グレン山脈
新章です!!
俺たちはこの≪奈落の樹海≫を出るために、≪冥王の玉座≫の中心の魔法陣の前にいた。
「よし、行くか」
「そうね!行きましょう!」
イーリスはおやつを楽しみにしている子供のようだった。
「ただ、どこに飛ばされるかは分からない。飛ばされた先で戦闘なんてこともありうるしな」
浮かれているところ申し訳がないが、俺は釘を刺しておいた。
イーリスも真剣なまなざしに戻った。
「そうね。少し反省」
そして、おもむろに俺の手を左手を取った。
「・・・何してんの?」
「・・・転移先がバラバラにならないための対策よ。もしかしたら、お互いに別々の場所に飛ばされてしまうじゃない・・・それに達哉の利き手である右手は空いてるでしょ?手を繋いだのはあくまで保険よ」
スンとしているが、イーリスの左手は熱を帯びているのが分かる。
そして、呪いのせいか、と諦めた。
「それじゃあ行きましょう!さらば≪奈落の樹海≫!二度と来てたまるんもんですか!」
魔法陣に乗ると、光が俺たちを包み込んだ。
そして、≪奈落の樹海≫から二人の人間が姿を消した。
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光りが収縮する。
俺たちは視力を取り戻し、周りの光景が把握できるようになった。
北を見ると、雪雲が空を覆っていた。
そして、東を見ると、大きな山、いや、山脈だろう。
どこまでも山が続いているようだ。
「う―ん、この辺りは魔族領とグレン山脈の中間地点のようね。ロザリア王国とは反対方向に転移したようね」
「なるほど」
イーリスが現在地を推測した。魔族領と言えば人間と対立しているはずだ。そんなところに人間が行っても戦闘の予感しかしない。
なら、選択肢は
「グレン山脈の方に行こう」
「奇遇ね。私もそれを提案しようと思っていたところよ」
「OK。それとイーリス、そろそろ手を離してくれない?」
「そ、そうね////」
イーリスが慌てて手を離す。
そろそろ俺が気になっていたことを聞いてみる
「イーリス、何かあった?ヨルムンガンドとの闘いが終わった後くらいから様子がおかしいぞ」
「っ////な、なんでもないわよ!!」
絶対に何かある。
「イーリスが目を逸らすときって大体何か隠してる時なんだよなぁ」
「私のことをちゃんと見てくれているのね(ボソ)///」
「当たり前だろ?」
「聞こえてたの!!?///って違うわよ!とにかく放っておいて!」
「そんなわけにいくか!イーリスは俺のパートナーだ!大事にするのは当たり前だろ?」
「大事・・・大事、えへへ///」
イーリスがおかしくなっている。
顔がゆるゆるだ。
俺は本気で心配した。
熱でもあるのかもしれないとおでこを触る。
「ひゃっ////何してんの!!!」
「グへ!!!!」
俺は心臓を本気で殴られた。
油断していたので、完全にやられた。
「ちょっ、達哉!!!?大丈夫!?」
意識が落ちる中で、心配そうなイーリスの声が聞こえた。
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≪再生≫の力で俺は意識を取り戻した。
「つまり、呪いを今まで抑えていた反動で今の状況になったと・・・」
「そ、そうよ。ヨルムンガンド戦で≪一目惚れ≫でおかしくなるわけにはいかないでしょ?だから、抑えていたんだけど、その・・・呪いが強まってしまったのよ。だ、だけどね、呪いが強くなる代わりに達哉の近くにいると私の能力がすべて上がるようになったの」
イーリスは早口で、焦りながら俺にそう説明した。
ただ、なぜだろう。微妙な違和感がある。
まるで、本当のことを意図的に隠しているような・・・
「イーリス、ステータスプレートを見せてよ・・・」
「///ダ、ダメよ」
「何で?」
「そ、それは・・・」
イーリスは本気で俺に見せたくないらしい。ここまで頑なに隠されると無理やりにでも聞き出してやりたい気持ちにも若干なったが、なんだかイジメをしているような気分になるのであきらめた。
「ハア、なら、いいよ。ただ≪魅了≫の時のこともある。呪いの内容については本当なんだろうな?」
「それは本当よ」
「絶対?」
「絶対」
さっきまでと違って俺の瞳をしっかりと見据えて答えた。
なら大丈夫だろうと思って、俺は尋問をやめた。
「なら、信じるよ」
「本当・・・?」
「正直にいえばまだ疑ってるよ。だけど、人はだれしも知られたくないことはある。だから、信じるよ」
それにイーリスは大事なパートナーだしな。
「ありがとう、達哉///その、その時が来たらしっかり伝えるわ///」
