第31話 狙われた幻
話は少し──いや、ほんの少しだけ前に戻る。
三代目《福ちゃんの味》の前には、長蛇の列ができていた。
その最後尾付近で、ひときわ目立つ三人組が揉めていた。
「なんで私が、カレー屋に並ばなきゃいけないのよ!」
マリナが腕を組み、不機嫌そうに足を鳴らす。
「そうだモン。並ぶのはゴロウの仕事モン」
ピッコルが鼻を鳴らした。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ姐さん!」
ゴロウが慌ててスマホを掲げる。
「ほらっ! SNSで“幻のスパイスボアカレー”って大バズり中なんすよ! 一日限定っす! これは絶対食べなきゃ後悔しますって!」
「……たしかに、美味しそうではあるわね」
マリナは一瞬、看板を見て喉を鳴らした。黄金色のカレーの写真に「売り切れ御免」の文字が踊っている。
「でしょ?」ゴロウはにんまり笑う。
だが、そのとき。
「おい、お前ら。あそこ見るモン」
ピッコルが小声で指をさした。
三人の視線の先、列に割り込むようにして店へと入っていく少年たちの姿があった。
その腰には、大事そうに下げられた“地図S”がきらりと揺れている。
「……あれは地図Sよ。間違いない」
マリナの瞳が鋭く光る。
「やっとツキが回ってきたわね。食べ終えて出てきたところを尾けるわよ」
「え、ええー!? カレーは!?」ゴロウが情けない声をあげる。
「黙ってな、ゴロウ。今は任務優先よ」
「……トホホ」ゴロウは肩を落とした。
「ピッコル。準備は?」
「秘密兵器No.1、出すモン」ピッコルが得意げに笑う。
「よし。今度こそ前回の借りを返すわよ」
マリナの号令と共に、三人は建物の影に身をひそめた。
こうして、タケルたちは地図Sを狙うコミック団に、再び目をつけられることになった。
――
その後。草原でモチの成長を確認し終えたタケルたちは、研究者・御影博士と別れることになった。
「幻ランク……私も長く研究しているが、実物を見たのは初めてだ。ぜひ今後も記録を取らせてもらいたい」
博士は通話バッチを渡し、しばらく町に滞在する予定だと語った。
「君たちも気をつけて」そう軽く言い残し、去っていく。
「博士って、ちょっと変わってるけど悪い人じゃなさそうだね」サクラが呟く。
「まあ、あれくらい熱心じゃなきゃ研究者なんてやってられんだろ」アキラが肩をすくめる。
タケルはモチを見下ろし、小さく拳を握った。
「幻ランク、か……。お前となら、どこまでだって行ける気がする」
――
「いいぞ、もっと喋れ……全部聞いてやるモン」
ピッコルが指先で操る虫型ミラモンが、タケルたちの近くで羽音を立てていた。
「姐さん! 聞きました!? タケルっていう少年のスライムが“幻ランク”だって!」ゴロウが興奮して声を上げる。
「ふふ……想定外ね。地図Sに加えて幻ランクまで。あのガキ共、ただの新人じゃないわ」マリナが口元を吊り上げる。
だが次の瞬間――
「きゃー! 虫はやだ!」サクラの悲鳴と同時に、モチがベロのような触手を伸ばし、虫型ミラモンをぺろりと飲み込んだ。
「な、なにィィィ!?」
「やっべぇ! 盗聴ミラモン食われたモン!」
「お、俺たちの録音データがぁぁ!」
三人は草原の岩陰で慌てふためく。
「……ま、まぁ……途中までの情報は拾えたわ。幻ランクの存在さえ分かれば十分」
マリナが必死に取り繕うと、二人も何とか落ち着きを取り戻した。
「しばらくは泳がせるモン。その方が利用価値があるモン」ピッコルが歯を見せて笑う。
「うむうむ! あのタケルって少年の地図もスライムも、まとめて奪えば出世間違いなしっすよ!」ゴロウが拳を振り上げる。
「ふふ……いいわね。これは大きな獲物になりそうだわ」
こうして、タケルたちは再び──いや、これまで以上にしつこくコミック団に狙われることになった。
だがこのときの彼らはまだ知らない。
翌日、ギルドで交わす言葉が──自分たちの旅の目的を大きく変えていくことになるのを。




