再びのイジメ
次の日になり、訓練が始まった。場所は騎士たちの訓練所である。
見物の騎士や召使、貴族や一般人も見学に来ていた。
訓練といっても、魔力や職業のスキルを使うことが主な目的である。
が、
「私たち本当に力なんてあるのかしら・・・?」
薫がクラスメイト達の本心を代弁してボソっと呟いた。
「大丈夫ですよ、樋口様」
フィアナが視察に来た。忙しいだろうにご苦労なこった。
「勇者様方の魔力は感じられます。後は具現化するだけです」
「具現化・・・?」
「はい。それを今からお伝えしますね」
フィアナはニコリと笑った。
「まずは、目を閉じてステータスオープンと念じてみてください」
僕は言われた通りにやってみた
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久保達哉 レベル:なし
≪職業≫:
≪スキル≫:なし
≪所持≫:≪魔剣≫レベル:1
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やっぱり僕の職業はないらしい。そして僕の手に勝手に握られているのは≪魔剣≫というシンプル極まりない剣だった。効果も何もわからないから本当になんのためにあるのかわからない剣である。
この剣の代わりに職業をくれよ・・・
「達哉君はどうだった?」
「僕は相変わらず無職だよ」
僕は強がりでヘラっと言った。
「私は良く分からないわ···」
薫はゲームとかやらないから職業とか言われてもピンとこないのだろう。
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=
樋口薫 レベル:1
≪職業≫:≪剣聖≫
≪スキル≫:剣術 武器破壊 納刀術 抜刀術 俊敏 刃耐性 剣強化
≪所持≫:なし
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「・・・チートだよ」
「そ、そう」
ちょっと、いや滅茶苦茶うらやましいのが言葉に出てしまった。
見るからに強そうなスキルだらけ。
一個でいいから分けてほしい。
薫は僕の羨望から出た言葉に若干の申し訳なさを感じているようだった。
「はぁー」
何度目か分からないため息。本当なんなんだよ。理不尽すぎるぞこの世界も。
「おーい、久保はどうだったんだ?(笑)」
ニヤニヤしながら奴らが来た。
「・・・無職だよ」
「そうか(笑)」
楽しそうだ。
「ちなみに俺はこんなんだったわ」
頼んでもないのに自分のステータスを見せびらかしてくる。
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山本貴成 レベル1
≪職業≫:≪勇者≫
≪スキル≫:全耐性 全属性適正 高速魔力回復 吸収 放出 自動回復
≪所持≫:なし
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「いやあ、≪勇者≫って最強でまいっちまうわ、俺も無職になってみたいよ(笑)」
「おいおい言い過ぎだぞ(笑)」
ぎゃははと下品な笑い声をあげる。
音無先生がこちらに向かってくる。
「おっと、うるさいのがこっちに来る前に退散しますかね」
山本たちは音無先生と入れ替わりで離れていった。
「何かされた・・・?」
「いえ、大丈夫です・・・」
何もなかったわけではないが、特に伝えるべきものでもないだろう。
「相変わらず、自己承認欲求が強い男ね。汚らわしい。いちいちこっちにも目線を向けてくるから寒気がするわ」
薫はご立腹である。本当に幼馴染なのかな?仲悪すぎないか?
