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週刊誌の記事(抜粋)

 筆者の元へ、その相談が届いたのは今春のことだった。

『死んだ息子の根も葉もない噂が広まっていて困っています』

 メールはそんな書出しで始まった。


『死んだ息子の根も葉もない噂が広まっていて困っています。

 息子はもう十年前に亡くなっています。仕事での失敗や失恋、事故による怪我などが立て続けに起こり、心身を病んでしまった末の自殺でした。

 死ぬ前、息子は一人で思い出の場所──自分が通っていた小学校、中学校、高校。昔住んでいた家。よく遊んだ公園などを見て回ったと、遺書に書いてありました。「あの頃に帰りたい」とも書いてありました。

 その翌日、息子は家からずいぶん離れた場所(自殺の名所と呼ばれるところです)で、崖から海へ飛び降りました。

 それが、十年前の冬のことです。


 しかしその息子が幽霊になって現れるという話が、どういう訳か近隣の小中学校などで噂になっているらしいのです。そしてその噂はどうやら、息子が通っていた高校や、働いていた職場などでも形を変えて話されているらしいのです。

 別に、その話の中で息子の名前が特定されているわけではないのですが、死の直前の息子の姿(髭も髪も伸びっぱなしでした)に似ているようですし、その「幽霊」が現れる場所というのも息子が死の直前にとった行動ともリンクしているようでした。なので、噂に出てくる男が私の息子であることは間違いありません。

 こんな形で息子の死が面白おかしく語られている状況はあまりにも哀しい。私はどうにかこの噂を無くす、根絶させることは出来ないかと考えました。ネットで相談してみたところ、メディアを通して真実を語ることで噂は消せるのでは、とアドバイスいただき、今回連絡させていただいた次第でございます。

 どうか、お力添えいただけませんでしょうか。』


 個人の特定を避ける為、一部にフェイクを入れたが、相談内容としては以上の通りであった。

 筆者は早速相談者へコンタクトを取り、併せて近隣への聞き込み調査を開始した。


(中略)


 これらの聞き込み証言から、噂は筆者が想像していたよりも広範囲に広がっていることがわかった。

 しかし、それぞれの話の内容は違えど、死の直前に相談者の息子さんが巡った思い出の場所全てに噂があるのはどうしてなのだろうか。しかも、そのどれもが怪談話に変容している。


 確かに息子さんはそれらの場所を死の直前に巡った。

 確かに息子さんはその後、自ら命を絶った。

 ご遺体が見つかった時にはニュースにもなった。


 だからといって、こんな風に足跡を辿るように、十年もの間、噂が残り続けるものだろうか。


(中略)


 息子さんは遺書に「昔は良かった」と書いていたという。しかし誰かを呪うような言葉は一言も書かれてはおらず、むしろ感謝の言葉で埋め尽くされていたそうだ。

 もしも噂にあるように、彼が幽霊となって現世を彷徨っているのだとしても、それはきっと遠い日を懐かしむ為で、決してひとに危害を加える為などではないはずだ。


 噂を根絶させることは容易で無いが、せめて彼の遺した思いが正しく世間へ伝わることを、筆者は切に願う。

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