第40話 廃寺の怪と変化タヌキ衆の罠
道の先の扉を押し開けると、中は赤い提灯の灯りに照らされていた。
だがその灯りはどこか不気味で、壁や柱に映った影が勝手に揺らめき、まるで生き物のように動いて見える。
「うわっ! 今、動いたぞ!」
タケルが飛び退いた。
「ビビりすぎ」
サクラが冷たく突っ込み、アキラは低く言った。
「落ち着け。タヌキ衆の幻影だ」
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広間の中央には奇妙な祭壇があった。
そこには、村から奪われた家宝らしき光る宝玉が安置されている。
「やった! これで……!」
タケルが勢いよく駆け出し、宝玉を掴んだ──その瞬間。
ゴゴゴ……!
床がガラリと崩れ、煙が噴き出す。
落とし穴がいくつも口を開け、辺りは混乱に包まれた。
「ぎゃああああ!?」
タケルが慌てて飛び退く。
「だから突っ走るなって言ったでしょ!」
サクラの怒声が飛ぶ。
「ふむ、忍者屋敷的仕掛け……おもしろいでごじゃる」
チヨだけが目を輝かせていた。
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ドンッ! ドンドンッ!
腹鼓が鳴り響き、奥の闇から影がうごめく。
「ケケケッ! ようこそ我らの遊び場へ!」
現れたのは、腹を揺らして笑う親分タヌキだった。
「ここから先は幻影地獄でごわす! 楽しんでいけ!」
周囲にタヌキの幻影が次々と増え、数十体が三人とチヨを取り囲む。
「ちょ、ちょっと多すぎない!?」
サクラが悲鳴を上げる。
アキラがすぐさまモンマスを展開した。
「アクセス!」
タブレット状に変化したモンマスを掲げる。
「行け! クロウルガー!」
黒い狼型ミラモンが閃光と共に飛び出し、低く唸り声をあげた。
サクラも負けじとモンマスをかざす。
「アクセス! リリーフェア!」
光の花びらが舞い、妖精型のミラモンが現れる。
「よっしゃ! 俺も!」
タケルも慌ててモンマスを展開する。
「アクセス! モチ!」
白い光とともに出てきたのは──床にごろりと転がり、あくびをしているモチだった。
「……おい。もっち〜今じゃねーだろ! お前の名誉のために戦えって!」
タケルが叫ぶ。
だがモチはのそのそ歩いて幻影のタヌキに近づくと、ペチンと軽く手を突いた。
ボゴォ!
幻影が一撃で吹き飛んだ。
「……えっ、強っ!?」
タケルが目を丸くする。
「ギャップ萌えでごじゃるな」
チヨが感心していた。
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クロウルガーは鋭い鼻を利かせ、本体と幻影を嗅ぎ分ける。
リリーフェアは光の花びらで辺りを照らし、偽物の影を消し去っていく。
「今だ、クロウルガー! 本体を仕留めろ!」
アキラが鋭く指示を飛ばす。
「リリーフェア、光でサポートして!」
サクラも声を張った。
リリーフェアの放った光が、タヌキ衆の目をくらませる。
そこへ、モチが飛び跳ね、本体のタヌキを体当たりで吹っ飛ばした。
「ナイスだ、モチ!」
タケルが歓声を上げる。
さらにチヨもポーズを決めた。
「忍法! 影しっぽ手裏剣!」
しっぽを投げつける……が、普通にポンと当たっただけだった。
しかしミラモンたちの連携のおかげでトドメとなり、残っていた幻影が一気に消し飛んだ。
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「クゥーン……」
戦いの最中、奥から白狐のか細い鳴き声が響く。
「助けを求めてる……!」
サクラが真剣に声を震わせた。
親分タヌキはニヤリと笑う。
「ケケケッ! ただの狐だと思うか? この姫の力を知れば震え上がるぞ!」
アキラは低く呟いた。
「……ただの救出じゃ済まないかもしれない」
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白狐の鳴き声が奥から響いた直後──。
「ケケケッ……見せてやろう! 姫の力をな!」
親分タヌキが腹鼓を鳴らすと、消えたはずの幻影が再び膨れ上がった。
しかも数は倍以上、動きもさっきより素早くなっている。
「まさか……白狐の力で幻影を強化してるの!?」
サクラが息をのむ。
「ケケケッ! ようやく気づいたか!」
親分は腹を揺らして嘲笑った。
その時、チヨが前へ飛び出した。
「ここは拙者が──忍法、しっぽ影走り!」
勢いよく駆け出したチヨの足元が、ガコンと沈む。
「えっ……なに!?」
床板が外れ、吊り網の罠がガシャーン!と起動。
チヨはそのまま天井へと吊り上げられてしまった。
「くっ……忍者である拙者が……罠に引っかかるとは、不覚でごじゃる!」
逆さ吊りになってバタバタと暴れるチヨに、親分タヌキは腹を抱えて笑う。
「チヨ! お前、忍者じゃなくて吊るされた魚だぞ!」
タケルが思わずツッコむ。
「う、うるさいでごじゃる!」
逆さ吊りのチヨが必死に反論する。
「ケケケッ! これぞ幻影屋敷タヌキ流のおもてなしよ! 姫も、この忍者娘もまとめて人質にしてやる!」
「ケケケッ! 宴の始まりよぉ!」
親分タヌキの嘲笑が響き渡る。
「チヨちゃん!」
サクラが叫ぶ。
「これはまずい……!」
アキラの表情も険しくなる。
奥の扉がギィィ……と開き、親分タヌキの声が響き渡った。
「追いたければ来い! 姫も、この忍者娘を返してほしければな」
「これは……罠でごじゃる!」
チヨが声を上げた。
白狐の鳴き声と、チヨの「助けは不要でごじゃるぅぅ!」という情けない叫びが重なる──。
「だが行くしかない」
アキラが冷静に言い切る。
三人は奥へ飛び込むしかなかった。
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つづく。




