狐人族ルーナ
いつも読んでくださってありがとうございます!
「私に力を貸してください!」
ルーナは俺たちに対して、頭を下げてきた。
俺たちは急ぎの用時も特にないし、なんとなしにここにいるだけだ。
だから
「他にやることはないしなぁ、イーリスもいいよな?」
「ええ、達哉がいいなら従うだけよ」
「じゃあ決まりだな」
「え~と、助けてくれるの・・・?」
俺たちはコクンと頷いた。
「で、でもお礼とか・・・私は今何も持ってなくて・・・」
「ほしいものはないしなぁ~、全部終わったらご飯でも奢ってくれたらそれでいいよ」
「ありがとう!達哉」
ルーナはロケットのように俺の腹に突っこんできた。
「グへ」
俺は腹に鉄球をぶん投げられたような痛みでカエルのような声が出た。
「ちょっ、離れなさいよ!」
俺に引っ付いたルーナとそれを引きはがそうとするイーリスがまたもみくちゃになった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
俺たちは魔族に見つからないようにするために、谷底の清流の元に移動した。
谷底は木々が生い茂っているため、上空からは見つかりにくい。
そこでルーナの話を聞くことにした。
「それじゃあグレン山脈で何があったのかを共有しておくわね」
ルーナはさっきの甘えん坊モードから真面目なモードに切り替えた。
俺たちも真剣に聞くことにした。
「魔人族は人間と戦うために、グレン山脈を統治下に置きたかった。だけど、私たちだって獣人よ。魔力量では劣っていても、身体能力では勝っている。それぞれの獣人が個性を活かして魔人族の侵攻は防いでいたの。犬なら匂い、鳥なら空、猫は俊敏さと隠密、熊はパワーといった感じでね」
「じゃあルーナたちは?」
「私たち狐人族はグレン山脈の頂上にいれば特殊な力が使えるのよ。地脈のエネルギーを魔力に変換してね」
俺が≪王大樹≫の元で『魔剣:飛式』を無限に放てた理屈と同じだ。
だとしたら、
「そんな強い獣人たちがなぜ魔族の侵入を許してるんだ?」
「ここであなたたちもよく知っているアルブ様が関わってくるのよ」
ルーナは過去のことを思い出して、苦々しい顔をしている。
そして、口を開いた。
「アルブは私たち狐人族が守護するグレン山脈の中心、≪太陽の神殿≫に突然訪れきたのよ。ちょうど戦争中で応援にきたという名目でね。私たちは歓喜したわ。だって神が味方をしてくれると言ってくれたのよ?だから私たちは簡単に≪太陽の神殿≫に通してしまった。それが間違いだとは気付かずに・・・」
ルーナの口の端っこから血が出てきている。後悔の念がまざまざと伝わってくる。
俺たちはその迫力に気圧されてしまった。
「あのクソ神は獣人族を守る気なんて全くなかった!自分の命を脅かす≪篝火の祠≫にあるものを魔人族から守護するために私たちに近付いてきただけなのよ!!」
ルーナは感情が高ぶって、涙が目元に溜まっていた。
「≪篝火の祠≫?」
「ええ、そこには≪神結晶≫があるのよ」
「!!!!」
驚いた。まさかこんなところで≪神結晶≫の話が出てくるとは・・・
だが、まだ疑問が残る。
「≪神結晶≫が魔族に渡ったらまずいというのはアルブの立場からしたらよくわかる。だけどそれは狐人族が守ってきたんだろ?」
そう。狐人族が≪神結晶≫を守っていたのだ。わざわざアルブが出てくる必要があるのだろうか?
