第38話 忍者狐の案内と潜入作戦
木々の影から飛び出してきた小さな狐は、ひらりと宙返りし、人間の姿に変わった。
現れたのは──忍者装束をまとった小柄な女の子だった。
「わたし、変化キツネ衆の若き守り手──チヨでごじゃる!」
両手を交差させて忍者ポーズを決める。
「チヨ……忍者っぽい名前だな!」タケルが目を丸くする。
「ぽい、ではなく忍者そのもの! 影の者でごじゃる!」チヨは胸を張った。
「いやいや、どう見てもコスプレ……」
「そこ! 茶々を入れぬ!」と、サクラに頭を小突かれ、タケルは口をつぐんだ。
その様子を見ていた長老が笑った。
「このチヨは、数年前に人間界の大河ドラマ《忍者の里》をミラネット配信で見てから、忍者にハマってしまってな……しかし実力は申し分ない。案内役にうってつけじゃ」
「拝命仕るでごじゃる!」チヨは片膝をつき、手裏剣ポーズを決める。
サクラは不安げにチヨを見た。
「えぇ……忍者の子に任せて大丈夫なの?」
「大丈夫でごじゃる! 拙者の影分身──どやっ!」
チヨが得意げに紙人形を取り出す。
タケル「……ただの紙じゃねーか!」
サクラ「しょぼっ!」
「むむ、これは秘伝の忍法でごじゃる!」チヨが必死に言い張る。
長老は真剣な面持ちに戻り、言葉を続ける。
「タヌキ衆のアジトは護りの森の奥にある廃寺じゃ。やつらは家宝と白狐を利用して、明日の祭りを妨害するつもりだろう。だが、やつらの結界は強力で、わしらキツネ衆は近づけぬ。だからこそ、人間であるお前たちに頼みたい。チヨが結界の前まで案内しよう」
アキラは頷き、地面に地図を広げた。
「チヨが結界前まで案内。その後、俺たちは陽動と奪還に分かれる」
「案内役がいるなら進める。行こう」
タケルはわくわくと拳を握り、サクラはため息をつきながらもついていった。
◇
チヨは枝から枝へ、軽やかに飛び回りながら先導する。
「ひらり、ひらり。風のように──でごじゃる!」
「おおっ、すげぇ! 俺も!」
タケルも勢いよく飛び上がるが、枝にぶら下がりジタバタ。
「うおおおお! 落ちる落ちる落ちるー! 俺、忍者じゃなくて原始人だー!」
「バカッ! 静かにしなさい!」サクラが耳を引っ張って引き戻す。
森は奥へ行くほど不気味さを増していった。
風もないのに提灯が揺れ、鳥の声すら吸い込まれるように消えていく。
仕掛けられた罠や幻影が現れるが、チヨは素早く解除していく。
「忍法・罠外し!」(ただのロープ切り)
「……それ普通にハサミで切っただけだろ!」タケルが即ツッコミ。
「よいか、人間よ。これが忍の極意でごじゃる!」チヨはドヤ顔だ。
しばらく進むと、苔むした鳥居が姿を現した。
その奥には、朽ちた寺院のような建物がある。
割れた仏像や怪しい提灯が飾られ、まるで妖怪屋敷のように不気味な雰囲気を漂わせていた。
「うわ……まじでホラー屋敷だろ、ここ」タケルが身をすくめたその時、アキラが立ち止まった。
「待て。この前に……結界が張られてる」
確かに、空気が張り詰めるように揺らめいている。
サクラは不安げにチヨを見た。
「でも、チヨちゃん……普通に立ってるよ?」
チヨは得意げに胸を張った。
「ふふん♪ 忍者は影のごとく……結界もすり抜けるでごじゃる! ……たぶん」
「やっぱり自信ないんじゃねーか!」タケルが即座にツッコむ。
◇
先に進むと中からは、ドンドンと腹鼓のような音が響いていた。
それに混じって、小さな白狐のか細い鳴き声が聞こえる。
サクラは真剣な表情になった。
「……急がないと」
アキラは低くつぶやいた。
「ただの救出じゃ済まないかもしれない」
チヨはくるりと宙返りして着地し、ポーズを決めた。
「任務開始! しっぽ忍法で必ず突破してみせるでごじゃる!」
ぶんぶんと尻尾を振り回す。
「うわっ、やめろ! 殴られてるって!」タケルが慌ててよける。
その後ろで、タケルがぽつりとつぶやいた。
「……なぁ、これって絶対ホラー展開じゃないよな?」
三人とチヨは目を合わせ、決意を固めた。
廃寺の扉がギィィ……と音を立てて開く。
中からは冷たい風と、低い笑い声が漏れた。
変化タヌキ衆のアジトへ──潜入が始まる。
つづく。




