表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/45

第20話 千年竜の咆哮

防壁の上の青年の姿に、住民たちは息を呑んだ。

天城家の長男――レオン。青空を覆う影とともに現れたその存在は、ただそこに立つだけで場の空気を一変させる。


「見て、レオン様だ!」

「キャーッ、本物よ!」

「新人じゃない、あれは……天城レオン!」


誰かが叫ぶと、周囲はざわめきに包まれた。

「あの人、試練の階層トップ10ランカーの……!」

「10代で最年少記録を打ち立てたって聞いたぞ!」

「月刊モンマスで特集されてた、あのレオン様だ!」


黄色い声とどよめきが戦場を揺らす。


レオンは、防壁の上で片手を掲げた。

「アクセス・オープン――展開」


モンマスが二重に光を放ち、目の前に二つの画面が浮かび上がる。

片側にはタブレット状のステータス、もう片側にはバインダー型のカードページ。

二重の光陣が空に重なり合い、戦場全体を照らした。


その光に包まれながら、レオンは防壁から静かに飛び降りる。

地に足をつけるごとに、大気が震え、空気そのものが張りつめていく。


次の瞬間、天地を揺るがす咆哮が轟いた。

「出てこい――千年竜!」


翼を広げた伝説の竜が現れた。

その影は町全体をすっぽりと覆い、昼間だというのに薄暗くなるほど。防壁の上にも影が落ち、住民たちは思わず空を仰いだ。


圧倒的な威圧感に、ブロルホーンの巨体がびくりと震える。

防壁を破ってまで暴れ続けたはずの巨獣が、いまや怯えた獣のように後ずさっていた。


「に、逃げるのか……!?」

第2前線の新人たちが息を呑む。


巨獣の視線の先は地上ではなかった。

青空を覆う巨大な影――竜の背に、いつの間にかレオンが立っていたのだ。


彼はカードを一枚、指先でつまみ上げると宙に放った。

バインダーから閃光がほとばしり、空に巨大な紋章が描かれる。


「《クロノ・ロア》」


その名の通り、時を縛る力だ。

ブロルホーンは逃げようと大きく跳躍した――だが、宙に浮いたまま四肢が硬直する。

跳ね飛んだ瓦礫、舞い上がった砂塵さえも、空中で凍りついたように動きを失った。

住民たちは息を吸い込んだまま、言葉を忘れて固まっている。


「止まった……!?」

「な、なんだこれ……!」

住民や第2前線部隊がざわめく。


時が凍りついた戦場で、レオンの声が響いた。

「終わりだ――《インフェルノ・ロード》」


千年竜が咆哮し、炎と大地を混じえた奔流を吐き出す。

硬直した巨獣を包み込むそれは、町全体を揺らすほどの熱と衝撃を生み、甲殻が爆ぜて大きな裂け目が走った。

ブロルホーンの悲鳴が響き、焦げた臭いが風に乗って町を覆う。


次の瞬間、時が解き放たれる。

耳を裂く轟音とともに、ブロルホーンは地面へ叩きつけられ、炎に焼かれた巨体が黒煙を上げながら横たわった。


「……し、仕留めた……!?」

「すごい……あんな巨獣を一撃で……!」


一瞬の静寂ののち、爆発するように歓声が広がった。

「レオン様、サイコー!」

「やったぞー!」

「うおおおおおっ!」


タケルたちも思わず声を漏らす。

「す、すごい……」タケルが拳を握る。

「マジかよ……」アキラが絶句する。

「やったね……!」サクラの顔がぱっと明るくなった。


〈ピコン!〉

モンマスが無機質な音声を響かせる。

【完全に出番がありませんでした】


「うるさい!」タケルが即座に突っ込む。


防壁の上も、町中も、拍手と叫びで揺れる。

絶望の空気は一変し、町は歓喜に包まれていった。


◇ ◇ ◇


熱狂の渦の中、レオンの低い声が響いた。

「……ふう。やれやれ、何とか間に合ったようだ」


千年竜の背から降り立つと、瓦礫の中に立つヒカルのもとへ歩み寄る。

軽く笑いながらも、その瞳は鋭い。


「父上が、話があるって言ってたぞ。伝言は伝えたから、早く帰れよ。ちなみに――」

言葉を区切り、兄の声がさらに低くなる。


「天城家がすごいのは、お前じゃない。俺だ」


容赦ない言葉に、ヒカルは歯を食いしばる。

「……肝に銘じます、兄さん」


そのやりとりを見届け、ギルド長ガロスが慌てて駆け寄った。

「レオン殿……町を救っていただき、本当に感謝します!」


だがレオンは片手を振って、気さくに笑った。

「ガロスさん、気にしないでくださいよ。最初の頃はいろいろ世話になったじゃないですか」

その気取らない態度に、場の空気がさらに和らぐ。


◇ ◇ ◇


町は歓声に包まれていた。

倒れ伏したブロルホーンの黒焦げの巨体を見て、人々は涙を流し、互いに抱き合い、勝利を喜んだ。


だが、その喜びは長く続かなかった。


空がゆっくりと陰り始めた。

先ほどまでの青空が、黒い雲に覆われるように暗く沈んでいく。

風が止まり、空気が重くなる。


「……何だ……?」

住民たちの声が震える。


次の瞬間。

倒れたブロルホーンの巨体が、じわりと闇に飲み込まれ始めた。

黒い影が地を這い、触れたものを無音で呑み込んでいく。

建物の瓦礫さえも、影に触れた途端、跡形もなく消えていった。


「な、何だあれは……!」

「ブロルホーンが……喰われてる……!?」


姿を現したのは、底知れぬ闇の怪物。

影を喰らう存在――《影喰らい》。


「全員、下がれ!」

レオンの声が一喝する。


炎を纏った千年竜ですら、その影を前にして低く唸った。

ヒカルは息を呑む。

(兄さんの竜が……警戒している……!?)


張りつめた緊張の中、不穏な影が町を覆っていった――。


――つづく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