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第04話 選ばれる道

 山神殿の広間に静けさが戻る。

 人々の視線は中央に立つ神官へと集まった。


「──こほん。それでは、ここからが肝心じゃ」


 低く響く声に、子どもたちは息を呑む。


「モンマスには“適道”というものがある。人の進むべき道を示すものだ。大きく三つ──バトル、ミラリンピック、育成。そして……稀にしか開かれぬ第四の道、“試練の階層”。ただし試練は、今はまだ選ぶことはできん」


 子どもたちがざわめき、観客の大人たちもうなずきあう。


「バトルは──己のミラモンとともに戦いの頂点を目指す道。力と技を磨き、世界大会に挑む者もおる」

「ミラリンピックは──速さ、力、知恵。あらゆる競技でミラモンと人がともに限界を試す祭典じゃ」

「育成は──磨き上げたミラモンで世界を彩る道。己の感性と努力次第で、その姿は芸術にも、学問にも、未来を変える力にもなる」


 一つひとつの言葉が、未来を夢見る子どもたちの胸を熱くする。

 だが、タケルの胸には重い影が差していた。自分だけ「適道なし」──その現実が心を締めつける。


「さあここでビッグサプライズだーーっ!」


 突然、辺りが暗転。光の演出が走り、観客がざわめく。

「えっ、何だ!?」「停電!?」


 空から光のマイクが降り、ノリノリの声が響いた。

「バトル! ミラリンピック! 育成! 実況でおなじみ、DJ★ブレイズ登場ーー!!」


「うおおお! 本物だ!!」「すげぇーー!!」

 子どもたちの歓声が爆発する。


 DJブレイズは指を弾き、炎の柱を天へと打ち上げた。

「まずはバトル界のヒーロー! 燃える魂のリュウガと、相棒フレイムドラゴン!!」

 轟音と共に巨大な炎竜が姿を現し、観客の度肝を抜く。


 続けて、疾風をまとった光が宙を駆け抜ける。

「次はミラリンピックの女王! 風より速く、美しきマリアとウィンドランナー!!」

 風の尾が走り、子どもたちは「うわぁーー!」と目を輝かせた。


 最後に優しい光が広がる。

「育成界からは、ハートの女神・エミリとラブリーベアー!」

 観客席から「かわいいーー!!」の大合唱。


 大広間は最高潮の盛り上がりを見せた。

 神官が再び前に出る。


「DJブレイズ、感謝する。これでわかったであろう。それぞれの道の魅力が──それぞれの“道”が、いかに異なり、いかに尊きものであるかを」


 神官はゆっくりと杖を掲げ、静かに言葉を重ねた。

「そして、ここで皆に伝えておこう。三日後、再びこの山神殿に集まり、“適道の決定”を行う。一度選んだ道は、後から変えるのは難しい。それは“モンマスの魂”と、己の心を結ぶ契約だからじゃ。

 よく考え、己の想いに正直に答えを出すのだ。迷いがあってもよい。だが、逃げてはならん。己の信ずる道を選べ──それが“選ばれる者”の第一歩じゃ」


―――


 荘厳な声が山神殿に響き渡り、子どもたちの表情に緊張と覚悟が宿る。


 その夜。

 夕食の席で、タケルは箸を止めて黙り込んでいた。父が静かに問いかける。


「どうした、タケル」


 小さな声でタケルが答える。

「……バトル適道なくて、やっぱり不安なんだ。強く振る舞ったけど、本当は怖い」


 父は真剣な眼差しで告げる。

「人生には、複数の選択で悩む時が必ず来る。だがな──茨の道であろうが、自分が選んだ道を“正解”にすることだ」


 母もそっと言葉を添える。

「タケルならできる。母さんは信じているわ」


 温かい言葉に、タケルは小さくうなずいた。


 その夜、布団に潜り込んだタケルは、腕のモンマスを見つめる。

「……なあ、俺ってほんとにバトルに向いてないのかな」


 モンマスは沈黙したまま、薄く“ピッ”と光を一度灯したきり、何も答えなかった。

 静けさが、余計に不安を濃くしていく。


――三日後。


 再び子どもたちは山神殿に集められた。

 高い天井から差し込む光が神聖な空気をまとい、観客席は期待で満ちている。

 神官が杖を軽く鳴らす。


「これより──適道の最終決定を執り行う。順に申してみよ」


 最初に名を呼ばれたのは、桃坂サクラ。

 サクラが一歩前へ。胸の前で両手を重ねる。

「私は──育成を選びます!」


 サクラのモンマスがピンク色に脈打ち、花びらの粒子がふわりと舞う。

 空中に〈適道:育成 確定〉が浮かび上がる。

 観客席から「かわいい!」「似合ってる!」と拍手と声援が飛んだ。

 サクラは一瞬照れながらも、真っ直ぐに前を見据えた。


 続いて、神谷アキラ。

 アキラは眼鏡に指を添え、静かに息を整える。

「俺は──ミラリンピックを選ぶ」


 アキラのモンマスがキィンと澄んだ音を鳴らし、青い風の輪が足元を駆け抜ける。

 空中に〈適道:ミラリンピック 確定〉が浮かんだ。

 観客席からは大きな拍手。「さすがだ」「神谷家の子だな」

 アキラはわずかに口角を上げ、落ち着いた視線を前へ向けた。


 天城ヒカル。

 ヒカルは黄金のモンマスを掲げ、誇らしげに顎を上げる。

「俺が選ぶのは──当然、バトルだ!」


 その瞬間、空から稲妻が走り、ヒカルのモンマスが重低音で鳴動。黄金の光柱が立ちのぼった。

 空中に〈適道:バトル 確定〉が眩しく走る。


「うおおお!」「さすが! 十年に一人の逸材だ!」

 観客席が大歓声に揺れる。執事は目頭を押さえ、天城家当主は満足げに腕を組んだ。

 ヒカルは薄い笑みでタケルを横目に見る。


 残されたのは──タケル。


 広間が一気に静まり返る。観客たちの視線が、すべてタケルに集まった。


 タケルのモンマスがぼそりとつぶやく。

〈(おいおい……全員決めちゃったぞ。次はお前だ。胃に穴あくなよ?)〉


「う、うるさい……!」

 タケルは心の中で叫ぶ。


 観客の子どもたちがひそひそ声を交わした。

「タケルって、適道なしだろ?」

「どうせ育成に流されるんじゃね?」

「いや、バトルなんて無理無理!」


 くすくすと笑いが混じり、不安と好奇心が入り混じる視線がタケルを刺す。


 拳を握りしめ、唇を噛む。

(俺は──)


 ──その瞬間、場の空気が完全に凍りついた。

 誰もが、タケルの口から出る言葉を待っている。

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