スルト戦 作戦会議
ルーナはひとしきり泣いた後、糸が切れたように寝てしまった。
イーリスと交代して俺も一度仮眠を取った。
「それじゃあ、スルト戦に向けて、作戦会議と行きましょう」
ルーナは仕切る。俺たちはそれに無言で頷いた。
位置取りが俺、ルーナ、イーリスになっている。
なぜかイーリスが俺の方を半眼で睨んでいるが、何も見ていないことにした。
ルーナもルーナでおかしい。
朝から俺と全く目が合わない。
気まずいのだろうと思ってイーリスの側に行こうと思ったのだが、尻尾が俺の行く手を遮る。
「達哉はそこにいて///」
こうも直接言われたら、留まるしかないか・・・
「コホン!!!!」
イーリスが俺たちを見て、大きな咳払いをする。
「二人とも?作戦会議をするのよね?何イチャイチャしているのか・し・ら?」
イーリスが笑顔で、かつ、語尾を強めに言ってきた。
圧力が凄い・・・
これはキレているサインだ。
ルーナも俺も反射で姿勢を正してしまった。
「そ、それじゃあスルトの特性を共有しておきましょう!」
「お、おう」
俺たちは慌てて作戦会議に軌道を戻した。
なぜか知らんがイーリスの機嫌が悪い・・・
「あ、そういうことか」
「ん、どうかしたの?」
俺は一つの結論に至った。
「イーリス、呪いがきついんだろ?」
呪いがイーリスを苛立たせているのだ。
だとしたら、やることは簡単だ。
「!!え、ええ!そうよ!だからちょっと、協力してほしいな、なんて///」
「だったら早く言ってくれ・・・ほら」
俺は暗に左側に回ってこいと指示する。
右側はルーナがいるしな。
イーリスは立ち上がって、反対側に回るのかと思ったら、俺の後ろでたち止まった。
そして、俺の背中に寄っかかり、そして、顔を俺の首の右側から出す。
正直密着している表面積が大きすぎて困る。
「イーリス・・・?」
ルーナが今度は俺の背後にいるイーリスに向けてジト目を向ける。
「仕方がないでしょ?呪いが酷いの。だから達哉に触れていないと死んでしまうくらいきついのよ」
「だそうだ」
「ふ~~ん」
「何よ・・・?」
ルーナは猜疑心たっぷりの視線をイーリスに向ける。
「いやね。便利な呪いだなって」
「ん?どういうー」
「さっこれ以上時間を無駄にしても仕方がないし、作戦会議をはじめましょ」
イーリスは無理やり軌道を修正した。
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「まずはスルトの情報よ。名前の通り火を扱う巨人よ」
「でしょうね」
「ただ、その火は普通に消すことができない」
「何か特殊な火ってことか?」
「ええ、そう。ただ私も詳細は分からない・・・だけど、これだけはいえる。私が≪篝火の祠≫にたどり着かない限りは絶対に戦いにすらなりえない」
前もそんなことを言っていた気がする。
ルーナが≪篝火の祠≫に入ると、何が起きるんだ?
