第34話 ギルドでの説明と旅支度
──翌日。
タケル、アキラ、サクラの三人はギルドの広間に集まっていた。
机の上には、昨日先生から渡された推薦入試の申込用紙が並んでいる。
「うぅ……ほんとに提出するんだな」
タケルが情けない声を漏らす。
「当たり前だ。チャンスをもらった以上、やるしかない」
アキラは真剣な顔で返す。
「タケル、ちゃんと名前書き忘れてないでしょうね」
「だ、大丈夫だって!」
三人が用紙を差し出すと、ギルド長ガロスが深く頷いた。
「ご苦労だった。──さて説明しよう。お前たちが受験するのは《グランディア中央学院》だ。その場所は中央都市にある」
タケルがごくりと唾を飲み込む。
「中央都市に辿り着くには、村を二つ、町を一つ超えねばならん。……最短ルートを通れば、およそ十日ほどだ」
「十日……結構かかるんだな」
「それと注意しろ。特に“二つ目の村から三つ目の町”は危険地帯。《ログアウト不可区域》だ。野生ミラモンの群れが徘徊している。道具の準備は欠かせん。新人なら護衛をつけるのが普通だ。料金は三千ミラだな」
「ご、護衛……! それなら安心だね!」
サクラも少し考え込む。
「確かに、無理して危険を冒す必要はないかも……」
だが、アキラが首を振った。
「いや。推薦入試を受けたいなら、自分の力で突破できるくらいでなきゃ意味がない」
「う……そ、そうだよね……」
そのやり取りを、後方で腕を組んで聞いていたヒカルが鼻で笑う。
「フン。やっぱ雑魚はすぐ護衛にすがるよな。──中央都市まで辿り着けない推薦生なんて、笑い者だぞ」
「ガーン!!」
「……ちなみにもう一つ、安全なルートもある。遠回りだが初心者でも進める。だが──三十日から五十日はかかる。ギルドに受理された“推薦入試の申込書”を、期限までに中央学院へ届けられなければ“不戦敗”だ。」
タケル「期限って……あとどれくらいなんですか?」
ガロスは重い表情をして答えた。
「今回、お前たちは“異例扱い”だ。
本来の推薦生の枠はすでに申請済み。……だから追加申請の提出期限は 十四日後 。しかも追加の提出は“直接中央学院”へ行く必要がある」
タケル「じゅ、十四日……」
サクラ「どうして、こんなにギリギリなの?」
「まず──今年の推薦枠はすでに選定・登録が終わっていた。
本来は──
① 学校が“推薦したい生徒”をギルドに申請
② ギルドがミラネットで中央学院へ仮予約
③ 生徒の推薦申込書を見て《推薦入試/推薦入学/なし》に振り分ける。
……という流れだ。だから例年、一ヶ月以上の余裕がある」
アキラ「……じゃあ、ヒカルは?」
「ヒカルは学校の事前連絡があり、すでに推薦枠を予約していた。今回は《推薦入学》扱いで最終申請も済んでいる」
タケル「じゃあ、俺たちは……?」
「異例だ」
ガロスは短く切り込む。
「ブロルホーン討伐での貢献度を受け、ギルドから学校へ“この三人を推薦したい”と通知した。だがその時点で推薦枠は完全に固まっていた。……結果、厳しいスケジュールのまま受験することになった」
三人は顔を見合わせる。
「最短ルートを進めば十日で中央都市。……それでもギリギリ」
タケル「……つまり、危険でも最短ルートを行くしかないってことか」
ガロスは深く頷いた。
「そうだ。間に合わなければ、その時点で“不戦敗”。推薦は無効だ」
サクラ「そんな……」
「だが、これは《試験前の試験》でもある。
覚悟があるなら──必ず突破できる」
⸻
──ミラ市場。
入った瞬間、鼻を突くのは匂いの洪水だった。
炙った《クリスタル茸》の香ばしい匂い、干した《ウロコ魚》、発酵果実酒の甘酸っぱい香り……。
屋根には色とりどりの布がはためき、屋台の看板はモンスターの発光器官を乾燥加工した
ランプでキラキラと輝いている。
水桶の中では《バブル貝》がぷくぷくと泡を吐き、まるで天然の冷蔵庫のように食材を冷やしていた。
「うわっ……! 見てよ、あれ!」
タケルが指差した先では、《ホロホロ鳥獣》の串焼きがジュウジュウと音を立てている。