「了解、じゃあこの話はおしまい。先に進もう」
俺たちはグレン山脈をめがけて動き出した。
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といってもイーリスの≪空間≫を使えば、距離は短縮できる。
山の標高が低いところは≪奈落の樹海≫と隣接しているため、森に覆われている。
そして、標高が上がるにつれて植物よりも岩肌が露出している。
また、山脈という名がついているように大きな山々が連なっているため、深い谷がそこかしこに見える。
よく見てみると、谷底には川も見えている。
「そういえば、グレン山脈には獣人がいるんだっけ?」
俺は移動がてら聞いてみた。
「獣人と言っても一括りにはできないわ。犬、鳥、猫、熊、そして、狐の獣人がいるわ。
数は最初に言った四種族で9割を占めている。狐の獣人は数が少ないけど、強力な個体が多いので、グレン山脈を実質的に支配しているのは狐の獣人と言われているわね」
元の世界には獣人なんていなかったから会えるのは楽しみだ。
「一回休みましょ、魔力を多く使ったから休みたいしね」
「了解。それにしても本当に俺が近くにいると≪空間≫の距離が広がってるな」
「そ、そうね・・・何してるの?」
俺は手をイーリス方に出した。
「何って呪いが強まってるんだろ?だから俺と触れてないとまた暴走する可能性があるからな」
定期的に俺と触れていれば変なことにはならないだろう
「そ、そうね。これは呪いの治療よ///・・・失礼します・・・」
ちょんちょんと俺の手を触れて、そして意を決して手を繋いできた。
俺たちは手を繋いだまま一言もしゃべらずに休んだ。
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俺たちは山の中腹辺りに気持ちが良さそうな場所を見つけて休んでいた。
≪奈落の樹海≫は暗くジメジメしているため、太陽の光が恋しかった。
のんびりしていると、
「ん?」
「どうかした?」
イーリスが俺の声に反応した。
「いや、どっかで爆発音が聞こえたような・・・ほら!」
ドゴン!!!ドゴン!
「本当ね・・・しかも遠くないわ、行ってみましょう!」
俺たちは爆心地に向かった。
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「痛ったぁ~」
涙が出そうになるのを堪える。爆発に巻き込まれて身体から血が出る。
「おら、そろそろ観念しろ」
「全く手間取らせやがって」
私を追ってきた魔族がめんどくさそうに呟く。
「貴方たちに捕まるくらいなら死を選ぶわ!」
手元に持っていた脇刺しで自害をしようとした。
「あっぶねえ!」
「グっ」
透明化して背後から近づいてきた魔族に組み伏せられる。
「やだ、やめてぇ!」
「そうはいかねえ、お前を連れてこいって上からの命令なんだよ」
「うぅ・・・」
涙がこぼれて止まらなかった。
私は絶望した。これでは私を逃がしてくれたみんなに顔向けできない・・・
「ごめん・・なさい」
しかし、私を抑え込んでいた魔族が倒れた。
すると、こちらを向いて、
「え~と、大丈夫?」
手を差し伸べられた。
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俺たちは≪空間≫で山の頂上に移動すると、一人の倒れている女の子とそれを複数で囲んでいる軍人らしき者たちを確認した。
俺はイーリスに視線で合図して、女の子の元に≪空間≫で飛ばしてもらい、押さえつけていた男の腹を≪魔剣≫で吹き飛ばした。
その女の子には人間にはない特徴があった。
狐の耳とふさふさの尻尾が生えていたのだ。
「え~と、大丈夫?」
俺はその子に声をかけた。
「え、ええ、ありがとう」
俺は手を出して、立たせてあげた。
「て、てめえ誰だ?見たところ人間のようだが」
そう言われて、軍人らしき男たちを見ると、肌の色や雰囲気が人間のそれとは違った。
「こいつらは魔族よ」
「な、ど、どこからーー」
イーリスは≪空間≫を使って残りの魔人族に急接近して、≪火炎球≫を食らわせて倒した。
「ふう、こんなもんね。やっぱり魔法が効く相手だと楽だわ」
「イーリス、今、魔族って」
「言った通りよ。そいつらが魔族。私たち人間の怨敵とされているね」
「なるほどな」
初めて魔族を見たがあまり感想はない。へぇ~というのが正直なところだ。
「あの、その」
「ん」
さっき立たせてあげた獣人が俺たちの会話に入ってきた。
