第一話 魔女っ子との邂逅
頑張る
目標は9月中に完結させること
元の世界での俺は、常に満たされていた。
飯はいつでも食えるし、友達も人並み程度には、まあ、いた。
ただどこか物足りない。
何か、猛烈に追い求めるべきものがあるんじゃないか?
それがないと生き死にが問われるような激烈な何かが———。
そんなことをあーだこーだとかんがえていたせいか。
はたまたその時ドナドナ的な曲を聴いていたせいか。
信号無視して突っ込んできたトラックにひかれた俺は、生死の境をさまようどころか、走り幅跳びの如く、その先まで飛び込んでしまい、、、。
なんの因果か来世までドナドナされてしまったのだ。
———モバイル充電器として。
おじいちゃん神様にリア充になりたいとかいう難しいお願いをしたのが良くなかったのか!?
それとも俺の滑舌がそれほど良くなかったこと!?
それともおじいちゃんがモゴモゴ言っているのを、じつはぜんぜん聞こえてなかったのに、もう3回聞き返してたせいで言い出しにくいからってききかえさなかったからかな!?
なんとなく雰囲気聞いてる感じだけ出してた俺も悪いけども!!
えーというわけで早速ピンチです。はい。
上方確認!知らない天井です!
左右、前後ろ。ファンタジックな遺跡!宝箱とかありそう!でも人いなそう!!
いわゆる迷宮的なアレだね!
そして遠くでなんか唸り声してるなう。
と、うん、足音?
「あっちょおおおお。もう魔力ないのに!!獣系は守備範囲外!流石に無理!無理無理無理無理!!!」
なんかきた。
魔法使い風の女の子だ。とんがり帽子は被っていないけど羽織ってるローブがなんか力滲み出しててかっこいい。ちっちゃなおててに革手袋をしている。
そして後ろからドタドタと追いかけてきているのはでかい猿。
妙に息が荒いが、獲物を追っているというだけが理由ではなさそうだ。
ビッグなサルのビッグなサンがぷらぷら、というかぶんぶんしているさまから目を背けつつ———目、ないけどなんか見えてる———俺は女の子を助けることにした。
とは言っても俺はニョキッと足を生やせるわけで
もなさそうなのだが———。
「ア、あーあー。本日は、、、あー応晴天なり、でいいのか?」
———声は出るようだ。目と同様、口がどこに有るのかはわからないが、声が出るなら都合がいい。
「おい!聞こえるか!」
「は?え?誰かいるの?助けて!!」
「おいこっちだ!下!下みろ!!」
キョロキョロ周囲を見回していた魔女っ子の視界がこちらを捉える。
地べたにおかれていた俺を発見した彼女は俺の上で足を止めた。
俺は地面に置かれているせいで視点が低かった。 まあ、つまりは短めのスカートの中が丸見えだったのだ。
ほう、縞々の綿パン。なるほどね。うんうん。
「は?何?ミミックの子供?」
「ちがわい!」
魔女っ子はパツキンに青い目をしたキュートガールだった。ちょびっとつり目な西洋人形のような顔をしている。
近くから見ると魔女っ子は16か7くらいに見える。もしそうなら同い年だな。
「だけどミミックってしゃべらなかったはずだけど、、、」
「おい!悠長にしている場合か!』
はっと俺に言われて後ろを振り向いた彼女は、でかい猿が想像よりも近づいていたことに気づき、目を見開いた。
「やばっ。こんなのに構ってないで逃げなきゃ!」
「ちょ、まっそこは」
一段下がって段差になってる———。と言いたかったのだが、見事に足を引っ掛けてこけてしまった。
うわ、あれはまじ痛そう。そしてスカートが短めだったせいでめっちゃめくれている。
「いったー。って、ヒッ!」
顔をあげた彼女の目の前には息を荒らげた猿が一匹。
彼女に向かって今まさに手を伸ばそうとしている。
「やめてっ!」
そう言いながら近くの小石をパラパラと投げるも、全く痛痒を感じた様子のない猿はゆっくりと彼女の足に手を伸ばしてくる。
と、そのとき半狂乱になった彼女の手の先が俺に触れた。
「おい!落ち着いて俺を投げろ!急所にぶち当てれば怯むはずだ!」
その声が聞こえたのか聞こえなかったのか、彼女はほかの小石と同じように俺を投げた。