皮は黄金色にパリッと焼け、噛めば肉汁があふれ出しそう。香草の香りが風に乗り、三人の腹を直撃した。
「……おいしそう」
サクラが小さく呟く。
「今は買い出し優先だろ」
アキラが冷静に返す。
「でも……旅立つ前に一口だけ!」
小銭を握りしめ、タケルは屋台へ駆け出す。
サクラはため息をついた。
「はぁ……ほんと、食いしん坊なんだから」
「まあ、あいつらしいけどな」
三人は市場を回りながら、それぞれの個性を見せる。
サクラは包帯を手に取り、真剣な顔で交渉する。
「まとめ買いなら、もっと安くなるはず」
「……嬢ちゃん、目利きが利くな」商人はニヤリと笑った。
アキラは必要な物だけを選び、冷静に確認する。
「ポーション代わりは《治癒草》の粉末だな。保存食と地図も忘れるな」
タケルはキラキラした置物にすぐ惹かれる。
「これ、旅のお守りになりそう!」
「それ、絶対いらないでしょ!」サクラが一刀両断。
ふとサクラが足を止める。
宝石屋台には《ミラ鉱石》が整然と並んでいた。
「光って見えるのは脂のせいだ。モンスターが食った鉱石を体内で圧縮して生まれるんだ」
屋台の親父が説明する。
「……きれい」
普段は冷静な彼女が、少し乙女っぽく見える瞬間だった。
「すげぇ! まるでレアドロップ!」
「無駄遣いするなよ」
──買い物を終えた三人。
「よし、買ったもの確認しようぜ。アクセス!」
アキラが声を上げると、タブレット型に展開されたモンマス画面に、それぞれの持ち物が浮かび上がる。
アキラの所持品
・《治癒草》の粉末×5
・保存食10日分
・中央都市までの詳細地図
・簡易寝袋(10回分)
サクラの所持品
・応急簡易包帯×5
・保存食10日分
・《ルミナイト結晶入りペンダント》
・トイレ付きテント(10回分)
タケルの所持品
・《クリスタル茸》の炙り串×3
・干した《ウロコ魚》×3
・《ホロホロ鳥獣》の串焼き×3
・《シェルナッツ》のロースト×3
・《フロスト根菜》の丸焼き×3
・虫歯になりにくい《クロ骨》×10
・寝るパジャマ(10回分)
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「……タケル、食べ物ばっかりじゃん」
「てか、寝るパジャマって何だよ?」
「しかも……虫歯になりにくい骨?」
「いや、屋台の奥に変なお店あってさ。『これ持ってたら後で良いことあるわよ』って言われて……」
「いやいや、絶対騙されてるだろ」
「……その場の雰囲気で欲しくなったんだよな」
「で、いくらしたの?」
「一本100ミラだから、10本で1000ミラ」
「せ、1000!? 高っ!」
「骨にそんな価値あるかよ」
「……冷静になったら、そうかも」
タケルはしょぼんと肩を落とす。
「ま、ツッコミどころ満載だけど……不足は途中の村や町で補えばいいわ」
「じゃあ次はどうする? ここで終わりにするか、それとも……」
「じゃあ余ったお金でカードガチャやらない?」
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町の一角に、煌びやかな看板と虹色の装飾に囲まれた店があった。
「1回50ミラ〜5000ミラまで!」
派手な呼び込みが響き、子どもから大人まで長い行列を作っている。
「よーし! ここでレア引いたら推薦入試なんて余裕だな!」
「フラグ立てんな」
「……ほんとバカだなぁ」
三人が店内へ足を踏み入れると、そこには──
「はぁ〜い☆ ここからはキララちゃんが説明しまーす!」
ぴょん、とカウンターの上に飛び乗った派手な少女。
以前どこかで見かけた顔だった。
「あーっ! この前の派手っ子だ!」
「……やっぱり因縁あるな」
「かわいい……!」
「えへへ〜☆ 今日もキラッキラに盛り上げちゃうよ! カードガチャのことはぜ〜んぶ、キララちゃんにお任せあれ♪」
──推薦入試を前に、三人の運命を揺さぶる“カードガチャ”が幕を開ける。