「危ないところを助けていただきありがとうございます。この御恩は一生忘れません」
慇懃な態度で俺たちにお礼を言ってきた。
「気にしないでいいよ。たまたま通りかかっただけだしね」
その女の子は改めて頭を下げてきた。そして、
「私はルーナ。狐人族の長の娘で≪巫女≫をやっております」
ルーナは人間にはない狐耳とふさふさの尻尾持っている。髪色は金に近い茶色。瞳はエメラルドの淡い緑。その立ち居振る舞いは育ちの良さや身分の高さを感じさせられた。見た目は美少女だがどう見ても幼い。そのため、この山奥に一人でいるという異常さは感じられた。
「俺は達哉。とりあえず旅人をやってる」
「私はイーリスよ。以下同文」
「それなら・・・、達哉、イーリスと呼ばせてもらうわ」
呼び捨てかい!こんな年下に・・・まあいいけど
それより、イーリスがルーナに≪再生≫をかけながらこっちを睨んでいて怖いんだが・・・
「それでルーナはこんなところで・・・・何してんの?」
≪再生≫が終わって俺の背中の方に来た。そして、
「何って達哉におんぶしてもらうためよ」
「ルーナさん、出会った当初から態度が変わりすぎじゃない?」
「だって達哉のことを気に入っちゃったんだもん」
「え?」
ルーナは俺の背中に乗って、スリスリと顔をくっつけてくる。
元の世界でこんな姿を見られたら、ポリスメンを呼ばれてしまうだろう。
「むふふ~あったかぁ~い」
「こらこらぁ」
流石に幼いので、強引に振り払うわけにはいかない。
妹ができたと思って、好きにやらせるか。
「ちょっと!ルーナ何やっているのかしら?!降りなさい!」
「あら?嫉妬?こんな小さい子に?」
「ち、違うわよ!、それより貴方≪巫女≫ってさっき言ったわよね?ってことは成人は越しているはずよね?」
ルーナはニコリと笑う。
「≪巫女≫になったのは何年前かしら?」
ルーナは遠い方向を見た。そして、
「年上じゃねぇか!!」
俺はルーナを引きはがそうとするが、
「やめてよ、お兄ちゃん!」
俺は雷を打たれた気分になった。
(やばい、合法ロリの年上にお兄ちゃんと呼ばれることがこんなに衝撃的だとは!!)
ルーナはそこで間髪入れずに俺の耳元で、
「何度でも呼んであげるよ、お・に・い・ちゃ・ん」
年上の放つ妖艶さに俺は抗うことができなかった。
「・・・好きにしてくれ」
「達哉!!!?」
「やったあ!」
ルーナはさっきまでの妖艶さとは無縁な見た目通りの純粋さで喜んだ。
ルーナはしてやったりという顔をして喜んだ。
「た、お兄ちゃん///」
「・・・何してんの?」
「何って私も貴方よりも年上だしぃ、だから特別に「お兄ちゃん」と呼んであげるわ///」
イーリスが年上だとは知らなかった。
けど、
「解釈違い」
「何でよ!!!」
イーリスの慟哭が響く。
ルーナは俺の背中で勝ち誇った顔をしていた。
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「それでルーナは一人で何をしてたんだ?」
イーリスとルーナがさっきまでギャーギャーしゃべっていたせいで全く本題に入れなかった。
「私は・・・逃げ出してきたの・・・」
「逃げ出した・・・?」
「そう。10数年前、グレン山脈に魔族が押し入ってきたの。魔族が人間を攻め滅ぼそうとしたら、≪奈落の樹海≫は論外として、東のカルシ湖か西のグレン山脈を通るしかない。だから、人と魔族の戦いに巻き込まれて私たち獣人族も戦いに参加させられた」
「そうね・・・申し訳ないことをしたわ・・・」
「人間には恨みはないわ。攻められてるんだもの。立場としては私たちと同じよ」
「そ、そうか」
「私たちが恨んでいるのは、魔人族とクソ神のアルブだけよ」
またここであいつが出てくるのか。
イーリスを見ると、俺と同じような呆れた表情をしていた。
「ん、どうしたのお兄ちゃん」
「いや、俺たちもアルブの被害者だからさ・・・」
「え、そうなの?」
俺たちは≪奈落の樹海≫での出来事を伝えた。
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「よく生きてられたね・・・」
「そうね。改めてふりかえってみると、とんでもないことを成し遂げたと思うわ」
数日前の出来事なのにもうずっと昔のように感じていた。
「まあそんな感じで俺たちもクソ神、アルブの被害者ってことでルーナとも同じ穴の狢ってわけだ」
「そう、そうなのね」
ルーナは少し考え事をして、意を決してこちらを見た。
「ここで会えたのは運命ね・・・イーリス、お兄ちゃん、私に力を貸してください!」




