俺だった
ある峠に関する噂を聞いた。
なんでも首のない地蔵が「何処だ何処だ」と言いながら、己の首を探しているのだという。
やれ戦国時代の武者の呪いだの、戦中の悲劇が関係あるだの、尤もらしい巷説がネットに散見される。
見た瞬間、吹き出した。
だってあれは、俺が原因なのだ。高校生のとき、何人かで肝試しに行って、ふざけて蹴ったら首が取れてしまった。それまで変な噂は一切なかったのだから、どう考えても、そこから出た話だ。誰かが首のない地蔵を見て、想像を膨らませた結果に違いない。
噂の原因が自分だというのが面白くなって、再びその場所へ行ってみた。
道路から少し入った獣道、件の地蔵が、胴体だけで佇んでいる。
あぁ、これだこれだ。
苦笑しつつ眺めていると、不意に後ろで声がした。
「何処だ……何処だ……」
振り返った。
地蔵の首だけが宙に浮かんで、恨めしげな顔で俺を睨んでいた。
その瞬間、俺は理解した。
あぁ違う。違ったんだ。
こいつは。
首を探してたんじゃなくて。
「……見付けた」
首を折った奴を。
「お前だ」
石の掌が、背後から俺の頭を掴んだ。
了