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無能

書いてて異世界転移したくなってきました。

 さっきまで学校の下駄箱で薫と話していたはずだが、光に包まれた後僕らは見覚えのない場所にいた。

SF小説を読みまくっていたので、僕は信じられないながらも現状を異世界転移した世界だということを推察できた。

 「なんだよこれ・・・?」

 「どうなってんの?」

 「さっきまで、部屋にいたはずなのに!」

周りにはクラスメイト達、総勢30人と音無先生がいる。

現状を把握できなくてパニックになっている者がほとんどで騒然としている。

「どうなっているの・・・?」

隣で薫がボソっと呟いた。

未知の体験に脳の回転が追い付いていないようだった。

その証拠に僕の方に身体を密着してきているため、普段よりも距離感がバグっている。

いい匂いで役得感があるけど、恥ずかしいから勘弁してほしい。

「おい、久保がこの状況を利用して樋口にくっついているぞ!」

山本の一言でクラスメイト達は落ち着いたらしい。

薫も僕に密着していることに気付いて距離を置いて赤くなっている。

「こんな時に久保って最低ね」

「この変態が」

「死んでくんない」

「樋口さん大丈夫?」

日常感を僕を使って取り戻したのだろう。普段通りの行動をすることで平静を保っているようにも思えた。

僕をイジメることで元気を取り戻すって悲しくなるな・・・

まあ実際に転移の時に僕の腕を掴んでいるのだから、反論する気もないし起きない。

「みんな落ち着いて・・・、それとこんな時に久保君をイジメないで。今はクラス全員で団結するとき」

音無先生が普段とは違ってリーダーシップを発揮している。

クラスメイト達は音無先生という大人の存在が大きかったのだろう。動揺は完全に消えた。


「よろしいでしょうか?」

玉座の方から柔和な微笑みでこちら見据えるお姫様らしき女性が声をかけてきた。

僕らは一斉にそっちの方向に目線を向けた。

「はじめまして、勇者様方。私はロゼリア王国の王女であるロゼリア=フィアナです。まずは召喚に応じてくださいましてありがとうございます」

その美貌と美しい所作から僕らは一人残らず目を奪われた。

年は僕らと同じくらいだろうか。腰まで伸ばした金髪とサファイアのような青い瞳。

煌びやかなドレスを着ているので、王女だと自己紹介されなくても相当な身分だということは予測できただろう。そして、誰に対しても分け隔てなく接してくれそうな笑顔に男子の半分以上はノックアウトしている。

「フィアナ王女。まずは丁寧な応対を感謝します。私は山本貴成といいます」

そんな中で山本は外行きの態度でフィアナに対応する。

僕からすれば吐き気を催すものだが、これで外面は良いのだから嫌なものである。

「私たちはなぜ召喚されたのでしょうか。理由をお聞かせ願えませんか?」

そうだ。そもそも論僕らは一介の高校生だ。何の力もない僕らが召喚される理由なんて全くない。

「そこから先は我が説明してやろう」

僕らはその声を聞いた瞬間、心臓を鷲掴みにされたかのようなプレッシャーを受けた。

見た目は普通の人間だが、圧倒的に位が違う。本能的な部分で感じ取れた。

「どなたですか・・・?」

「我はこの世界の紙でロゼリア王国の≪現人神≫であるアルブだ。貴様らを召喚した張本人でもある」

アルブは端的にそう述べた。

恐ろしいほどのプレッシャーを放っており、下手なことを喋れば殺されてしまいそうである。

「貴様らを召喚した理由。それは我らが仇敵である魔王群の殲滅である」

「魔王軍・・・」

「そうだ。我がロゼリア王国はここ10数年、魔王軍に攻められ続けて疲弊している。それを覆せるのが異邦の勇者である貴様らである。もちろんタダとは言わない。もし我らが宿願を成した暁には元の世界に返すことは約束しよう。そして、どんな望みでも一つだけ叶えてやろう」

