第02話 授与式前日
「明日はついに──お前たちがモンマスを授与される日だ」
教室に先生の声が響く。
生徒たちは一斉に顔を上げた。
「モンマスとは、現実世界からミラモンの住む《ミラリア》に接続するためには欠かせないものだ」
先生は黒板に“モンマス”と書き、チョークを置く。
「先生、それもう何度も聞いたってば!」
「でも大事なことだからな。何度でも言うさ。
授与式は一年に一度──《始星祭》の日にしか行われない。
十歳になった者だけが挑める、神聖な儀式なんだ」
先生は腕に巻いたスマートウォッチ型のモンマスを掲げる。
「これがモンマスだ。
一生離れることのない、相棒となる存在だぞ」
生徒たちは目を輝かせた。
「カッコいい!」「早く欲しい!」
先生は咳払いをひとつしてから、わざとらしく真顔を作る。
「中に入るミラモンは……まあ、自分で探しに行け。
一瞬で出会えるチート裏技があるとかないとか、そんなウワサも聞くが……」
教室がどっと笑いに包まれた。
「先生、それ絶対ないでしょ!」
「ウソばっかり!」
先生は肩をすくめ、いたずらっぽく笑う。
―――
放課後の教室で、タケルは声を弾ませた。
「ついに明日か! 楽しみだな、アキラ、サクラ! 始星祭だぜ!」
隣のアキラは眼鏡を押し上げ、落ち着いた声で答える。
「そうだな」
サクラはにっこり笑った。
「私はね、お母さんのブランドを広めたいの。
育てたミラモンに可愛い服を着せて、世界中に発信するの!」
「へぇー、サクラらしい夢だな!」
タケルは拳を握りしめる。
「俺は英雄ガイアスみたいになる! 世界一のバトルマスターに!」
「またそれ?」
サクラは呆れた顔をしながらも、どこか楽しそうに笑った。
「小さい頃からずっと言ってるもんね」
その時、窓際から冷たい声が響いた。
「タケル。お前には無理だよ」
そこに立っていたのは、金色の髪を整えた少年──天城ヒカル。
街でも名家として知られる、天城家の御曹司だった。
「俺様が代わりにガイアスみたいになってやるさ。お前は指くわえて見てろ」
クラスが静まり返る。
サクラが小声でつぶやく。
「……嫌なやつ」
タケルは負けずに睨み返した。
「やれるもんなら、やってみろ!」
胸の奥が熱くなる。
明日、自分の夢を証明してみせる。
―――
翌日。始星祭。
山の頂にそびえる山神殿。
光を反射する白い柱が円環を描き、その中央に十歳の子どもたちが並ぶ。
観客席はぎっしりと埋まり、静寂と期待の熱気が渦を巻いていた。
空から降る淡い光が、神殿全体を幻想的に包み込む。
壇上に神官が現れ、厳かに声を張り上げた。
「これより──新しきマスターたちへ、モンマスを授ける!」
「子どもらに叡智と幸せを!
モンマスとともに命をささげる!
モンマスよ、来たれ!」
天井から光の粒子が舞い降り、渦を巻きながら核へと姿を変える。
それぞれの子どものもとへと、光が降りていった。
―――
最初に選ばれたのはサクラ。
淡いピンク色の核がひらひらと舞い降り、彼女の手に収まる。
「わぁ……可愛い!」
観客席の少女が歓声を上げた。
サクラは顔を赤らめながらも、誇らしげに立ち上がる。
次に、蒼白の光がアキラの前へと降りてきた。
その輝きはまるで氷柱のように澄みきっており、アキラの腕へすっと吸い込まれる。
「おお……あれは神谷の子だ!」
「やはり優秀だな!」
観客席からざわめきが広がるが、アキラは静かに目を閉じ、冷静に受け止めていた。
その落ち着きが、さらに周囲に期待を抱かせる。
そして、黄金の輝きがヒカルのもとに降り注いだ。
その瞬間、空がざわめく。
青空に突如として雲が集まり、轟音と共に稲妻が走った。
稲光は一本の槍となってヒカルの頭上へ突き刺さり、黄金の核を輝かせる。
「な、なんだこの光は……!」
「天も彼を祝福しているのか!?」
観客が一斉にどよめき、神殿の空気が揺れた。
黄金の核は眩い閃光を放ちながら、ヒカルの腕に吸い込まれていく。
「さすが天城家!」
「十年に一人の逸材だ!」
観客席では天城家当主が立ち上がり、誇らしげに息子を見下ろしていた。
執事もまた大声で叫ぶ。
「ご主人様、ヒカル坊ちゃまやりましたぞ!」
ヒカルは勝ち誇ったようにタケルを一瞥し、薄く笑う。
―――
そして、タケルの番。
……何も来なかった。
光の粒子はすべて消え、モンマス核は全員に行き渡ったはずだった。
だがタケルの腕には、何もない。
観客がざわめき始める。
「……おい、あの子のモンマスは?」
「まさか……選ばれなかった?」
サクラが息を呑み、ヒカルの口元に冷たい笑みが浮かんだ。
タケルの胸を冷たい汗が伝う。
「えっ……マジで?」
心の中でツッコミが飛び出す。
「おいおい、これって……俺、主人公交代コース!?」
笑えない冗談。
だが現実は、会場のざわめきと共に迫っていた。
タケルの未来は、ここで閉ざされるのか──。
不安だけが、少年の胸を覆っていった。




