震
三題噺もどき―ななひゃくななじゅうよん。
はた、と。
目が覚める。
何かが頬を伝う感覚があった。
「……、」
少し、息が苦しい。
整えるほどのものでもないけれど。
やけに、呼吸がしづらい。
「……、」
汗をかいていたらしい。
冷えた空気が、更に体温を奪っていく。
雪の中に放り出されたように、体が冷えていく。
「……、」
カチカチと時計の音が聞こえてくる。
ザワザワと人の話し声が聞こえてくる。
ドクドクと血の流れるような音が聞こえてくる。
「……、」
きっと、とうに起きる時間を過ぎている。
教室から飛び出た子供たちが帰る時間になっている。
流れるこれは、心臓の動く音なんかではない。
「……、」
視界に広がる天井には、一筋の光が差していた。
カーテンの上の方から入り込んできたのだろう。
橙色に染まる街は、この色で満たされている。
「……、」
視界をずらせば、空になった鳥籠が見える。
空虚な冷たい空気だけが居座る、何もいない鳥籠が。
そこに居るはずの姿が、どこにも見えない鳥籠が。
「……、」
いつものことだ。
いつもの事なのに。
―昨日から、どうにも調子が狂う。
「……はぁ」
9月の終わりごろ。
フルートの音共に、私の前に現れたアレ。
その後も何かと意味もなく、目の前に現れては何もせずに消えていた、アレ。
「……」
昨日。
また出たと思えば。
理解しようもないことを言い放って消えたアレ。
「……」
事実かどうかは分からない。
しかし、あの人ならやりかねないから、どうにも。
殆ど関係は切っている。絶縁状態もいいところなのだ。
それでもあの人は、私を最高傑作だなんだと手放したくないらしい。だから、逃げながら暮らしていて。ようやく落ち着いてきたところで。
厄介ごとを、持ってきたらしい。
「……」
私には関係のないことだ。
そうではある。すべて無視してしまえば、どうでもいいことなのだ。
それでも、それでも。
「……」
身体が小さく震える。
それは、寒さにか。
それとも別の、何かにか。
「……」
どうして、こうも。
何かが、頭のどこかに居る。
怖い……わけでも、恐れているわけでもないはずなのに。
「……」
空の鳥籠が揺れる。
時計の針が、お構いなしに進んでいく。
私は、どうしたのだろうか。
「……」
私は、わたしは。
どうしたら。
「―ご主人」
「……」
ぼやけ始めた視界の中に。
見慣れた顔が入り込む。
聞き慣れた声が頭に響く。
「……おはよう」
はたして、いつも通りできただろうか。
昨日の事は、言ってはいるけれど。
「……おはようございます」
んん。あまり芳しくなかったらしい。
そうでなくても、すぐばれるのだけど。
「……朝食、できてますよ」
「あぁ、今行く」
大丈夫。
私には、家族が居る。
「……ごしゅ「ん、今日は和食か」
「……えぇ、たまには」
「……大丈夫だよ」
「……ならいいですけど」
お題:雪・フルート・教室