「ルーナが≪篝火の祠≫に入ると何か能力が覚醒するってことでしょ?ただ、温泉の時に覚醒した能力じゃあまり特殊性はなさそうだけど・・・」
「私が≪篝火の祠≫にたどり着いたら、温泉の比じゃないわよ」
ルーナは自信満々に言う。
「スルトに対して最強の能力。≪炎の支配者≫が顕現する。効果はすべての火の制御を奪うこと」
俺とイーリスは絶句した。
それは最強だ。
相手の能力に干渉して、自分の炎にしてしまうということだ。
少なくとも火を主体で扱う職業持ちは全員ルーナと勝負にならないということだ。
「それは、また、チートだな」
俺は素直な感想を述べた。
「ありがとう。でも、それでも負けたわ。しかも私以外にも≪炎の巫女≫がいる状況でね」
「スルトっていったいなんなのよ・・・」
炎熱系最強のルーナと、それにもう一人いてもスルトには勝てない。
嫌な想像だが、ヨルムンガンドよりも強いんじゃないかとも思ってしまう。
「分かっていることは炎を使うということだけ。でも、それを奪っても狐人族が総出になっても勝てないほどの強さを持つということ」
「・・・そんなのとどう戦うのよ・・・」
「そこで達哉の≪魔剣≫が出番なのよ」
ルーナが俺の方を見る。
「私の≪冷炎≫を覚えている?」
「もちろん。炎と氷の相反する性質を持つ能力だろ?後は炎を食うとか」
「その認識で合ってるわ。私が当時戦ったときに≪冷炎≫を使った。だけどね、スルトに当たる前にかき消されたのよ」
「かき消された・・・?」
「ええ、それが何かは正直わかっていない。けれど、スルト自身の炎を奪った≪冷炎≫を放ったのに、ダメージが入らなかった・・・もちろん他の魔法もね・・・だから、何かしらの能力が発動されていると考えるのが普通じゃないかしら?」
「!なるほど、それで俺の≪魔剣≫か!」
ルーナが俺たちにスルトに勝つには俺の力だ必要だといった理由が分かった。
確かに、攻撃を無効化する障壁があったら、普通は詰みだ。
しかし、俺の≪魔剣≫は魔力を食う。
障壁などあってないものだ。
「・・・水を差すようで悪いけど、それってルーナの希望的観測よね?もしかしたら、狐人族の攻撃が通じないほど表皮が硬いっていうことも考えられるわよね?」
「あ」
イーリスの一言で目が覚めた。
俺の≪魔剣≫は魔力を食うが、魔力がなければ普通の剣以下だ。
ルーナの方を見ると、
「ええ、そうよ。その可能性だってある」
ルーナは真剣な表情で言った。
「けどね、私はこれで勝てなかったら終わりなの。故郷は追い出され、仲間も殺された私には復讐以外に生きる道がないの」
ルーナからこれで勝てなかったら死ぬというくらいの気迫を感じる。
「達哉、イーリス。正直、ここまで付いてきてくれただけでも感謝しきれない。引き返すなら今のうちよ」
ルーナは俺たちに最後の忠告をしてきた。
まるで、ここから先に行くなら死を覚悟しろと言っているようだ。
だが、
「ルーナがここまで覚悟を決めてるんだ。引き返すなんて選択肢はとっくに捨ててきたよ」
「私もよ。≪奈落の樹海≫を出て初めてできた友人だもの。見捨てるなんてできないわ」
俺とイーリスは既に覚悟を決めていた。
「二人とも・・・」
ルーナは目に涙をためるが、ぐしぐしとふき取り、
「行きましょう!」
俺たちはスルト戦の元に向けて目前へと迫った頂上へと歩みを進めた。
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「ここがグレン温泉なのね・・・」
「温泉!久しぶりに入りたい!薫ちゃん行こう!」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
私は走り出そうとしている音無先生を引き留めようとする。
「≪剣聖≫様!音無様!お待ちくだされ!」
私たちは途中で助けた狐人族を≪太陽の神殿≫へ連れていく護衛を引き受けていた。
「ごめんなさい!族長さん!先に行ってるわ!」
私たちは一足先にグレン温泉の入り口である門へとたどり着いたが、門番はいなかった。
「ん、入ろう!」
「待てや、こら」
「ひっ」
おっといけない。汚い口調がつい。
「でも、門番がいないなんておかしいですよね・・・」
「ん、何か緊急事態が起きたと考えるのが普通」
