第10話 補填とログアウト、そして祖父の忠告
ギルド長ガロスの声が町中に響いた。
「……見ての通り、物資はすべて奪われた。だが、そのままというわけにもいかん。だから──ギルドとして補填を用意する」
集まった新人たちがざわめく。
「補填……?」
「助かるのか……?」
ガロスは腕を組み、重々しく言った。
「まずは簡単な討伐依頼を出す。腕試しだが、報酬はいつもより弾むぞ。挑戦したい者はギルドへ来い」
「おおっ……!」安堵の声が広がる。
「さらに、物資支給の代わりとしてカードショップで“新人ガチャ”を用意した。ランダムだが、必ずカードを一枚プレゼントする。興味があれば寄ってくれ」
絶望の空気が、一気にワクワクへと変わっていった。
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「ふぅ……なんかバタバタしたね」サクラが小さく息をつく。
「腹も減ったし、今日は一度戻るか」アキラが提案した。
「でも……どうやってログアウトすんだ?」タケルが首をかしげる。
近くにいたギルド員が笑って答えた。
「君たち新人か。ログアウトは簡単だよ。まずモンマスを展開して、“アクセス”でメニューを開く。その中に“ログアウト”の項目がある」
「そしたら、モンマスを前に掲げて──“ミラリア・リターン”と唱えるだけさ」
「ちなみに、戻れる場所は二つ。接続した場所付近か、自宅か。選べるはずだ」
「なるほど……」サクラとアキラはすぐにログアウトを実行した。
二人の姿は光に包まれ、消えていった。
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「じゃあ俺も──アクセス……って、あれ?」
タケルの目の前に、突然モンマスの大画面が浮かぶ。
〈ピコン!〉
【エラー:ログアウト項目が選択されていません】
「ちょ、そういう大事なことは先に言えよぉぉぉ!!」
〈ピコン!〉
【人の話はちゃんと聞きましょう】
「うっさいわーーっ!」タケルの叫びが町に響いた。
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夜。現実世界。
タケルは帰宅した瞬間、母から声をかけられた。
「タケル、ちょうどよかったわ。おじいちゃんに夕飯届けてきて」
「えっ、俺いま戻ったばっかりなんだけど……」
〈ピコン!〉
【新クエスト発生:祖父へのおつかい】
「お前までゲームみたいにすんな!」タケルはモンマスをにらんだ。
しぶしぶ夕飯を持ち、祖父の家へ向かう。
「おうタケル、わざわざすまんな」
祖父は豪快に笑い、若い頃の話を始めた。
「ワシも昔は、ミラリアで名を馳せたもんよ。討伐でも育成でも、誰にも負けんかった」
「へぇ……」タケルは相づちを打つが、モンマスが〈ピコン!〉。
【はいはい、自慢タイム開始】
「お前は黙ってろ!」
だが、祖父は急に真顔になる。
「……タケル。楽しむのはいい。だが“試練の階層”だけは気をつけろ。あそこは遊び半分で挑む場所じゃない」
低い声に、タケルは思わず息をのんだ。
すぐに表情を和らげ、祖父は笑った。
「まあ、それはそれとして──始まりの町の“ミラカレー”は絶品だぞ。食べて損はないからな!」
タケルは脱力しながらも笑った。
「……なんなんだよもう」
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帰宅後。タケルは両親に今日の出来事を話した。
「へぇ……最初から物資なしなんて、大変だね」母が心配そうに言う。
「でも補填はあるんだろ?」父は新聞をめくりながら笑った。
「うん。だから大丈夫。……大丈夫、だと思う」
タケルは苦笑した。
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布団の中。タケルは天井を見つめる。
〈ピコン!〉モンマスが勝手に光った。
【今日の名場面を発表します】
【“ミラモンに土下座した少年”──タケル!】
「やめろぉぉぉ!」
タケルは布団をかぶったが、モンマスは容赦なく続ける。
【感動をありがとう】
【笑いもありがとう】
【そして──明日もよろしく!】
「……ったく、からかいやがって。でも……ありがとな」
タケルは小さく笑って目を閉じた。
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翌朝。再びログイン。
「ミラリア・リンク!」
光に包まれ、タケルは再びミラリアの大地に降り立つ。
そこは──昨日の騒ぎがまるで嘘だったかのように、穏やかな始まりの町だった。




