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5.王太子成婚パレード【side リヴィ】

 

 いよいよ一週間後に王太子殿下の成婚の儀があるらしい。

 その日は市井でパレードもあり、広くお披露目されるそう。

 王都でするなら分かるけれど、少し離れたここアミナスでパレードする理由は謎だけど。


 私はいつもと変わらない日々。

 ──一年前と違うのは、お昼どきにルドが隣にいる事。

 でも、ルドは忙しいのか最近は三日に一回くらいのペースでしか来ない。

 来ない日は待っていても来ない。

 前もって「来れない」なんて連絡も無い。


 ルドが来なかった日はなんとなく物足りないような。

 でも来てくれた日は嬉しくなるような。


「最近のリヴィは分かりやすくていいわぁ」


「リヴィ元気になって良かったわ」


 孤児の子どもたちもニコニコして見てくる。

 私は子どもたちにも心配かけていたのかな。


「ありがとう、みんな」


「リヴィ笑った!」


 女の子たちがきゃあっと歓声をあげた。

 私が笑える事がみんなも笑顔にすると分かって嬉しくなる。



「リヴィ」


「ルドさん。お久しぶりです」


「ああ……」


 久しぶりに会ったルドは何か言いたげに手を動かした。兜のせいで表情が見えないのが残念だ。


「昼食をお召し上がりになりますか?」


「……ああ」


 その声は、何故か浮かないような声。何かあったのかな。最近来れてなかったのは忙しかったからかな。


「何だか元気がありませんね」


「忙しかったからかな。あまり眠れてないんだ」


「そうですか……」


 口元だけを空けて、ルドは昼食を食べ始めた。

 再びこの何でもないような穏やかな時間が流れる。


 食べ終えたルドは、何かを言いたそうにそわそわとしていたけれど。

 やがてカチャリ、と私の方を向いた。


「リヴィ、その……」


 表情は見えないし、口元も開いたり閉じたりして何かを言いたそうにしている。

 だから私も言葉の続きを待った。


「明日、王太子殿下の、成婚のパレードがある、だろう……。その、リヴィ、は、行く、か?」


 言いにくそうに辿々しく言葉を発するルド。

 私は一瞬胸に刺すような痛みを覚えた。

 けれど、その痛みは以前のようにしつこく残らずすぐに消え去った。


「私は……皆さんがパレードを見に行くから、お留守番をしようと思っています」


 逃げるわけでは無いけれど、誰かが留守番をしないといけないのは確かで。


「ルドさんは行かれるのですか?」


 カチャリ、とプレートの音がする。


「私は……。警護があるが、……リヴィが行くなら、護衛を、と君の両親に頼まれた」


「両親が?」


 ルドはこくりと頷く。

 そうか、確かに時折両親の護衛を頼まれると言っていた。

 でも、ベハティには留守番するって言ったし、それに……。


「行っておいでよ、リヴィ」


 いつの間にか私たちの近くに来ていたベハティが、声をかけた。


「でも……」

「留守番なら私に任せて。騎士さま、リヴィの護衛、よろしくお願いします」


 有無を言わせない雰囲気で、ベハティがルドに頭を下げた。

 ここまでされたら断るなんてできない。


「ベハティ」

「リヴィ、逃げてるだけじゃ終わらないし、新しく始める事もできないよ。

 ちゃんと終わらせて来なさい」


「ベハティ……」


 ベハティは私がここに来た理由を知っている。

 だから、話し合う事も無く終わってしまった人との恋を終わらせなさい、と言う事を言っているのだ。


「ルド、さん。明日……そばに、いてくれますか?」


 正直、真正面から見れる自信は無い。

 だけど、ルドが側にいてくれるなら心強いと思ったのだ。


「──っ、勿論、側にいて良いなら側にいる」


「ではよろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしく頼む」


