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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

幽霊の棲む森

作者: 月詠遊霞

後半はいじめに関する描写があるので苦手な人はご注意ください


太陽が沈み、あたりが暗くなり夜になった。夜になったから、お月様が顔を出してきてくれた。

私が起きる時間だ。住処から出て、お月様を見る。おはよう!と挨拶をした。返事は返ってこないけれど大変満足である。

意味はないけれど、軽く体を伸ばすためにストレッチをして、友達が来るのを持つ。一緒に夜を過ごす友達だ。一人でいる、静かな時間も好きだけどやっぱり友達と一緒に遊ぶのは好き。多分前からそう。

少し待っていると、一人の少女が現れた。

肩までかかるぐらいの長さの深い緑色の髪につり目気味の深い青い目の女の子だ。本人は自分の容姿は地味で自信がないなんて言っていたけど、私にとっては可愛くて優しい自慢で大好きな友達だ。


「おはようユン。おまたせ」

「おはよ!レンちゃん。さっき起きたとこだから大丈夫!」


私がそう言って笑うと、レンちゃんも笑った。


この森の中心には大きな湖があって、その湖畔でおしゃべりしたりして遊ぶのがいつもの日課だけど、今日はお客さんが来る。外からの、生きている人!

もう一人の友達が迎えに行ってくれているから、私たちはその間迎える準備をする。そんなに歓迎してくれなくてもいいのにって言われるけど、私はやりたいからする!それをレンちゃんがしょうがないなぁって言って協力してくれる。

今日はクッキーと紅茶を用意してみた。なぜか『幽霊のための家』があって、ちゃんとした材料やキッチンもそろっているから、レンちゃんと一緒に作ったのだ。初めて作ったから不安だけど、レンちゃんに「おいしいよ」って言ってもらえてから多分大丈夫。


わくわくしながら待っていると、「おまたせ」って声が背後からした、振り返るともう一人の友達がやってきた。金色の髪に真ん丸な青い目の女の子。貴族だったらしい。所作もきれいだったから納得だけど、本人は苦い記憶しかないみたいだからそれ以上は聞いたことはない。最初はあんまり打ち解けれなくて悩んだこともあったけど、気が強く嘘が苦手で、わたしの薄緑の髪と青緑の目を可愛いってほめてくれたのがうれしくて、いっぱいおしゃべりしていたらいつのまにか仲良しになっていた。


「ミルちゃん!こっちは準備オーケーだよ」

「みたいね。ソウ、こっちよ」


ミルちゃんの後ろから現れたのは、一人の男の子と一匹の狐。男の子のほうはソウ、狐はミアンちゃんっていうの。

ソウは金色の髪に緑色の目をしていて、長い髪を後ろでひとくくりにしている私とおんなじくらいの歳の子。ミアンちゃんといつも一緒で、ソウにとても懐いていて今日も嬉しそうにソウの胸に抱かれていた。


「こんばんは…じゃないね。おはよう。ユン、レン」


ソウは柔らかく笑った。


「ソウ、ここ座って!レンちゃんと一緒にクッキー作ったの」

「…それ、食べたらそちら側に引きずられるとかはない…?」

「大丈夫!…だと思う!」

「あ、味はユンと確かめたから…!」

「そういう問題じゃないんだけど」


そんなことを言いつつもソウはクッキーを食べておいしいって言ってくれた。


ソウと初めて会ったのは数か月前。ソウがこの森になんと夜に訪れた際に出会った。

私もソウもびっくりしたけどその時も一緒にいたミアンちゃんのおかげですぐに打ち解けた。どうしてここにきたのかと聞いたら、家出してきたと言っていた。家族とうまくいってないらしい。幼いころは親に捨てられたのだ思ってある施設にいたけど、それは間違いで、誘拐されてその施設にいたらしい。ずっと両親が探していて、半年ぐらい前に代理の女性が迎えにきてその女性と一緒に今は両親(と名乗っているって思ってるみたい)と暮らしているけれど、色々あったらしく人間が嫌いで、信じられなくて、衝突してしまったみたい。それで家出を。