放物線を描いて宙を舞った俺は、吸い込まれるようにして猿にぶち当たった。
ジュッと音が鳴り、猿が凄まじい悲鳴をあげる。
「GYAAAAAA!!!」
そのまま猿は一目散に逃げ出していき、その姿はすぐに通路の奥へ見えなくなった。
「た、助かった、の?」
ゆうに30秒ほど立ったのち、ぽつりとつぶやいた彼女は仰向けに地面にばたりと倒れ込んだ。
「ああ、充電直後のモバ充よりも熱いものなんて、この世にないからな」
そう、俺はさっきこの世界に生まれたばかり。つまり、コンセントから外した直後のモバ充だったのだ。
充電を終えたばかりのモバ充。それはE=MC^2の法則を超越する。
いわば世界の法則の例外、アインシュタインが己の無双した宇宙を実現させるために書き加えた宇宙項のように。まあそれはそうとして。
「大丈夫か?」
「えっとモバ充ってのがあなたの名前?ていうか、あんたって結局なんなの?助けてもらったからにはなんかお礼はしたいんだけど、、、」
「ああ、自己紹介がまだだったな———」
魔女っ子はクプラと名乗った。
彼女は依頼を受けて遺跡を探索していた駆け出し冒険者らしい。本来は複数人でパーティーを組むはずなのだが、彼女は色々あって今はソロ活動をしているという。
道に迷っているうちにリビドンキー———さっきのでかいサルの名前らしい———に見つかってしまったそうだ。
「へー別の世界から、ねえ」
「というわけで俺は自分で動けない。あんたの旅に連れて行ってくれないか?」
「別にそんくらい構わないけど、薄くて大して嵩張るわけでもないし。あ、でも人前であんまペチャクチャしゃべらないでよ?」
「ああ、もちろん」
と、そんな会話をしながら俺たちは遺跡から入り口に向かっていた。
俺たち、とは言っても実際は歩いているのはクプラだけで、俺は手で持って運ばれているのだが。
「なあ」
「なに?」
「手で持ってるんじゃなくて、バックとかに入れたほうがいいんじゃないか?」
それなりに時間が経って、もう素手で触れても大丈夫なくらいには冷えている。
少し前まではバックに入れるにはやや不安になる熱さだったのだ。
「———まあ、確かにもう手で持ってなくても荷物は燃えなさそうだし、ね、、、」
さっきリビドンキーに投げた時は、一瞬しか持っていなかったにも関わらず、革手袋の表面が若干溶けてしまったのだ。
耐火の結構いいお値段する手袋だったのに、とかなり哀しそうな顔をしていた。すまぬ。
「なあ」
「なに?」
「もう一つ聞きたいんだが、もう少しちゃんと持った方がいいんじゃないか?落ちて角が欠けたりしたら痛そうだし」
さっきから視界が不安定なのだ。はっきり言うとプラプラ揺れてて怖い。
「えーと、あ。さっき思いっきり投げさせといて今更落ちるかもって気にするの?」
「うーん、いや、そこが本題じゃなくてさ。その———」
おれは少し逡巡したのちに言う。
「汚いもの持つ時の持ち方やめてくんない?」
クプラは俺を親指と人差し指の先っちょだけで持っていた。いわゆる鼻噛んだティッシュとかの持ち方である。
「———まあ」
「いや、わかるけど。気持ちは」
あの時猿に投げられた俺は確かにアツかった。だけどそれだけではあのでかい猿は逃げない。俺があの時言った通りに見事弱点に当たって怯んだから、だから奴はあの時逃げたのだ。
そう、あの猿の弱点にモロに当たったわけである。
クプラはすこし気まずそうに明後日の方向を向いた。
「だってさ。めっちゃアソコにあったってたじゃん。ばっちい」
「ばばば、ばっちい言うなし!」
俺の気持ちも考えてみてくれ。なにが悲しくて猿のゴールデンボールにぶつからねばならないのか。 前世から女の子から汚いもの扱いをされるのに慣れていたとはいえ、モロ汚物扱いはなかなかに応えるものがあるな、、。
「あっ出口!」
「おい誤魔化すな。全然出口じゃないだろあれ!」
結局回復した魔力て水を生み出してから濡れ布巾でふいた。
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