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第11話 来訪者

※本話はクラウス視点です。


 新聞はアランが毎朝持ってくる。


 これまではローゼンクランツ発行の数紙を見比べて情勢を掴んでいたが、今はギルデンの新聞も手配させている。


 そして、ページをめくるまでもなく、見覚えのある姓が一面に踊っていた。


『奇跡をもたらす“聖女”

 雲ひとつない空に雨を降らせ、干ばつにあえぐ地を潤す。

 可憐な乙女の奇跡

 ローゼンクランツ王国との友好の証

 美しきリンドグレン伯爵家の長女——。』



「愉快な話ですね。“聖女”なんて御大層な」


 アランの失笑に、黙って同意する。

 こんなものを祭り上げて、何が面白いか理解しがたい。


「件の調査については?」


「勿論、裏は取れていますよ。片手間で済む程度にはずさんでしたから。

 アリカ嬢の魔力で間違いありません」


 渡された報告書に目を通す。

 想定の範囲を出ない内容に、ため息が漏れた。


 術者によって、魔力には固有の癖がある。

 それは筆跡や声紋に似た、微細な個性だ。

 

 “聖女の奇跡”の魔力痕跡を精査させたが、彼女の魔力と完全に一致していた。


 つまり、この一連の“聖女の奇跡”とやらは、アリカ・リンドグレンの魔術が使用されていると断定できる。


 さて、どうしたものか——。



 壁に掛けられた七つのベルのうち、一つが鳴った。

 誰かが、島の結界に触れた。


 来訪者か。


 最初の結界は、人を惑わせ、進路を妨害し足止めする。

 この程度に迷うようなら、大した魔術師ではないか、それとも——


 ……ローゼンクランツからの使いか。



 魔石をはめ込んだ魔術具が、船の姿を映し出す。


 帆の上に、獅子と薔薇——ローゼンクランツの国章が、風にたなびいている。


 時折、そうやって書簡が届く。

 大抵は「キャリバン島から出ていないか」の形式的な確認だ。


 今回も、それだろうと思っていたが——。


 もう一つ、旗が掲げられている。


 一角獣と百合、そして星——ギルデン王国の紋章。


 ローゼンクランツとギルデンの両国が、連名で使者を寄越すなど、尋常ではない。

 ただの伝令にしては、大仰すぎる。


「受け取ってまいりますね」


 その一言を残し、アランは姿を消した。



 視線を映像に戻す。


 甲板には複数の兵士。

 そこまでは、いつもと変わらない。

 

 だが、一人の若い女が、ドレスの裾をひるがえして現れた。


 ピンクブロンドの巻き毛が、海風に舞っている。


 ……記憶の隅に覚えがある。


 側に置いていた新聞の似絵と見比べる。

 ……間違いない。

 

 だが、仮にそれが本人だとして——なぜ、彼女がここに来た?



 やがて戻ってきたアランの手には、箱に収められた書簡。

 封蝋には、ローゼンクランツの王妃の印章が刻まれている。


 無言で受け取り、封を切って文面を追う。


 その内容に、思わず目を疑った。


「手紙には、なんと?」


「例の“聖女”が乗っているそうだ。丁重にもてなせと」


「はあ?“聖女”があの船に?じゃあ“アレ”が?何しに?」



「……アリカ・リンドグレンを返してほしい、との話だ」




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