第19話 絶望の咆哮
ブロルホーンは正門前の広場を蹴散らし、防壁を易々と突き破った。
――ドゴォォォンッ!
石と鉄が砕け散る轟音が響き渡り、大地そのものが震える。
直後、町中に重く長く響き渡る警鐘が鳴り響いた。
ゴォォォォォン……ゴォォォォォン……。
その低く重い音は、町全体を揺らしながら、逃げ場のない絶望を告げるようだった。
巨体はついに町の内部へなだれ込み、大通りを突進していく。
石畳は粉々に砕け、両脇の建物が吹き飛び、瓦礫が雨のように降り注いだ。
◇ ◇ ◇
「止めろ! 簡易網を展開しろ!」
町中へ布陣していた第2前線部隊の指揮官――ギルド職員が叫ぶ。
町中の要所には、正門突破を想定した簡易阻止網が、あらかじめ配置されていた。
新人たちはそれを引き出し、必死に縄を広げていく。
だが恐怖で体はこわばり、結び目は何度も外れた。
「ひっ……速すぎる……!」
「お、俺の手が……震えて……!」
それでも数人の新人が必死に網を広げ、ブロルホーンの前に立ちはだかった。
「今度こそ……止まれぇぇ!」
巨獣がぶつかり、縄が悲鳴を上げる。
ミシミシ……バキィン!
音を立てて網が弾け飛び、第2前線の新人たちは次々と宙に舞った。
「ぐあああっ!」
「かはっ……!」
光の粒子が舞い、彼らは一人、また一人と強制送還されていく。
「母さん……ごめん……」
「俺……もっとやれると思ったのに……!」
消えていく仲間たちの最後の声が、町に重く響いた。
それでも残った者たちが必死に足止めを試みる。縄を引き直し、盾を構え、震える脚で巨獣に立ち向かった。
「まだだ……! 時間を稼げぇ!」
「うおおおっ!」
◇ ◇ ◇
「……くそっ!」
その奮闘に追いつくように、タケルたち特殊討伐部隊が町中へ駆け込む。
「ドラゴレッド、もう一度だ!」
ヒカルがモンマスを掲げ、炎の奔流を浴びせる。
「リリーフェア、光の花びら!」
サクラは泣きそうな顔で援護の花弾を飛ばす。
「クロウルガー、横から脚を狙え!」
アキラが冷静に指示を飛ばす。
「……モチ、頼む!」
タケルは震える拳でスライムを突撃させた。
だが――。
ドラゴレッドの炎は甲殻に弾かれ、光の花びらは散らされ、クロウルガーの爪も皮一枚しか削れない。
モチの体当たりは一瞬衝撃を吸収したが、すぐに弾き飛ばされた。
「やっぱり……格が違う……!」
「嘘……あれでも効かないの……!?」
サクラの声が震える。
◇ ◇ ◇
ブロルホーンは進撃を止めず、大通りを突っ切っていく。
石畳は粉々に砕け、家屋はなぎ倒され、町人の悲鳴が四方から響いた。
「いやぁぁぁ!」
「逃げろー!」
誰もその速さに追いつけない。
まるで雷のような突進が町を蹂躙していく。
◇ ◇ ◇
「……もたん……これ以上は……!」
防壁上から戦況を見守るガロスが、唇を噛みしめる。
秘書が駆け寄った。
「ギルド長! この町から全住民を緊急脱出させましょう。ここはもはや戦場になります!」
ガロスは目を閉じ、低く呟いた。
「……新人たちだけでは無理があったか。致し方ない。全住民に退避命令を発令する……!」
その時――。
ブロルホーンの様子が急におかしくなった。
荒々しい突進の勢いがぴたりと止まり、巨体がゆっくりと後ろを振り返る。
その双角が、防壁の上を鋭く睨みつけていた。まるで、そこに立つ何かを警戒しているかのように。
「……どうしたんだ……?」
住民や第2前線部隊がざわめく。
土煙の向こう、防壁の上にひとつの影が浮かび上がった。
風に揺れる黒髪。堂々とした立ち姿。圧倒的な存在感だけで、場の空気が一変する。
「誰かいる……!」
明らかにオーラの違う存在がそこにいた。
「……誰だ……?」
誰かが息を呑む。
ヒカルの瞳が大きく見開かれる。
「……まさか……兄さん……!?」
新たな影が、戦場を見下ろしていた――。
――つづく。




