樋口薫side
読んでくださりありがとうございます!!
思った以上に読んでくれる人がいるらしくて励みになります!
稚拙な文ですが面白くしていくので楽しんでください!!
私、樋口薫は久保達哉に恋をした。とはいっても最初から好きだったわけではない。
最初はただ仲良くなれれば良いなと思っていただけ。
高校に入ってからもあのカスを相手にするのが嫌で嫌で仕方がなかった私はあの修学旅行の男の子のように強い言葉を使って孤独ではなく孤高を目指そうとした。
高校の入学式の日に私は山本を呼び出した。
なぜか上機嫌だったが、
『貴方のことは世界で一番嫌い。高校では話しかけてこないでくれるかしら。虫唾が走るのよ』
あの時の間抜けな顔は一生忘れられないわ。その後、何か喚いていたが、
『死ねカス』
この一言で黙り込んだ。そうして、高校では人とのかかわりをなるべくゼロにしようとしたのだが、同じクラスに見覚えのある男子がいた。
それは偶然にも修学旅行で私を助けてくれた男子だった。
私の孤高を目指すという目標は一日にして終わった。
代わりに私の中に生まれたのはこの達哉くんと話がしたいという欲求であった。
ただ、元いじめられっ子の私はどう人と接点を得ればいいのかわからない。
だから、毎日明日になったら話しかけようと逃げていた。
達哉君の観察を始めて、分かったのが、彼は友達作りに失敗したらしい。趣味が合う友達がいなかったのだろう。なぜなら彼はレトロなゲーム好きで最新のゲームの話などには入っていけなかったらしい。私は不謹慎だが二人でボッチで一緒だと思った。私にも話しかけてくれる女子がいたがどうしてもついていけなかった。それとあのカスが私と幼馴染ということをばらしたせいで、紹介してくれとせがんでくる女の相手をするのがもう嫌だった。
そして、あの日の放課後、達哉君がHRが終わってみんな帰宅しているにも関わらず、チェスをやっていたのだ。これはチャンスだと思い話しかけようと思った。
『ねぇ、久保くん、授業はもう終わっているのだけれど・・・』
『へ?』
集中しすぎよ・・・
呆れと同時に学校での初接触なので、大切な思い出だ。
『それより楽しそうね。私と勝負しない?』
私は家の方針で習い事だらけだった。その中には将来のためと将棋や囲碁など明らかに女の子がやる必要があるのかということすらやらされていたが、あの日のためだったと思えば悪くもなかった。
ただ
「まさか負かされるとは思わなかったわ・・・」
自慢じゃないけど、同年代とはその手の遊びでは勝負にすらならない。
だからこそ負けたことは物凄く悔しかった。でもそれと同時に対等に遊べる人間が同級生にできてうれしかった。
そこからは連絡先を無理やり交換し、名前呼びをするようにした。
その日は私たちの関係のスタート地点。いつまでも忘れられない。
次の日から私たちは放課後に勝負をするようになった。
ボードゲームはもちろん、様々なゲームを放課後にやった。
『棋は対話なり』
将棋の格言にこのようなものがある。
一局の将棋は相手とのコミュニケーションの側面があるというものだ。
相手の指した手に対して応じる。それをまた返し、またまたそれを返す。
それをやっていると、相手の思考を理解することができる。不思議な感覚だが、強くなれば強くなるほど、また達哉君との勝負をすればするほど達哉君の考えが理解できた。
彼も私とのこの不思議な感覚を気に入ってくれていたと思う(そうじゃなかったら死ぬわ)
達哉君の思考は強く、真っすぐだ。
どれだけイジメられ、傷つこうとも私との勝負で濁りはなかった。
だから私は彼の魅力にどんどん惹かれていった。
そして、今日ついに私は想いを伝えた。キスまでしたのよ?これで振られたら死んでしまうわ。
私は一瞬不安になったが、そうなったら好きになってもらうまでアプローチするまでよ
「ふふふ、逃がさないわよ。達哉君」
明日が楽しみね
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明朝、訓練所に行く。達哉君の姿がない。昨日のが堪えてサボったのかしら?けれど、彼はどんなにひどい目にあっても次の日には学校に来ていた強い人よ?どうせ遅れているだけ。すると、
「おはよう、樋口さん。いい天気だね」
クソが。朝から最悪の気分だ。
「彼氏の久保君はどこにいるんだい?一緒にいなくていいのかい?」