「心底嫌だけど、あのクソ神のことだからよくわかるわ。狐人族よりも自分の使い魔に任せた方が安心できるんでしょうね」
イーリスがさっきからだんまりを決め込んでいたがついに口を開いた。
ルーナも俺も納得できた。アルブはあの強さや雰囲気からは想像できないくらいに臆病で慎重だ。
「イーリスの言う通りよ。正確に言うと、アルブの使い魔に狐人族は敗北して≪太陽の神殿≫から追い出された」
「ひどい話だ・・・」
俺たちはアルブに人生を狂わされた面子だ。当然あいつのことは恨んでいる。
「悲劇はここからよ・・・狐人族はグレン山脈の頂上から離れると力が使えなくなるのよ・・・だから魔族の侵攻に対して、何もできなくなった。今までは5種族が一体となることで均衡が保たれていたのにね・・・そのせいで魔族だけではなく、他の4種族からも恨みを買ってしまった・・・理由はどうあれ私たちが戦力にならなくなったのが原因だからね・・・」
ルーナの神妙な声だけが俺たちの間に響いた。
「狐人族は今どうしてるんだ?」
「拠点を転々としながら、なんとか逃げ延びられた。けど、1年前くらいに魔族に見つかって狐人族は大虐殺にあった・・・他のみんながどうなったかはわからない・・・」
魔人族への恨みで瞳孔が開ききっている。
「よく今まで一人で生き残れたな・・・」
狐人族はグレン山脈からは離れると力が使えなくなる。
そんな中でひとりぼっちで生き残ってきたんだとしたらそうとうなものだ。
「私は狐人族の中でも特別な力があるのよ。だから、ずっと魔族に追われているんだけどね」
ルーナは俺たちにステータスを見せてくれた。
===============================================
ルーナ レベル:30
≪職業≫:炎の巫女
≪スキル≫:冷炎 炎魔法強化
===============================================
「≪冷炎≫・・・なんだそれ?」
「これに関しては見てもらった方が早いわ」
ルーナが立ち上がって、岩を的にした。
そして、
「≪冷炎≫」
ルーナが唱えると青い炎が岩めがけて放出される。
それは
「氷ながら燃えてる・・・?」
イーリスがつぶやいた。
俺もあっけに取られた。
なんだこの矛盾した魔法は?
「私の力は火と氷の相反する属性を内包するのよ。それと、イーリス!」
「ん?」
「私に向かって火属性の魔法を放って」
「いいわよ」
イーリスから≪火球≫が放たれる。
そして、ルーナが≪冷炎≫を使うと、≪火球≫を食った。
「私の≪冷炎≫は火属性を無効化して吸収するするのよ。達哉の≪魔剣≫と似ているね」
「確かに」
お互いある特定のモノに対して、特攻が刺さるという意味では同じだ。
「そして、私は通常の火属性の魔法も≪炎の巫女≫という職業上得意なの。火を使う戦いになれば私は絶対に負けないわ」
炎のスペシャリストといったところか?ひょっとしたら勇者に並ぶのではないか?
そう思えるほどに強力な≪職業≫だと思った。
「話を戻すわね。魔族が私を狙う本当の理由は、≪神結晶≫なのよ」
「・・・つまり魔族側も神殺しを狙っていると?」
「そう、どこでその情報が漏れたかは知らないけれど、魔族は≪篝火の祠≫に≪神結晶≫があるという情報を嗅ぎつけた。だから、人間のロザリア王国の侵攻と同時に魔族は≪篝火の祠≫の攻略に乗り出したんだけど・・・」
「アルブの使い魔にボコボコにされたということか・・・・」
「そういうこと。使い魔の名前はスルト、炎の巨人スルトよ。私が狙われている理由が分かった?」
「そういうことか・・・」
まとめるとこうだ。
アルブが魔族の侵攻によって、≪神結晶≫を奪われるのを恐れた。アルブはより確実に≪神結晶≫守るために、狐人族を追い出して、≪篝火の祠≫の守護を自身の使い魔である炎の巨人スルトに任せた。
そして、≪神結晶≫がアルブの脅威になることをしっている魔族は炎の巨人の討伐を目指すが、うまくいかない。
だから、ルーナの≪冷炎≫に目を付けて、スルトの討伐に利用しようとしているというわけか・・・
「皮肉ね・・・≪炎の巫女≫で≪篝火の祠≫の守護者であるルーナが今度は≪篝火の祠≫を攻めるために狙われているなんて・・・」
イーリスが感想を言うが全くその通りだと思った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「話はこれでおしまいよ」
ルーナが伝えることは伝えたという感じだ。
俺たちはそろって重苦しい雰囲気になった。
家族が虐殺されるなど、平和な日本に住んでいた俺からすると、フィクションの世界の話だ。
だから、なんと声をかけていいかわからない。
気にすんな。頑張れよなんて言える気分ではなかった。
「あんまり暗くならないで、達哉。これはもう過去の話よ。呑み込めてはいないけど、受け入れてはいるつもり。それに本題はここからよ」
「本題?」
「そう、私に力を貸してって言ったけど、具体的な話をしてなかったでしょ?」
「ああ・・・ここから逃げる手伝いならいくらでもするぞ?」
こんな話を聞かされて見ないふりをするなんて俺にはできない。
しかし、
「それはいいの」
ルーナは首を振った。
「じゃあ何をすればいいんだ?」
「炎の巨人スルトの討伐」
ルーナは決意を秘めた眼で俺とイーリスを見据え、はっきりとそう告げた。