薫の反応を見て、音無先生は表情こそ全然変わらないが、疲れているようだ。
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「皆さん、自分のステータスは把握できましたか?そしたら自分の直感に身をゆだねて呪文を唱えてみてください」
フィアナが皆にそう伝えた。
「≪炎≫っっっつ!!」
誰かが唱えた瞬間、炎が出た。本当に魔法だ!それを皮切りにクラスメイト達は魔法やスキルを使い出した。
みんな興奮している。
「≪水流≫!うわ!すごい!本当に水が出た!」
「≪回復≫、ん~良く分からない」
「あ、肩の痛みが消えた」
魔法適性の高いクラスメイト達は自分の魔法を使って興奮しているようだった。
逆に武器適正の強いクラスメイト達は魔法を使えないのでつまらなそうだった。
そんな彼らを見て、フィアナは微笑んで
「武器適正の強い方々には今から武器を支給します」
パンパンと手を叩くと騎士たちが武器を持ってきた。どれも高級で滅茶苦茶強くなれそうなものである。
そして、それぞれ適性のあった武器を持つと、
「それらの武器はこの国の国宝級の武具です。皆さんにこそ相応しいのでお使いください」
そして武器を持ったクラスメイトは
「うお!すげえ!」
あるクラスメイトが弓を持つと、さっそく的を狙い、確実に真ん中を射抜いた。完全に素人なのに弓を持つと別人のような武芸を披露した。
それを皮切りにまた武器適正の強いクラスメイト達も武器で様々な技を披露している。
みんな羨ましい。楽しそうである。
が、
「フィアナ姫?私の武器は?」
明らかに不機嫌な山本である。
未だ武器をもらっていないのは≪勇者≫である山本と≪剣聖≫である薫だけである。
フィアナは薫と山本、そして、僕を見て
「お三方にはアルブ様から直接話があるそうです。皆さんを召喚した魔法陣で待つとのことでした」
と言った。
僕らは言われた通りに召喚した場所に向かった。
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「いやあ、どんな武器がもらえるのか楽しみだね、薫」
山本は学校での苗字呼びではなく、名前呼びで気軽に呼んだ。
「何をするのかしらね・・・?」
薫は完全に山本を無視して、僕に話しかけてきた。
「さ、さあ。僕みたいな無職にとってもいいことだといいけど・・・」
山本が親の仇を見るかのように僕を見ている。それでも薫に向き直って
「俺を無視しないでほしいな、薫。幼馴染だろ?」
なお、食い下がる。薫は鬱陶しいといった顔で嫌々答えた。
「名前で呼ばないでくれないかしら、ゴミくず。私は達哉君と話したいのよ」
「ッ、俺のことは名前で呼ばないで、久保のことは名前で呼ぶんだね。好きなのかい?」
僕は一瞬びっくりした。そして隣に歩く薫を見ると、
「はあー、馬鹿言わないで。達哉君のことを名前で呼ぶのは友達だからよ。私の友達は彼だけだし、信頼もしている。むしろ私のことを名前で呼んでくれないことに不満を抱いているくらいよ」
こちらにウインクしてきた。僕は一瞬で顔が赤くなった。薫が僕のことを友達と思ってくれていることを口にしてくれるだけで嬉しかった。
そんな様子が面白くないのか、山本はだんまりを決め込んだ。
だが、視線は僕に釘付けだった。
そこからは無言でアルブ神のもとに向かった。
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「来たか」
アルブ神が玉座のようなところに堂々と座っていた。
その声一つで僕らは緊張感に苛まれる。
「樋口薫、そして、山本貴成・・・ついでに久保達哉か。よく来たな」
僕はやっぱりついでか。結局のところの神様にも僕の能力は分からないらしい。
「はい、お呼びに預かり光栄です」
こういう時の山本の外面の良さは完璧だ。跪いて西洋式の礼儀作法を完璧にこなしている。僕は慌ててそれを見習った。
「良い。楽にせよ」
顔を上げた。すると、薫と山本の前に銀と金の剣が現れた。
「その二つの剣は≪剣聖≫と≪勇者≫のために我自らが創造した双子の剣である」
「ほぉ」
なぜだか知らないが山本が嬉しそうである。
「銀の方の剣が≪カリバーン≫。世界最高の堅さを誇るオリハルコンで作られた剣である。堅さはもちろんのことだが、使い手のレベルが上がれば空間ごと切り裂けるようになる。これは≪剣聖≫である樋口薫。お前に授ける」
「あ、ありがとうございます」
薫は戸惑いながらも、≪カリバーン≫を受け取った。
「す、すごい、力が湧いてくるわ」
≪カリバーン≫の性能が相当凄いのか、薫は感嘆の声を漏らした。
