第一印象がいい女の巻き込まれ転移 聖女じゃない方の聖女
私の特技と言ったら第一印象がいいことである。つまり見た目がいい。大概の人間に優しくされる、歪んだコンプレックスを持つ人間以外には。
「二人も召喚された、だと……?」
西洋の王宮のような場所。私たちを取り囲む人々。魔方陣。現実では考えられない景色。
大勢の人間が一斉に私へ視線を向けた。
「な、なに……?」
私の隣には地味な風体の女性。彼女だけが、私と同じ世界にいる存在だとわかる。……ただ、日常生活では性格に癖、というか、地雷がありそうなので、すごく気を遣うタイプかもしれない。
彼女を見ているのはもしかして私だけ?
「あなたが聖女様ですね」
綺麗な顔の騎士っぽい男性に手を取られた。現実離れしたこの顔とこのいい声、大概の女性ならぽーっとしてしまうだろう。
しかし私はどちらもいけるタイプで、男性よりも女性の方がちょっぴり好きだ。いや、男性もいけるけど。
「待ってください!」
そしてNOを言える女だ。人前に立ったことだって何度もある。どんな場面でも大きい声を出せる。第一印象がいい人間は自分の意思を出さないと、そして積極的に印象調整をしないと大変なことになるのだ。
私の声は広間に響いた。響きすぎてシンとなった。そしてすぐに高校の体育館みたいにうるさくなった。
「時間があまりないのです」
と男性は真剣な顔で言った。何かが逼迫しているのだろう。焦ってことをし損じる男。顔が良くても信用できない。アホかもしれない。
「この場に二人もいるんですよ。どうしてすぐに片方に決められるんですか」
「だって……」
困惑した彼の視線は雄弁に語っている。私を見た後、もう一人をチラと見る。
第一印象。そうですよね。
でも私、それで苦労したことも沢山ある。例えば、お手伝いにいった同人イベントで可愛い絵を書く作家さんと何度も間違えられて気まずい雰囲気になった。どちらも顔を出していないので第一印象のいい私が書いていたら嬉しい、ということなのだろう。そのあと作家さんとは疎遠になるし、ストーカーもつくし、SNSは荒れるし、散々だった。学生時代だって新学期になると下級生が集って教室まで見に来るからクラスメイトの悪評を買わないように必死だった。その他も生まれてこの方エトセトラ!
「あなたの方が聖女らしいお姿だ」
偉そうなおじさんが言った。こういうおじさんが新規事業に口を出すと大概足を引っ張る。私は知っているんだ。っていうか聖女ってなんだよ。
「もしも私が聖女ではない場合、あなたが責任をとられるのですね?」
「えっ……?」
「責任者はどなたですか?」
徹底的に詰めた結果、ひとまず二人採用と相成った。
魔獣との戦闘が激化したため、言い伝えに従い聖女なるものを異世界より召喚したらしい。しかし、言い伝えとは異なり、なぜか二人も召喚された、というあらましだ。
説明を受けた直後に魔獣との戦闘が発生。
結論。
私は聖女ではない。巻き込まれて召喚されただけの、ただの一般人だった。
「結婚してください」
顔のいい男性に花を差し出されて悪い気がする女はいないだろう、たぶん。彼は騎士団長らしい。国防省長官みたいなものか。趣味が偏っているのでゲーム的な趣の強い王道ファンタジーへの造形は深くないのだ。四角エニックスのゲームもやらないし、ドラゴンの出てくるクエストも通過しなかったしで、ぜんぜんピンとこない。
「ごめんなさいね。この場所に来たばかりで、まだそういう気持ちになれないんです」
顔のいい男性に花を差し出される経験は初めてだけれど、あしらうのは慣れている。申し訳なさそうに笑うと、真剣な目で見つめ返された。
「あなたが落ち着くまで待ちます」
花を受け取るまで帰ってくれなさそうだ。一応受け取っておくべきなのか。悪くない話ではあるが、まず強制的に呼び出されてこの場に居ること自体が全体的に気に食わないから嫌なのだ。
「彼女を困らせてくれるな」
どこから聞きつけたのか王子が颯爽と現れた。王子は比喩じゃなくて実際にこの国の王子である。暇人か。
噂によると仲がいい二人の間に悪辣な火花が散る。
「王子が聖女様を放っておいていいのか?」
騎士団長が挑発的に笑う。
ちなみに私は聖女とお茶をしている。つまり、聖女は黙っているけど求婚時からずーーーっとそこにいるのだ。
やめて。バカ。本当にやめて。
「的確な判断で私たちを導いた彼女もまた聖女と呼べるだろう。つまり二人とも同等に聖女様なのだ」
王子が詭弁を言って私に熱い視線を向けた。
この男ども最悪だ。どっちも顔がよくて立場があるだけで中身がない。基本的な優しさがない。ここまでの人生、随分と甘やかされてきたのだろう。
「随分モテていらっしゃることで。聖女じゃないんだから身を固めたらいいと思うけど」
聖女はひがみっぽくフンと笑う。こいつもこいつで面倒くせえ女である。下手にちやほやすると見下してくるので距離感が難しい。
「困っちゃったわね⋯⋯」
私は内心を押し隠してへらへら笑った。
いっそ悪役になって全部をぶち壊し、世界でも征服してやろうかしら。