私たちは何かあったのかと考え事をしていると、狐人族が追い付いてきた。
「いやはや、久しぶりにここに来たが、こんな門が出来上がっているとは・・・」
「前はなかったんですか?」
「ええ、昔はどの種族に対しても解放されていた温泉なのですが・・・この門は狐人族への当てつけなのでしょうな・・・」
族長さんは悲しそうな声でそう呟いた。
他の狐人族もみんな同じような顔をしていた。
だから、私は、
「≪絶剣≫」
「!!」
門を破壊した。
「≪剣聖≫様?」
「グレン温泉は獣人の中では門戸開放されているわけでしょ?。じゃあ狐人族だけを受け入れない門なんていらないわ」
「け、≪剣聖≫様・・・」
「薫お姉ちゃん、カッコいい!!」
コンは目を輝かせ、他の何人かは私を拝んでいるが、私はイジメが嫌いなだけだ。特にこの手の差別は。
狐人族の迫害を聞いてきたからずっと怒りが溜まっていたのだ。
「お、おい!門が破壊されて・・・狐人族がきたぞ!!!!」
それが合図となってグレン温泉中の獣人が来た。
「モフモフがいっぱい!!」
音無先生が場違いな感想を言っているが無視。
「追い返せ!!」
「門番は何をやっているんだ!!」
「てか人間だぞ!?」
「またかよクソ何で昨日の今日で人間がまた来るんだよ!」
ん?何か気になることを言っていた。
「ちょっと、今のはどういうー」
言い切る前に遮られた。
「やっちまえ!!!」
「追い返せ!!!」
私たちに向けて、石を投げられた。
「先生!」
「ん、任せて!≪防御付与≫!!」
狐人族も含めて私たち全員に≪防御付与≫がなされる。
「ヒぃ、痛・・・くない?」
「・・・何これ・・・?」
音無先生の≪防御付与≫は強力だ。
この程度の石なら、ノーダメージで切り抜けられる。
「な、なんだあの魔法は?」
「直接叩いてやる!!」
腕力に自信がある熊人族の数人が襲い掛かってくるが、私は鞘に抑えたまま剣で制した。
「ま、また人間に負けた・・・」
「ち、ちくしょう!昨日の人間といいなんなんだよ!」
「そう、それ。私以外に人間を見たというけど本当なの?」
「本当さ」
恰幅のいいおばちゃん犬人族が代わりに答えてくれる。
「3人組だったけどね。最初は狐人族の能力で変装をしていたみたいだが、中央広場で姿を現してやがったのさ」
「狐人族だと!!!?それはどのような姿ー」
「さあね、あんたら狐人族と話すことなんてないよ。私はその人間に暴れられたら、この温泉が危ないと思ったから代表して答えてやっているだけさ」
「くっ」
族長さんは悔しそうに口をつぐむ。
族長さんには申し訳ないけれど、私は私の質問を優先させてもらう。
「その人間はどんな特徴だったのかしら?」
「そうさね、なんのとりえもなさそうな、平凡な顔立ちをしていたさね~。後はあんたと同じ黒髪で漆黒の剣とどこか禍々しい剣を持っていた。そいつもお嬢ちゃんと同じで、うちの力自慢を一瞬で倒しちまったんだけどね。最後の一人の人間、これは女だったけど、特殊な能力を使って一瞬で消えてしまっさね」
「まさかっ!!!」
音無先生も私と同じ結論に至ったらしい。
「達哉君がここにいる・・・」
私は逸る気持ちを抑えて、犬人族のおばちゃんに聞いた。
「その人たちはどこへ!!!!?」
「さ、さあね。ただ狐人族を伴っていたから、上にでも行ったんじゃないかしら」
私はここに来るまで認識することができなかったグレン山脈の頂上を睨む。
「あそこに達哉君がいる!先生!」
「ええ!狐人族の皆さん!すいません、お先に失礼します!」
私は音無先生をおんぶして、一度立ち止まる。
「そうそう、狐人族を迫害するのはやめなさい。本当はわかっているんでしょう?いい機会だからここで話し合ったらどうかしら?」
一瞬だけ振り返って私たちは先を急いだ。
「あの人間もそんなことを言ってたねぇ・・・」
何か聞こえた気がするが、気のせいだろう。
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「まさか本当にここにいるなんて・・・獣人の住処にいる人間なんて想像できないし・・・」
「ええ、十中八九達哉君でしょう!」
私は風の速度を超える。
周りの草木は私が通り過ぎてから揺れた。
「待ってなさい!!!今行くわ、達哉君!」