事情を話してくれてうれしかったけど、人間が嫌いって、私たちのことは?って思ったし、一緒に聞いていたレンちゃんも同じこと思っていて実際に聞いたら「ユンたちは人じゃないじゃん」って真顔で言われた。…人間の幽霊なんだけど…?って思ってレンちゃんと顔を見合わせたけど、ソウはなんでかそれで納得しているみたいだったから、本人がそれでいいならまぁいっかってことになってそれ以上は気にしないことにした。

そんなこんなでソウとは仲良くなった。けど、あんまり長い時間ここにいるのはよくないって思って1時間ぐらい一緒に過ごして帰ってもらった。それから一か月に数回、少しの時間だけ遊ぶようになった。


話題は『幽霊のための家』になった。


「そこでこのクッキーを作ったんだよね」


ソウは自分の膝の上にちょこんと座っているミアンちゃんにクッキーを一枚あげながら言った。


「うん。ずっと前から建ってたみたいで、幽霊ならだれでも使えるの」

「それで生きてる人間は入れないんでしょ?…不思議だね」


ソウの言う通り、あの家には幽霊しかはいれない。私より前にこの森にいる人たちに聞いても、いつの間にかあって当たり前のように使っているって。


「材料もよくあったね」

「定期的に補充されてるみたい。なんでかはわかんない。わかんないから気にしないことにしたの」

「ユンは能天気すぎでは…?」

「えっ」

「ソウ、それはもう仕方のないことよ」

「レンちゃん!?」

「細かいことは気にしないのが、ユンのいいところだわ」

「ミルちゃんそれって褒めてる!?」


ソウが声をあげて笑っている。もう!


しばらく談笑した後、いつの間にかクッキーはもうなくなっていた。ソウはもう帰らなくちゃいけない時間だから、今日のこの時間はもうお開きにした。ミルちゃんがまた森の入り口までソウを送っていくことになって、私とレンちゃんは後片付けをした後に自分たちの住処に帰ることした。

ソウは笑って「またね」って言ってくれたから、「次はまた違うお菓子を作るから楽しみにしてて!」って言ったら困ったように笑って「ほどほどにね。俺もなにか持ってくるよ」と言った。次も楽しみ!次はなにを作ろうか。お菓子を作るのは得意なわけではないけど、ソウが喜んでくれるなら、頑張っちゃう。


「ねぇレンちゃん」

「なぁに」

「私、生きてた時はどんな子だったのかな」

「えっ…?」


私の住処に向かって隣を歩いていたレンちゃんにそう話しかけると驚いた様に声を上げて立ち止まってしまった。


「レンちゃん?」


私が声をかけると我に返ったようにいそいで笑顔になった。多分レンちゃんはなにか隠し事をしているんだけど、それはきっと知らなくていいことだと思う。なんとなく、そんな気がする。


「ごめん、今までそんな話してこなかったら、びっくりしたよね」

「ううん。いいの。ユンが思い出したいなら、協力するよ」

「ありがと、レンちゃん」


そう言って二人して笑いあった。

レンちゃんは私の住処まで来てくれて、少しお話したあとに自分の住処に帰っていった。

今日も楽しかった。まだ陽は昇っていないけれど、すこしゆっくりとした時間をすごしたあと、私はまた眠りについた。また明日。





―――――――――


ユンは自分の生前のことは何も覚えていない。


…ユンは生前はいじめられていた。


きっかけはわからない。私が知った時にはもうそうだった。


別々の学校に通っていたし、ユンも心配かけたくないからか何も話してはくれなかった。だから自分から声をかけたかったけど、できなかった。だけど元気がなくやつれていくユンを見ていて、何とかしたいと思っていた。

まずは証拠集めとしていろいろ調べた。


靴や教科書、制服を汚したり壊すは日常茶飯事。物をとったりお金をゆすったりもされていた。

時には暴力も受けていたし、知り合いの不良男子数人を集め、定期的に襲わせていたこと知ったときは殺意を覚えた。


そうして集めた証言と証拠を持ってユンの学校の担任の先生に直談判しに行ったとき、その人は面倒くさそうな顔をして私を無視した。それでも何回も会いに行って話しをしようとした。