僕らはざわついた。どんな望みでもかなえてもらえるのなら協力もやぶさかではない。

ただ、

「でも、私たちは何の力もない高校生ですよ・・・?戦争なんて・・・」

「心配するでない。貴様らはこの世界の人間では持ちえない能力を持っている」

「能力?」

「そうだ。フィアナ」

「はい、アルブ様。皆様どうぞこちらへ」

僕らは言われるがまま、フィアナの後ろを付いていった。


そうして案内された場所は神殿であった。

「ここは勇者様方の職業を決める場所です」

「職業?」

「そうです。この世界では15歳を超えると成人します。その時に自分の職業、言い換えれば才能を授かります。皆様にはこの神殿でその儀式を行っていただきたいのです」

なるほど、ドラクエの世界でよくあるパターンだ。

「分かりました・・・私たちは何をすればいい・・・?危険なことなら生徒たちにはやらせられません・・・」

音無先生が聞き返した。確かに危険なことなら拒否したい。

「ご安心を。ここにある≪神の石≫の上に手を乗っけるだけです。後は手のひらに刻印がなされるはずです。」

フィアナは台座の上にある中ぐらいの石に指を指して説明した。

「なら私からやらせてください・・・安全かどうかを判断します」

生徒思いの音無先生が一番乗りで身の安全を証明しようとした。

「分かりました。では、音無様、こちらへ」

フィアナが音無先生を≪神の石≫に促した。

そして、音無先生が≪神の石≫に触れると、眩い光を一瞬発して収束した。

すると、音無先生の手のひらには刻印がなされていた。

「それは≪付与師≫です。味方に対して、様々な効果を与えることができます。この国の者ではまず発現しないレアな職業です」

自分の国が危機に陥っている中で、強い味方ができたので、フィアナの言葉には嬉しさがにじみ出ていた。

「お、俺も」

「ずりいぞ!次は俺も」

「私も興味がある」

クラスメイト達は音無先生の能力の発現に自分もと≪神の石≫の前に並んだ。

僕もその一人だ。能力を発現させて戦うなんて、興奮しない男なんていないだろう。

「私もやってみようかしら」

一足遅れた薫と僕もどんな職業が得られるのか楽しみだった。

「やった!≪魔法使い≫」

「ずりい俺なんて≪投擲師≫だぜ」

「≪土術師≫だ」

「≪魔法使い≫だ。やったね!」

「私は≪僧侶≫・・・どういう能力があるんだろ・・・」

みんな一喜一憂していたがとても楽しんでいた。僕も早く鑑定してみたいな。そう思っていると、

「よっしゃぁ!≪勇者≫だ」

山本が勇者に選ばれたらしい。ただ僕らのことをアルブは異邦の勇者と言っていたので、全員勇者ではないのか?

そんな僕らの疑問を察してか、フィアナが教えてくれた。

「≪勇者≫の能力とは勇者に対する信頼や応援の規模に応じて無限に力を増すことができます。しかも元々の能力値も高いため、≪勇者≫の能力を開眼した者が魔王に対して最有力の抑止力になります」

「なるほどな。それなら俺にこの≪勇者≫の能力は最適だな!」

クラスのみんな山本を祭り上げているが、僕と薫だけは苦い顔をしている。

「彼が≪勇者≫なんて世も末ね・・・」

全く同意。

その後、山本の取り巻きである新川、中藤、細山はそれぞれ≪賢者≫、≪獣化≫、≪韋駄天≫という強そうな職業であった。

残ったのは僕と薫。

薫が先に≪神の石≫に触れると、他のクラスメイト達と同様に光に包まれた。

「≪剣聖≫・・・?」

薫は自分の手のひらを確認して声に出した。

フィアナは興奮気味に

「剣聖は勇者に並んで最強の職業の一つです!まさか一日で超強力な職業を二つも見れるなんて!それに他の方々の職業も百人力のものばかり。ああ、私は今日という日を一生忘れないでしょう!」

少しトリップしている。頬は紅潮して少しばかり狂人の香りがしてしまうので若干引いてしまった。

そんな雰囲気を感じ取って、フィアナはコホンと咳をして、

「さあ、最後の勇者様、≪神の石≫に触れてくださいな」

フィアナは凄くゴキゲンな笑顔である。

周りのクラスメイト達は僕の職業になんて興味はないのだろう。

みんな自分の職業で何をしようかを語り合っている。

「あなたなら大丈夫よ。期待しているわ」

「ん、レアな職業じゃなくたって私が強化するから安心して・・・」

薫と音無先生だけは僕の様子を見てくれていた。

そんな様子を面白くなさそうに山本が見ているのを横目に見えたが無視して≪神の石≫の方に身体を向けた。

「スゥー」

深呼吸を一回して、いざ≪神の石≫。僕にも力を!!

触れた瞬間、僕は光に覆われた。

しかし、他の人たちとは違う禍々しい黒色の光だった

そしてその光が収縮したので僕は自分の手のひらをみた。

けれど僕の手には刻印がなかった。

代わりにあったのはいつの間にか握っていた禍々しい刃のない剣だった。

「・・・≪無職≫?」

フィアナはボソッと呟いた。

へ?っと僕はフィアナの方を見た

「刻印がなされないなんてことは絶対にありません・・・でももしあるとすればそれはどんな職業にも適していないとしか・・・」

「こ、この剣は?」

僕は必死になって無職であることを否定しようとした。

しかし、

「分かりません・・・そのような剣は見たことがないです・・・アルブ様に聞くしか・・・」

まじか、、、でも魔法が使えるなら、

「それと久保様からは魔力が全く感じられません。職業を得た人間は多かれ少なかれ魔力を得ることができます。しかし・・・」

言い淀んでいるフィアナを見て、僕は否定したい現実に直面した。

「じゃあ、ぼ、僕は職業においても最弱・・・で、魔法も全く使えないということ・・・ですか?」

フィアナは静かに頷いた。

そんなやり取りを興味深げに見ていたクラスメイト達は

「見ろよ、久保が無職だってよ!!(笑)」

そんな声が上がるとクラスメイトのほとんどが嗤い出した。

薫も音無先生も僕になんて声をかけたら良いのかわからなくなっていた。

そして、侮蔑の嘲笑の中で僕は絶望に打ちひしがれ、禍々しい剣を投げ捨てて現実から逃げ出したい衝動に駆られていた。

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