怪盗
その少女は足音を盗みながら夜の街を急いだ。
夜の街をむやみに走る回ると、そこかしこから音が返ってくる。
今の少女は目立つことは出来ない。
「3番街の………。……あ!あれだ!」
目的の『ポスト』を見つけたようだ。
そこに1枚の『招待状』を素早く落とし入れる。
この街には奇妙な噂が出回っている。
「3番街のポストの噂って、知ってる?」
3番街にある風見鶏のついたポストに子供が招待状を入れると、その子供が怪盗に狙われる。
この噂の奇妙な点は3つ。
1つ。子供でなければならないこと。
何故、子供でなければならないのか。
狙うのであれば大人でも構わない。子供でなければならない理由は?
2つ。ポストに入れるのは招待状であること。
何故、手紙ではなく招待状であるのか。
招待状を入れるのが子供ならば、まるで自分から怪盗に狙われている。自分を狙わせる理由は?
3つ。何故、ポストに風見鶏がついているのか。
本来の使用用途からかけはなれている。意味がわからない。
「この噂に怪盗が登場するのであれば、それを解決するのは探偵の仕事である」
そう、誰かが言った。
その言葉から始まり、国中の探偵達がこの街の調査に乗り出した。
しかし、分からない。
怪盗を捕まえようとする彼らに、怪盗を招待する子供の気持ちが分かるはずもなかった。
それだけでなく、探偵達をさらに困らせる事実も発覚する。
招待状を出した子供の全員が狙われるのではなく、狙われない子供と狙われた子供がいるのだ。
3番街のポストに招待状を入れた少女は、この街の代表の娘だ。
少女には両親や使用人達にも言っていない夢がある。
「私は誰にも夢は言わない。言ったら叶わなくなるってどこかで聞いたんだもの」
少女の夢を知るものは誰もいない。
両親は少女に夢があるなど知らないし、自分達が考える道こそ娘に相応しいと考えている。
しかし、少女は別の道を望んでいる。
何度か違う道を申し出てみたが、両親達は用意してある道から外れることを良しとはしなかった。
「大人達は全くわかっていない。怪盗さんについて行った子達の気持ちがわかるのは私だけよ」
怪盗に狙われた子供達を少女は知っていた。
怪盗に狙われなかった子供達も少女は知っていた。
怪盗に狙われた子供達は、今日に満足せずに変えようと招待状を出した。
怪盗に狙われなかった子供は、明日にも満足してふざけ半分で招待状を出した。
少女は明日だけなく明後日や明明後日、更にはその次も見ている。
「お招きいただきありがとう。美しいお嬢さん」
部屋の窓からかけられた声に、少女は飛び跳ねる。
「元気なお嬢さんのようだ」
お嬢さん。
子供扱いをするその言葉遣いに少しの憤りを感じつつも、未知への好奇心はそれをうわ回っていた。
「お嬢さん。貴女の『夢』はなんですか?」
少女は口を開かない。
夢は誰かに言ったら叶わなくなる。そう信じている少女は口を閉ざすしかなかった。
「あぁ。お気になさらず。独り言ですので」
怪盗のいたずらな笑顔に目を丸くしながらも、少女はやがて口を開いた。
「――――――――。……私のこれも独り言よ?」
おそるおそる告げられた少女の言葉に、怪盗は笑顔で手を差し出した。
「お嬢さんは魔法を知っているかい?」
とある冬の日に、とある街のとある少女が姿を消した。
それと同時に、とある国のとある小さな劇団で、才能に満ち溢れた子役女優が華々しくデビューした。