない。

視線を彷徨わせず、驚きを声に出さず、知識があることも悟らせず、慎重に。


無意識にカナタは、ソラの半歩後ろに位置取った。

守られているというより、秩序の中に溶け込み目立たない位置を選んだ結果だ。


「……ようこそ、インテルムへ」


ソラの声で、はっと意識が戻る。


「ここは外周縁に属する中規模街です。交易、滞在、登録――すべてが初心者魂向けに整備されています」


街の立ち位置、機能、対象層――

正確で簡潔な情報が、カナタの耳に自然に入る。


視界に広がる石畳や行き交う人々、小さな飛行生物――

すべてが、ソラの言葉とぴったり重なるように見えた。

この街の秩序や構造が、一目で理解できる。


慌てて動く必要はない――

そう、カナタの意識は落ち着きを取り戻す。


多種族が行き交う街の喧騒の中、カナタは目立たない位置を意識しながら、ソラの後ろ半歩に立つ。

守られている感覚ではなく、自ら存在を消すための行動だ。

ソラは半歩後ろから、一瞬だけカナタの背中を確かめる。

何も言わず、何も触れず、歩調を合わせる。

案内天使としての配慮は、彼に悟られず、自然な動作のように見える。


街の景色は、過去に見たことのある異世界とは似て非なるものだった。

遠くの塔の輪郭、広場を彩る光の粒子、空を舞う鳥や飛行生物。小さな光や影が、視界の端で微かに揺れ、都市全体が生きていることを示している。


カナタの視線は一度、石畳に落ちる。

足元の感触も、生まれて初めて経験する。

重さと反発、微かに揺れる砂利や光の屈折。

感覚がひとつずつ情報を送り、頭の中で整理される。


(……この世界で、自分は本当にやっていけるのか……?)


不安が胸をよぎる。

しかし、同時に冷静な判断も働く。

ここで目立たず、街の秩序に溶け込み、慎重に進む。

その選択以外、方法はない。


ソラは短く息を整え、微かに肩の力を抜く。

半歩後ろから、カナタの動きに合わせる。

案内役としての存在感は消しつつ、彼の安全を確保する。

そのために、自らの魂の力を慎重に制御している。


二人の背中を包むように、街は淡く光り、秩序ある喧騒を保つ。インテルムは何も知らない二人を、今日も変わらず迎え入れ、動き続けていた。


カナタの胸の奥には、まだ憧れの余韻が残っている。

だが、今はただ――生き残るために、目の前の道を歩く。

ソラの影を頼りに、半歩後ろの位置を守りながら。

初めての狭間の街歩き――その感覚は、恐怖でも興奮でもなく、静かで確かな覚悟と慎重さに彩られていた。


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