ある日、根負けしたのか話をしてくれることになった。でもそれは『話をする』というより突き放しだった。

曰く、主犯格の女の子や例の不良男子たちは貴族や裕福な商人の子供たちだという。変に睨まれたくないから、黙認しており、それは学校の先生やほかの生徒たちも同じだという。

私は絶句した。ここにはあの子の味方がいない。ついでと言わんばかりに彼女の家庭状況も聞かされた。知らなかったが、両親は離婚しており母親からネグレクトのような扱いを受けていたそうだった。

…本当に知らなかった。私の前では明るいユンだった。私は本当に、なにも知らなかった。親友面していたくせに、親友のこと知った風だった。ユンは私のことどう思っていたんだろう…。悔しくて涙が出てた。

結局なんにもしてもらえず泣きながら帰路についていたら、喧噪が聞こえた。ふとその声の方を向いたらユンがいた。ユンが、川に沈められそうになっていた。

必死だった。必死に止めた。その時に何を言ったのか、何をしたのかあんまり覚えていない。でも。その時私が死んだことは、分かった。



気づいたら『幽霊の棲む森』にいた。自分が死んだのはすんなり理解したけれど、それでも私の頭の中はユンのことで頭がいっぱいだった。あの後どうしたんだろう。ユンは無事だろうか。ユンは今…どうしているかな…


そんなことを考えて何日か経ったある日、目の前にユンが現れた。でも、彼女は何も覚えていないようだった。私の大好きだった、明るくて天真爛漫な彼女だった。私は泣いた。声を上げていっぱい泣いた。ユンはうろたえながら泣き止むまでそばにいてくれた。


私が泣き止んだ後、ユンは「自分は死んだのはわかっているけど何も覚えていないの。名前もわかんない」と困ったように笑った。だから私は彼女に『ユン』と名付けた。そして私は『レン』と名乗った。

『ユウレイ』という言葉を簡単にもじって付けた、安易な名前。私も本来の名前を捨てた。私の名前で嫌なことを思い出してほしくないから。私の付けた名前は、気に入ってくれたみたいで安心した。


それから、できる限り私が死んだあとのことを調べた。活発に活動できるのは夜だけだけど、昼もそれなりに動けるから、ユンたちが眠っている間にこっそりと。

私はどうやら、取っ組み合いなって押されたときにバランスを崩し、岩に頭を打って死んだようだ。その様子を見ていたいじめっ子たちは、怖くなったのか逃げ出したみたい。ユンは私が死んだことを理解したときに、なにかが壊れてしまったようだった。


次の日からユンは学校を休んだ。そして、主犯格であった女の子やその取り巻き数名を殺していた。すごく驚いたけどそれだけじゃなかった。その日から数日の間に、たくさんの人を殺した。

自分を襲った不良男子たち、見て見ぬふりをした教師や学校の生徒、親まで殺していた。十数人の人をその手にかけていて、兵に捕まる直前に自分で命を絶ったみたいだった。

おかげで街は大混乱。ユンとユンが殺した人たちの関係性も露わになって、関係者はいろいろと大変なことになっていたようだけど、そこまでは私の知りたいことじゃなかったから調査をやめた。


今ユンは、私の隣で楽しそうに笑っている。

本当に忘れているのか、忘れたふりをしているのか、わからない。けれど。

…今度こそ、ユンを守る。

いつ思い出すか、わからない。少なくとも私はユンのそばを離れるつもりはない。彼女が成仏するまでは私も成仏なんてしない。あんな思いは二度としたくない。させたくもない。私の大好きな友達。口下手で表情がでにくい私とは正反対なのに私と仲良くしてくれる大切な友達。



…ねぇユン。生前のユンは、私のことどう思っていたのかな。

聞けたくも聞けない。聞くのが怖い。私の一方通行の想いかもしれない。それでも私は。

あなたのそばにずっといるから。

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