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初戦闘

「んん~、こ、ここは・・・?」

日の光で目が覚めると、全く見覚えのない場所で横たわっていた。

口の中に砂の味を感じながら上体を起こし、周囲を確認する。

見渡す限りの木、木、木。

しかし、背後には天に届くかと思えるくらいの大樹がそびえたっていて、どこか神聖さを感じられた。

どこかの森かジャングルか、とにかく文明とはおおよそ無縁そうな場にいることだけは把握できた。

「何をしていたんだっけ?さっきまで・・・っ」

そうだ。僕はアルブ神に殺されかけて、無我夢中に≪魔剣≫を魔法陣に突き刺したんだった。

ということはここは転移先ということか・・・?

「何とか生き延びられたのか・・・」

一難去ったことにホッとして力が抜けた。

けれど、自分が置かれている状況に絶望した。今更あそこに戻ったとしても殺されるだけ。しかも今まで通りに罵声を浴びせられるだろう。

先に進んでも地獄。戻っても地獄。どうすればいい。

何をしても八方ふさがりのこの状況にうずくまって現実逃避をするしかなかった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

泣いていても変わらないことは身に染みて理解している。そう考えられるくらいには思考は整理できた。

「そういえば背中の傷は・・・?」

しかし、背中を触ってみると、血は完全に止まっていて、痛みもほとんどなかった。

「致命傷だったはずなのに、どうして・・・?」

誰かが助けてくれた?いやこんなところに人がいるとは考えづらい。

そうなると、後ろにあるこの馬鹿でかい大樹が救ってくれたのだろう。

さっきから言葉では言い表せない、身体を温めてくれるような不思議な感覚を背後に感じていた。

「ありがとうございました」

僕は命を救ってくれた大樹に感謝を述べ、これから先の方針を考える。


まずは現状の把握だ。

職業なし。魔力はなし。現在地分からない。食料なし。荷物なし。

唯一の持ち物は≪魔剣≫のみ。

百人中百人が最悪の状況だと言うだろう。

「食料の確保、それと水か。後は周辺の状況を把握する必要があるかな」

大樹を拠点に周辺の散策をすることを決めた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

僕は≪魔剣≫のみを頼りに、周辺の散策した。

自分よりも大きい木が周りを覆っているので、日の光が遮断されて、不気味な薄暗さだ。

歩くたびに草を踏む音と鳥が空を羽ばたく音、そして、遠くの方では遠吠えが聞こえていた。

内心ビクビクしながら歩を進めた。

すると、果物らしきものが見つかった。

見た目はリンゴのようだったが、やはり見たことがないものである。

「毒とかあるのかな・・・?」

けれど、夕食を食べていなかった僕は腹がすきすぎていて、食欲に負けてしまった。

「・・・っ、美味い!」

口の中で果汁が五臓六腑にしみわたった。味は見た目通りリンゴに近く、噛むたびにシャリシャリと口の中にうまみが絞り出されてくる。

よく見ると、周囲には同じ果物がたくさんなっていたので、数個取って持って帰ることを決めた。

「よし、これで餓死はしない・・・!」

当面の食糧問題はここにくれば何も問題がないだろう・・・と思っていた。

一旦大樹の元に戻ろうと後ろを振り返ると、2mを優に超えるミノタウロスが僕を見下ろしていた。

「っ!!!!」

後ろに逃げようと思ったが別のやつが僕を逃がさないようにしていた。

右、左すべて囲まれていた。

「クソっ」

4匹ほどの群れなのだろう。完全に囲まれていた。目を見ると、殺る気満々だった。ここは彼らの縄張りだったと気づいて、自分の浅慮を嘆いた。

自衛の手段は刃のない≪魔剣≫を構えてハッタリをかますことだけだった。

すると、ミノタウロスの一匹が突然叫んだ

「グオーーーーーーーーーー!!!!」

「っぐ!!」

至近距離の咆哮に耳を塞いだ。

すると、ミノタウロスと僕らの周りに霧が出てきて周囲を隠した。

「ま、まさか魔法・・・?」

獣でありながら魔力を持つ『魔獣』であった。


正面のミノタウロスが雄たけびを上げながら突っ込んできた。

「は、速い!」

なんとか進行方向に対して、右に転がりながら逃げた。

すると、右側にいたミノタウロスの拳が上から僕めがけて放たれた。

避ける術がなかったので、無我夢中で≪魔剣≫で受け止めた。

「重ッ!」

僕は身体が潰されそうになるのを踏ん張った。

膂力の差でじりじりと僕は潰されそうになる。筋繊維が張り裂けそうになった。

このまま押し切られると思った。

ああ、こんなところで終わりか

死を受け入れようとして身体の力がどんどん抜けていく。

死に方としては良いだろう。自殺よりもカッコいい。

死んだら祖先にミノタウロスと戦ったんだ!って自慢しよう。


『達哉君が好きよ///これからも一緒にいて///』

『明日改めて、返事を頂戴。待っているわ』


「っっっ」

死ぬ寸前になって昨日の夜の薫を思い出した。

僕はまだ薫に返事をしていない!『僕も好きだ』と伝えていない!