ニヤニヤしながら言ってくる。
「そうね。今日から私たちは恋人だからいつも一緒にいるつもりよ。よかったわね。あなたの言うとおりになったわよ」
「は?それはどういうー」
「みなさんおはようございます」
フィアナが私たちに向けて挨拶をしてくる。クラスの男子の半分くらいは彼女の虜になっていた。
同性の私から見ても魅力的だと思うし、惹かれてしまうのも仕方がないわね
「今日は重大な発表があります。」
大半の人間はフィアナの方を見ているが私からしたら達哉君の方が気がかりである。
「昨日深夜、異邦の勇者である久保達哉様が謀反を起こし、アルブ様が直接処罰を下されました」
「え?」
寝耳に水だった。達哉君が謀反?クラス中で動揺が走る。
「どういうこと!!!!達哉君がそんなことをするわけないじゃない!!!!」
私は気づけば声を張り上げていた。
「樋口様、落ち着い「これが落ち着いてられるわけがないでしょう!!!」
私は腰に差している≪カリバーン≫に手をかけて、フィアナに向かって一直線に向かった。
クラスメイト達が総出で抑えようとしているが、私は止まる気はない。
そして、フィアナの目の前に迫った時、
「落ちつけ、薫」
私の前にクソ野郎が立ちはだかった。
「どけ!!!!」
「いやどかない。君は今正気じゃない!」
私たちはスキルを駆使して切り合う。
野次馬はこんな時だが≪勇者≫と≪剣聖≫の戦いに見とれているようだ。
「悪いが、寝てもらうよ」
私は首に手刀が入ったのを感じた。そこで私の意識は途切れた。
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目を覚ますと、私はベッドの上にいた。
首に若干痛みが残る。
横を見ると、看護師らしき人がいた。
「おはようございます、≪剣聖≫様。調子はどうですか?」
「・・・大丈夫です。それより私はどうやってここに?」
「暴走した≪剣聖様≫を≪勇者≫様がやさしくお姫様抱っこで連れてきてくれたんですよ?私たち宮殿内部の人間はあの時の話で持ち切りですよ!」
「そう・・・です・・か」
私は腸が煮えくりかえるのを感じた。最悪だ。後でお風呂で菌を落とさないと。
私はお礼を言って、この場を去ろうとすると、
「そうそう、≪剣聖≫様が寝ている間に音無様がいらっしゃいました。目が覚めたら部屋に来るようにとのことでした」
「分かりました。言伝、感謝します」
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私は音無先生の元に向かう前にクズに触られた箇所をすぐにでも落としたくて、自室に戻ろうとした。
すると、通路でクズと遭遇した。
「やあ、調子はどうだい薫?」
無視。関わりたくない。
「おいおい、医療室まで運んだのは僕だぜ?お礼くらい言ったらどうだい?」
だまれクズ。余計なことをしやがって。
「久保のことは残念だったね」
ピタッと止まった。
「まさかあいつが謀反だなんてな。馬鹿な事してくれたもんだ」
拳に力が入る。そこからは血が流れていた。
「まあ、あんなやつは死んで当然のことをしてたんだから、消えてもらってよかったよ。みんなもそういってるしさ」
「・・・黙れ」
「これで薫は久保と変な噂とかを立てられなくなってよかった。心配してたんだぜ?これで昔のようにー」
「黙れ!!」
「ぶへら!!」
私は血まみれになった右手で力いっぱい殴った。≪カリバーン≫で斬らなかったのはギリギリ理性が保たれていたからだろう。
「私は達哉君が好き!そんな噂をたてられたってどうだっていい!!余計なことをしないでもらえるかしら!!!」
肩で息をしながら、私はそう叫んだ。
「ああーやっぱりそうだったんだ」
山本は今までの仮面を剝ぎすてて素の自分をさらけ出した。
「そうよ!私には彼さえいてくれればいいの!!」
「だとしたら余計死んでもらえてよかったわ」
いつもの優等生の仮面をして山本はそういった。
「どういうー」
「こっちの都合だよ。それより死んだ久保のことなんて忘れな。これは幼馴染からの親切な助言だよ」
「死ね。余計なお世話よ」
私たちは互いにすれ違って元の部屋に戻った。
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シャワーを浴びながら私は冷静になった頭で達哉君のことを考えた。
なんで謀反なんて起こしたの?
