第16話 新人ばかりの前線
知らせを受け、町のあちこちから人々がギルドへと集まってきた。
何が起きたのか分からない。だが“緊急ミッション”という響きだけで、場の空気は一気に張り詰めていく。
「こんな急な招集、ただ事じゃないぞ……」
「ま、まあ……ベテランたちが何とかしてくれるよな?」
「俺たちは指示を待てばいい……はずだよな?」
不安を隠せない冒険者たちがざわめきながら広間に立ち並ぶ。
自分が前に出ることになるはずがない”と、どこかで信じ込もうとしていた。
そのざわめきを断ち切るように、壇上に立ったギルド長ガロスが声を張る。
「……みな、よく集まってくれた。だが残念なことに──この場に、ベテランの姿は一人もいない」
広間の空気が一気に凍りついた。
「……えっ?」「どういうことだ!?」
「じゃあ俺たちだけで……?」
信じていた“頼れる誰か”がいないと知った瞬間、冒険者たちの顔に動揺が走る。
その光景を見下ろしながら、ガロスは眉をひそめ、重々しい声を響かせた。
「……皆は知らないだろうが、一年前、この町は山から現れたミラモンに襲われた。ベテランたちの力でどうにか退けはしたが、多くの犠牲を出し、町は混乱の渦に陥った」
新人たちは顔を見合わせ、息を呑んだ。
「そんなことが……」
「聞いたことないぞ……」
「記録には残していない。住民の不安を煽るだけだからな」
ガロスの苦々しい言葉に、広間はざわ……と揺れた。
「だが、その脅威が──再び迫っているのだ」
広間にざわめきが広がる。
「まさか、同じような化け物が……?」
「俺たち新人ばかりで、どうやって……」
ガロスは真剣な眼差しで全員を見渡した。
「安心しろ。ミラリアで命を奪われることはない。だが……大怪我や精神的な負担は残る。今後の活動に影響することもあるだろう」
息をひとつ吐いて、断言する。
「だから、この緊急ミッションは──参加は自由だ。やりたくない者は抜けて構わん。もちろん、役割に応じて報酬は支払う」
一瞬、沈黙が流れたあと──。
「ギルド長! 始めたばかりで、そんな危険な依頼やりたくねぇ!」
一人の青年が声を荒げ、後ろに下がった。
それをきっかけに空気が揺れる。
「確かに……俺も無理だ!」
「こんな危ないことやってられるか!」
「私も辞めます……」
次々と声が上がり、全体の三分の一ほどが列を離れた。
残された新人たちは、互いに顔を見合わせ──不安と覚悟を胸に立ち尽くす。
ガロスは深くうなずき、残った者たちに向き直った。
「……よく残ってくれた。勇敢な者たちよ。この町を守るのは、お前たちだ」
だがガロスは表情を崩さず、さらに言葉を続けた。
「Cランク以上は前線、D・Eランクは後衛、Fは補強に回ってもらう。
住民は避難と後方支援に専念してくれ。戦いは冒険者の仕事だ」
ざわめく新人たち。
「前線!? 俺たちが!?」
「無理だろ、そんなの……」
それでも、割り振りは次々と行われていった。
「神谷アキラ、Cランク。前線だ」
「桃坂サクラ、Dランク。後衛についてもらう」
「以上で全てだな」
タケルがおずおずと手を挙げる。
「ギルド長、すみません……Gランクはどうすれば?」
広間がざわめいた。
「G……?」「そんなの聞いたことねぇぞ」
「始星祭で“幻のG”って言われてたやつだ! モンマス核に向かって土下座バンザイしてたって噂の!」
「そんな変態いるのか?」
「マジで存在したのか……!」
ざわめきと失笑が広がり、タケルは顔を真っ赤にして縮こまった。
〈ピコン!〉
【タケル、がんば!】
「……同情されたら、余計にダメージくるわ!」
タケルがうなだれると、広間はさらに笑いに包まれた。
ガロスが咳払いし、淡々と告げる。
「……ああ、君か。君も補強に回ってくれ」
(結局それかよ……)
タケルは内心で叫んだが、反論できずにうなだれるしかなかった。
──だが、その和やかさは長く続かなかった。
広間の扉が勢いよく開き、一人のギルド員が駆け込んできた。
「報告です! 町外れで異様な気配を確認! ……巨大なイノシシ型のミラモンです! 岩のような背中に鋭い角を持つ……ブロルホーンです!」
広間がざわめきで揺れる。
ギルド職員が顔をこわばらせながら声を上げた。
「やっぱり、あの時の……!」
「一年前に町を襲った、あの化け物だ!」
一人の住民が震える声を上げた。
「……あいつに妻を怪我させられて、現実でも歩けなくなったんだ……」
その告白に、新人たちの表情が一層強ばる。
ギルド長ガロスは厳しい目を細めた。
「……もうそんなところまで来ているのか」
「到着まで、およそ一時間前後と見られます!」ギルド員が声を張る。
新人たちの間に動揺が走った。
「無理だ、勝てるわけがない!」
「俺たちじゃ荷が重すぎる!」
ガロスは黙り込み、険しい表情で顎に手を当てる。
(やはり、この編成だけでは厳しいか……)
すぐ脇に控えていた秘書が、小声でささやいた。
「……もし、あの子がまだこの町に残っているのなら、希望はあります」
ガロスが鋭く目を向ける。
「本当か」
「はい、探しに行かせます」
秘書が慌ただしく広間を出て行く。
残された新人たちは、不安と期待の入り混じった視線で扉を見送った。
──果たして、その“希望”とは。