まだ二人でやりたいことがたくさんある!

元の世界に戻って、水族館や動物園にデートにいったり、映画館で恋愛映画をみて手をつないだり、クリスマスには一緒にイルミネーションを見たり!

その未来を実現せずに、

「死ぬ・・・わけには・・・いかない!!」

足に力が戻ってきた。圧殺状態から少し押し戻したが、ミノタウロスの膂力には勝てなかった。

「クソ・・・が!」

諦めてたまるか!

「モォ・・・!」

すると、異変が起こった。

ミノタウロスの力が徐々に力が弱くなっていき、最後にはミノタウロスは正面から倒れてしまった。

え?何が起きた?

何はともあれ、

「ハアハア・・・助かったけど何が起きたんだ・・・?」


「グオーーー!」

一匹が動けなくなってるのを見て、他の三匹のミノタウロスがキレてしまった。

襲い掛かってくるミノタウロスをいなしながら何が起こったのかを分析した。

そういえば、


『貴様のその≪魔剣≫は魔力を食うようだな。だが、それの使い手は全くの素人。この世界で一番弱い』


「魔力を食う・・・」


そうだ。魔力を食ったから、アルブ神の魔法を無効化できたんだ。

つまり、さっきのミノタウロスを無力化できたのは≪魔剣≫がミノタウロスに触れていて、魔力を食ったということだ。

それなら、僕が勝つための勝利条件は『≪魔剣≫をミノタウロスに当てること』だ。

≪魔剣≫の特性は把握した。勝てる可能性もゼロじゃない。

後、必要なのは勇気だけだ。

「薫、勇気をくれ!」

()は薫に出会ったときの口調で自分を鼓舞した。


「クソっ!」

ミノタウロスが突っ込んできたので、横に避けた。その隙に≪魔剣≫を当てたいが、当てようとすると、他のミノタウロスが突っ込んでくる。

幸いなことに突進か腕を振り下ろしてくるしか攻撃のバリエーションがないので、避ける分には注意していれば問題ない。

ただ、

「ジリ貧だ・・・」

遮蔽物もほとんどなく、霧で四方を囲まれている。

「どうするっ!」

間一髪背後から来る突進を躱しながら、突破口を探す。

すると、違和感を感じた。

ミノタウロスの足跡を見ると、直線の動きしかないのである。

つまり途中で曲がることができない(・・・・・・・・・・)

右から突進してきたが、落ち着いてみれば直線の動きだ。

さっきまでは巨体故に恐ろしく感じていたため、早めの回避を行っていたが、何度も見て慣れた。

俺はギリギリまで引き付けて躱した。

勝ち筋が見えた。


今わかっていることを整理しよう。

1、ミノタウロスは突進が直線で途中で曲がることができない

2、近距離でいると振り下ろし、約10m以上離れると突進をしてくる


そして、


3、この二つの技はスキルである


本来であれば獣が魔法を使うだけでも恐ろしいのに≪スキル≫まで使われたらおしまいだ。


しかし、今は例外だ。


ミノタウロスの突進は止まるところまでは≪スキル≫が発動しているという点に穴がある。


ミノタウロスが突進してきた。ギリギリまで引き付ける。

そして、≪魔剣≫をミノタウロスの進行方向の地面にぶっ刺した。

「グモ!!!?」

ミノタウロスには≪魔剣≫は折れない。なぜかその確信があった。

≪魔剣≫はびくともしないが、ミノタウロスはスキルの発動中はずっと魔剣に突っ込みまくることになる。

「グ・・・モォ・・・」

ミノタウロスの一匹の魔力を≪魔剣≫が食った。

二匹目のミノタウロスが力尽きたのを見て、無防備な俺に対して、突進をしてくるがもう見切った。

危なげなく躱して、≪魔剣≫を回収。

そして、折り返しで突っ込んでくるミノタウロスに先ほどと同じようにギリギリまで引き付けて、≪魔剣≫を地面にぶっ刺して避ける。

三匹目が力尽きた。

そして、最後、頭上から振り下ろしてくる拳を躱して≪魔剣≫を回収。

最後の一匹なんて怖くない。自分から≪魔剣≫をもってミノタウロスに向かって突っ込んだ。

「うおおーーー!!!!」

そして、振り下ろしてくる拳を躱しながら、ミノタウロスの脇腹に思い切り叩き込む。

「グ!・・・モォ・・・」

ミノタウロスの群れを撃破した。

もう動いてこないよな・・・?

俺は警戒したが、動いてくる様子はなかった。そして、周囲を覆っていた霧も消えた。

すると、緊張が途切れてどっと疲れが押し寄せてきたが、やり遂げた達成感で身体が満ちていた。

そして、

「よっしゃあ!!!!」

心の底からあふれんばかりの喜色の声が森中に響いた。

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