 そうして、私はルドと王太子殿下成婚パレードを見に行く事にした。





 沿道にはたくさんの人が詰め掛けて、王太子夫妻の訪れを今か今かと待ち侘びている。



 私とルドはあまり遠くない所から見る事にした。


 王太子殿下の姿を拝見するのは約四年ぶり。

 亡くなった人を愛する彼は、今日、別の女性と結ばれる。

 あれから四年経つのだもの。

 もしかしたら今は立ち直って妃殿下となる方を愛してらっしゃるのかもしれない。


 きっと、傷付いた彼を献身的に支えて下さる方だろう。

 貴族ではない私にできる事は少ないけれど、これからは一国民として国を支えようと決意を新たにする。


「緊張してるか?」


「……いえ、高揚しています」


「そうか」


「元々殿下の臣下として国を支えようと思っていた頃を思い出しました」


 私が殿下を初めて見た、あの日の事。

 アンジェリカ様と手を取り合い未来の展望を語っていたであろう二人。

 愛し合う二人は互いに寄り添い、仲睦まじい様子だった。

 だから私はそんなお二人を支えたいと思ったのだ。


 アンジェリカ様がお亡くなりになり、私が婚約者となってからは殿下を支えたいと願っていた。


 けれど──


 側にいる事はおろか、名前を呼ぶ栄誉さえ頂けなかった。

 それはアンジェリカ様だけに許された特権で、私には与えられなかった。


 それでも良いと思っていた。

 いつかは、きっと。


 そんな日は来なかった。


「リヴィ、……すまない、私は……」


 小さくルドが何かを呟くけれど、兜の下の声は沿道の歓声にかき消された。


 遠くから王太子殿下夫妻を乗せた馬車が近付いてくる。

 彼は私に気付くかしら。

 いいえ、気付かない。あの時に比べたら容姿もみすぼらしいものに変わってしまった。

 でも、もし気付いたら?

 無視する?それとも見ないふりをする?

 動揺するかしら。それを妃殿下がお諌めして……。


 妃殿下は名前をお呼びできるのかしら。

 どうして私は選ばれなかったのかしら。



 どうして、貴方の隣に座るのが私では無いのかしら──。


 二人を乗せた馬車が段々近付いてくる。

 鼓動が高鳴る。

 胸が痛くなる。


 まだ、忘れられていなかった。

 私はあんな酷い言葉を浴びせてきた殿下の事を過去とは思えない。

 貴方の隣にいるのが私では無い事が苦しい。

 私は苦しいままなのに、貴方は笑えているのかと思うと悲しい。


 二人の姿がぼやけてくる。

 冷たいものが頬を伝う。


 私がもう少し強ければ何かが変わったのかしら。

 私がもう少し耐えていたら、貴方と今日を迎えたのは私だったかしら。


 ぐちゃぐちゃな気持ちがぐるぐる身体を掛け巡る。


「リヴィ!」


 足が震えて立っていられない。私はルドに支えられていた。


 けれど。


『逃げてるだけじゃ終わらないし、新しく始める事もできないよ。

 ちゃんと終わらせて来なさい』


 ベハティの言葉を思い出す。

 そうだ。終わらせなければ。


「ルド、お願い、手を握っていて……」


 すがるようにルドに願い出る。

 歓声で消えそうな声は、ルドに届いたようで躊躇いがちに握ってくれた。


 馬車が近付くにつれて私はもう届く事が無い想いを断ち切ろうと涙を拭い馬車を見据えた。


 幸せそうに笑う二人は沿道の人々に手を振って応えている。

 妃殿下は──アンジェリカ様の妹だわ。

 似た方をお選びになられたのね。


 そして王太子殿下……。



「──え……」



 思わず私はルドの手を握る手に力を込めた。

 ルドは握り返してくる。



 どうして?

 私は混乱した。

 何かの間違い?

 どうして?


 王太子殿下の姿を見て、私は酷く動揺してしまった。



「貴方は──誰……」


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