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第43話 狐舞の祭り、神の光

 幻影が消え去った広間には、静寂が戻っていた。


 檻の中から出た白狐の姫は、サクラのもとへ歩み寄り、その身をすり寄せる。

 白く柔らかな毛並みから、温かな光がにじんだ。


「……ありがとう」


 声にならぬ声が、心へ直接響くようだった。


 親分タヌキは腹をさすりながら、ふらふらと立ち上がる。

「も、もう無茶はせん……。わしは芸人の道に生きるでごわす……」


 そう言って、情けなく頭を下げると、影のようにすごすごと退散していった。


「最後までオチ要員ね……」

 サクラが思わず苦笑する。


―――


「おっ、モチが光ってる!」

 タケルが叫ぶと同時に、モンマスの画面に通知が浮かんだ。


モチのレベルが上がりました。


 モチの体がひときわぷるんと弾み、タケルの腕にしっかりしがみつく。

 以前よりも重みがあった。


「おお……なんか頼もしくなったな!」

 タケルは笑顔で頬をこすった。


「アクセス! ステータス表示!」


 モンマスがタブレット型に変形し、宙に光のパネルが浮かぶ。

 そこにモチのステータスが表示された。


【モチ:レベル4 → レベル5】

【新スキル《弱点攻撃》を習得】

効果:簡易発現で見抜いた弱点を突くと、追加ダメージを与える。


「すげー! 親分タヌキの腹攻撃で覚えたみたいだな!」

 タケルが目を輝かせる。


「良かったね、モチ。すっごく嬉しそう」

 サクラが撫でると、モチはぷるんと震えて、嬉しそうに跳ねた。


「戦いで新しい技を覚える……これは大きな情報だな」

 アキラが冷静に頷いた。


―――


 白狐は仲間たちを光で包み、鈴のように透き通った声で鳴いた。

 その光は心を撫でるように優しく、誰もが自然に息をつく。


 チヨは深々と膝をつき、頭を下げた。

「姫を救えて……ほんに良かったでごじゃる」


 サクラがそっと肩に手を置く。

「よく頑張ったね、チヨちゃん」


 その言葉に、チヨの心がじんわりと温かくなる。


―――


「拙者は忍者の務めとして、変化キツネ衆の里に戻らねばならぬでごじゃる」

 チヨが決意を込めて言う。


「オレたちも家宝を取り返したし、ハルネ村に渡さなきゃな」

 タケルが家宝を抱え直した。


「短い間だったけど……仲間って呼んでもらえて、嬉しかったでごじゃる」

 チヨの声は少し震えていた。


「来たいなら、この先も一緒に行ってもいいのよ?」

 サクラの言葉に、チヨははっと目を見開く。


 チヨは目を伏せ、そして顔を上げた。

「……そんなふうに言われたのは初めてでごじゃる。でも、拙者は白狐の姫を守ると決めた。だから……一緒には行けぬでごじゃる」


 そして小さく笑って付け加える。

「明日のハルネ村の祭りには、拙者ら変化キツネ衆も参加するでごじゃる。姫の舞は必見でごじゃるぞ!」


 白狐と共に背を向けるチヨの目尻に、一筋の光が滲んでいた。


「……チヨちゃん、最後泣いてた」

 サクラが小声で呟く。


「白狐の姫を取り返せて、嬉しかったんだろ」

 タケルはそう言って、腹を鳴らした。


「もうお腹ぺこぺ〜! 早く村に行こうぜ!」


―――


 ハルネ村に戻ると、家宝を取り戻したことに村人たちが大喜びした。


「おばあちゃん、家宝取り返してきたぞ! もうなくすなよな!」

 タケルが家宝を差し出すと、村のおばあちゃんは手を震わせて受け取った。


「お前さんら……ほんにありがとう。この村にいる間は、食べ物と寝床は任せなさい」


「やったー!」

「ありがたいな」

「せっかくだし、明日の祭りを見てから出発しましょう」


 三人は思わず顔を見合わせ、笑った。


「推薦申込書の提出まで、残り十二日!」


―――


 翌日。


 村中に赤や金の灯籠が吊られ、夜空を色鮮やかに照らす。

 笛の高音と太鼓の重低音が掛け合うように鳴り響き、子供たちの笑い声が飛び交う。


 屋台では焼き魚の香ばしい匂いと甘い団子の香りが混じり合い、祭りの熱気に包まれていた。


「焼き魚串三本ください!」

「はい、三本で33ミラ!」

「いや語呂合わせかい!」タケルが即ツッコミ。


「ほらタケル、りんご飴もあるよ!」

「それ、モチが食べたらくっつくやつだろ!」


 どこか文化祭のようなにぎわいに、サクラも思わず笑顔を見せた。

「こういう時間……いいね」

「戦いの後だから余計にな」アキラも微笑んだ。


―――


 広場の中央には立派な社が立ち、巨大な太鼓が据えられている。

 その前に立っていたのは――親分タヌキだった。


「おい! また出やがったな!」

 タケルが眉をひそめる。


「追い出すぞ」

 アキラも腰に手をかけた。


 だが親分タヌキは慌てて手を振った。

「ち、違うんす! 昨日キツネ衆の里に謝りに行ったら、長老に“祭りを手伝え”って言われまして……太鼓を叩いてるだけっす!」


 ドンドコドン、と腹鼓ならぬ太鼓を叩いてみせる。

「芸の道は険しいのじゃ……。次は腹鼓からロックに転向するでごわす!」


「ステージドラムじゃねぇか!」タケルのツッコミが炸裂。


 観客の笑い声が広がり、親分タヌキは照れながらも誇らしげに胸を張った。

「これからはキツネ衆と共に、この森を守るでごわす!」


 その真剣すぎる顔に、タケルもサクラもアキラも思わず吹き出してしまった。


 サクラが笑みを浮かべる。

「ほんとに改心したんだね」


―――


 そのとき。


 空から神々しい光が降り注ぎ、広場全体を白い霧が包んだ。

 笛の音が止み、村人たちがざわめく。


「な、なんだ……!?」

 タケルが声を上げる。


 霧の中から白狐の姫が姿を現した。

 その体は淡い光に包まれ、やがて人の姿へと変わっていく。


 妖麗で神秘的な女性がそこに立っていた。

 その一歩ごとに、灯籠の炎が揺れ、夜の祭りが神聖な舞台へと変わっていく。


 白い花びらが空に舞い上がり、光の花がひとつ、またひとつ咲いていく。

 まるで夜空そのものが、姫の舞とともに息づいているかのようだった。


 村人も旅人も、誰もが息をのんだ。

「おぉ……」と誰かが漏らし、子どもたちが笑顔で手を振った。


 白狐の姫は優雅に舞い、やがて光の花びらが村全体を包み込む。

 その瞬間、冷たい夜風がふっと和らぎ、誰もが心の奥から温かさを感じた。


「これが……神の光……」サクラが呟く。

「すげぇな……まるで夢みてぇだ」タケルが見惚れる。


 その存在は神秘的で、ただそこにいるだけで場の空気を一変させるほどの威光を放っていた。


―――

つづく


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