「次に金の剣の方であるが、言うまでもなく≪勇者≫の剣である」
「ありがたき幸せ」
山本が丁重に金の剣を受け取った。
「その剣の名は≪エクスカリバー≫、≪聖樹≫を素材にして創造したものである。効果は光属性の能力を倍にし魔族に対して与えるダメージを増やす。そして、その剣には切り札も備えてある」
山本は滅茶苦茶嬉しそうに話を聞いていた。それはそうだろう。チートの職業に対して、チートの武器がもらえるんだ。山本じゃなくても大喜びだ。
「残りは久保達哉か」
「えっ、僕?」
呼ばれるなんて思わなかったからびっくりした。
「貴様とて異邦の勇者だ、隠された力があるはずだ、フィアナから聞いている。我自らその剣を調べてやろう」
「あ、ありがとうございます」
僕はいつの間に持っていた≪魔剣≫をアルブ神に渡そうとした。
その時、
バチン
「っっっっ」
アルブ神が≪魔剣≫に触れようとすると、剣が拒否反応を示した。
玉座に沈黙が流れた。僕はどうしてよいかわからなくなっていてた。
「あの、申し訳ありません」
僕は思考がゴチャゴチャニなる中で謝っていた。
「・・・なるほど、そういうことか」
アルブ神は僕のそんな謝罪なんて気にせずに神妙な表情をしていた。
そして、僕の方に向き直り
「久保達哉、亥の刻になったら一人で再び我の元に来るが良い」
「は、はい」
そして、僕ら三人を見据えて、
「下がれ」
僕らはそのまま玉座を後にして、クラスメイト達がいる訓練所に向かった。
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僕らが訓練所に戻ると、騎士や召使いの人たちと和気あいあいと話し込んでいた。
お互いの世界の風俗や流行などの情報交換をしている者たちがほとんどだった。
「随分楽しそうね」
「ね」
僕と薫は同じ感想を抱いていた。
そして、僕ら三人が戻ってくると、騎士や召使が寄ってきた。
「≪勇者≫様、こちらに来てください!」
「いや、私の方に!」
「いえいえ私よ!」
女性の召使いたちはこぞって山本の元に集まってきた。
他のクラスメイト達の比じゃない。
山本は≪勇者≫であり、中身を置いておけば外面が良いのである。だからお近づきになりたいという者は多いのだろう。
それは薫も同じだった。
「≪剣聖≫様、私とお茶でもどうですか?」
「お近づきのしるしに貴方に似合うと思って買った髪飾りです。どうぞお受け取りください!」
「私とどうぞ清く正しいお付き合いを!」
薫も人気が高い。元の世界であっても滅茶苦茶モテていたのだ。そこに≪剣聖≫なんてレアジョブを発現したんだ。近づきたいと思わない方がおかしいだろう。
「興味ないわ」
一蹴・・・
「私、あなたたちのようなうわべだけの人間に興味なんてないの?二度と近づかないでくれるかしらブ男共」
空気が凍った。さっきまで春のような陽気な雰囲気だったのに、今は極寒の冬だ。
「さ、達哉君、行くわよ」
「う、うん」
僕に対していろいろな視線が刺してくる。ただ、この視線の種類は嫉妬だけではない。
不快、欺瞞、不満、憤怒など男だけではなく女性からも視線を受けている。
「あの、≪剣聖≫様・・・?質問よろしいですか?」
「・・・どうぞ」
「そいつは無職ですよね?」
場が凍った。
「だから?」
「な、何でそんな無職と一緒にいるんですか?」
「そ、そうだ。異邦の勇者様の中になんでそんな無能がいるんだ!」
「そうよ、≪剣聖≫様がそんな男になびくなんてありえないわ」
こちらの世界の人が僕を糾弾し始めた。
僕が薫と一緒にいることに嫉妬していたクラスメイト達はここぞとばかりに声を上げてきた。
「そうだ!お前は女性のスカートを撮影したりするド畜生だろう!」
「樋口さんの弱みもそういう感じで握ったんだろ!」
「きっとそうよ!私たちを見る目がいつも気持ち悪かったし!」
何だこれ・・・山本たちの口は封じたはずだ
「山本君!!」
音無先生が声を上げた。
「僕らは噂なんて流していませんよ。ただ、久保が無職である事実を伝えただけですよ。」
「っ」
音無先生は苦虫を嚙み潰したような顔をした。
確かに嘘の噂を流していない。
ロザリア王国の彼らは召喚した勇者が無能で最弱だと分かり、しかも≪剣聖≫と仲良くしていることに腹を立て、クラスメイト達の大半は僕が悪だと信じ込まされている。
そうつまり、音無先生がいくらここで止めようが噂はあることないことを伴って広がっていく。
そこで僕は気付いた。詰んだと・・・
その後のことは記憶にない。僕は無我夢中で部屋に逃げ込んだ。
そしてカギを閉め、心を閉ざした。