その数分前に私たちは一緒にいた。少なくとも彼の瞳や脳内将棋からはそんな荒々しい読み筋は感じられなかった。
なぜ?どうして?
でも一つだけ確かなことは達哉君はもうこの世にいないというだけだ。クリアになった頭が否定したい現実をより生々しく、残酷に伝えてくる。
「なんでっ、わだじを、ひっぐ、置くいでいっじゃうのよぉ・・・」
私は嗚咽をもらしながら、一人泣いた。
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達哉君の部屋の前に来る。
つい昨日来た場所。ここで私は彼と想いを伝えた。
昨日と違うのは彼がこの扉の向こうにいないこと。
いないと分かっていても、扉を叩かずにはいられなかった。
「私よ・・・昨日の返事を頂戴・・・」
返事が返ってこない。部屋主がいないんだから当然だ。
「ひっぐ・・ぐっす」
再び涙が出てきた。もういい。私もこんな世界に未練なんてない。死んでしまいたい。
すると、部屋の鍵が開いた。
「ぇ?」
まさか達哉君が!?
「ん。来ると思った。早く入って」
音無先生が部屋の中にいて、私を招いた
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「先生はなぜここに・・・?」
私はもう抜け殻のような表情で尋ねた。
もう何もかもがどうでもよかった。
「ん、私は久保君の手掛かりになるようなものを探していたの・・・・彼が謀反を起こすなんて信じられないから・・・」
「そう、ですか・・・」
再び私と音無先生の間に沈黙が流れる。
「彼とは昨日会っていたの・・・?」
「はい。告白しました」
「・・・そう」
私は何も考えられなかった。ただ相手の質問に答えるチャットボットのようになっていた。
達哉君の部屋の殺風景さが私の内面を表しているようだった。
音無先生は何か迷っているようだった。何かを伝えようとしているようで、しかしそれを伝えたら後戻りができない。生徒に責任の片棒を担がせるのか。口に出そうで出せない。そんな様子が感じ取れた。
そんな奇妙な時間が30分ほど続いた。音無先生は口にすることを決したようだ。
「久保君は生きてる・・・」
「え?」
私の全細胞が飛び起きた。
「彼はアルブ神に殺されかけた・・・けど、私たちが転移してきた魔法陣を起動させて、どこか別の場所に行ってしまった・・・」
「ほん・・・とうですか・・・?」
「アルブ神が言っていた。ただ誤作動を起こしてしまったから場所までは特定できないらしい・・・」
私は目から温かい涙が出てきた。
「よがっだ、死んじゃっだとおもっで・・・た」
私は音無先生の胸でわんわんと泣いた。
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「すいません、ご迷惑をおかけしました」
「ん、大丈夫」
私はひとしきり泣いた後、また音無先生と向かい合って今後のことについて話し合った。
「水を差すようで悪いけど、彼が今も生きている保証はない・・・」
「いえ、絶対に生きています」
断言する。彼は私なんかよりもずっと強い。だから、どこか別の場所で戦っているはずだ。
「罪作りな男の子だね。久保君は」
音無先生は歳暮のようなまなざしで私を見ている。
さっきは無気力だったとはいえ、正直に答えすぎた。
「やめてください///」
「いいじゃない。青春っぽくて」
「からかわないでください///」
ひとしきり笑って元気は出た。若干話がズレたので真面目な方向に話を戻した。
「実際、どこにいるんでしょうか?」
「ん、見当もつかない」
私たちはまだ異世界転生してから3日目だ。
せいぜい知っていることがあるとすれば、魔王軍と争っていることだけ。しかも理由はほとんど分からない。
八方ふさがりに思えたその時、
「そうでしたか。やはり知られてしまったんですね」
私たちはほぼ条件反射で声のする方に顔を向けたーーーーー