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亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした  作者: 凛蓮月
幸せになる為に【side ルド】

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幸せになってもいいのだろうか

 

 リヴィとの結婚式を終え、その日は警備隊行きつけの酒場でささやかな食事をした。

 だが参列者はみな同じような思考だったのかみなその酒場に集まり、さながら披露宴会場のようになったのだ。


「ルドとリヴィちゃんの結婚を祝して!」

「「「「かんぱーい!」」」」


 ただ騒ぎたいだけなのかもしれないが、みな口々に祝福してくれた。


「リヴィちゃんはうちの嫁さんになってほしかったなぁ」

「俺があと10年若けりゃルドなんかよりよほど選ばれたよ」


 既に酔っ払っている奴もいて、戯れ言をほざいてやがる。


「リヴィちゃん、ルドに愛想つかしたら俺んとこおいで」

「うちも良いぞー!」


 主にリヴィばかり誘いがかかる。

 今日夫となった男の目の前で失礼な奴らだ。

 だが、それは気のおけない仲間たちだからこそ、なのかもしれない。

 王太子だった頃ならこんな言葉を言った時点で彼らは牢屋行きだ。

 あの頃は常に伺われていたから今の感じは心の底がムズムズするような感覚がするのだ。


「ありがとうございます、皆さん。

 でも、夫となったルド以上に大好きな人はいませんので」


 リヴィが照れながら言うと、みんな一瞬きょとんとして、どっと歓声があがった。


「さすがリヴィちゃんだ!益々嫁にほしくなった!」

「ルド!大事にしろよ!」


 やいのやいのと囃し立てられ。


「当たり前です。リヴィは俺が幸せにします。

 皆さんの出番はありませんので他をあたってください!」


 ハッキリ言ってやると、警備隊の仲間たちは親指を立て、指笛を鳴らした。


 そうして披露の会場は大盛り上がりになり。

 夜も深まった頃ようやく新居へと帰って来たのだ。


 新居はリヴィの診療所に程近い場所にした。

 リヴィの職場に近い事の他、便利なのが天然のお湯が出るところが良かったからだ。

 アミナスは最近掘り当てられた温泉が湯治の場として観光地となりつつあるのだ。


 新居も源泉から分けられたお湯を引いているので、好きな時に湯浴みができるのはとても気に入っている。


 ここにはアミナスに帰って来てからリヴィと一緒に住み始めた。

 最初リヴィは修道院にお世話になり、俺は警備隊の寮のままだった。

 だが馬車の中で片時も離れたくないとなり、アミナスに到着してすぐ新居を探し始めたのだ。

 新居を探す数日間だけ、リヴィは修道院にいるつもりだった。

 孤児たちやシスターたちと積もる話もあったから結局一ヶ月くらいは修道院にいた。

 けれど修道院からリヴィの職場まで割と距離がある為、診療所近くの物件が見つかってからは名残惜しく別れていた。

 決して俺が何かを言ったわけではない。


 だから新居に住み始めて約二ヶ月。

 その間は清い交際だった。


 けれど今日は結婚式を挙げた。

 披露宴みたいな事もした。

 ――祝いだと奢られた側だけど。


 だから、今日は実質初夜だ。


 だが俺は無くても良いと思った。

 もしリヴィが妊娠でもして、俺の母みたいに亡くなったら俺は立ち直れないだろう。

 今は平民で後継の事は考え無くても良い立場だ。

 無理してする必要は無いと思っていた。


 だが。



 無理だった。


 この日の為にリヴィが準備したという姿を見て、俺はそれに抗える程できた人間ではない。

 愛する女性から潤んだ瞳で見つめられ、断れる男なんているのか?

 いや、婚約中なら断れるかもしれない。

 だが今日、妻となった。

 合法的に手を出せる間柄になったのだ。

 そんな状況で手を出さない選択肢は俺には無かった。


 ただ抱き締めあうだけで心臓飛び出死間近になり、行為中は必死にフレディ殿下から貰ったトオーイさんの豆知識をフルに思い出しながらなんとかリヴィと重なる事ができた。


 閨教育は傷心中でまともに受けられてなかったからトオーイさんに感謝した。


 終わった後は全身筋肉痛で満身創痍だったが、リヴィも俺も幸せだった。



 幸せな新婚生活が送れる事に、嬉しくて嬉しくて、怖かった。

 リヴィを傷付けた俺が幸せになっても良いのか?という漠然とした不安はいつになっても消えなかった。

 リヴィが隣りに居て、笑ってくれる。

 それ自体が奇跡で、実は夢なんじゃないかって何度も夜中に飛び起きては確認して。

 隣で寝ているリヴィを見て安堵して。


 ツェンモルテ病で苦しんでいたリヴィを思い出してただそこで生きていてくれる事に涙が出た。


 幸せであればある程、リヴィを失う事が怖くなる。



 だから、俺は。


 あまりリヴィを抱けなかった。



 リヴィを抱いたら子ができる可能性がある。

 フレディ殿下は作っても良いと言ってくれたが、子ができて、俺の母のように亡くなってしまったら?

 若くて健康的だったアンジェリカでさえ病気で呆気なく儚くなった。

 リヴィがもし儚くなったら、俺は生きられない。


 だからリヴィを失う可能性がある妊娠には消極的だった。


 だがリヴィは欲しがった。

 診療所には妊婦さんや子連れの女性もやって来る。


「ルドとの子ども、ほしいな、って」


 環境のせいだろうか?

 リヴィは貴族だった頃より随分強くなった気がする。

 積極的にもなった。

 だから子を作る事に消極的な俺と、珍しく喧嘩になった。


「私はルドと触れ合いたいわ。ルドは違うの?」

「俺もリヴィとしたい。でも、リヴィを失うくらいなら望まない」


 リヴィと触れ合うだけでは済まなくなる。

 王太子と王太子妃なら遠慮なくしただろう。

 万が一があっても万全の態勢で臨める。

 だが今は平民。

 診療所は近くにあるが、それでも怖くてたまらない。


「私、もう色々を諦めたくないの。

 限りある人生、限りある時間を大切に生きたい。

 今まで自分の希望を言ってこなかったけど、これからはもっと我儘に生きようって思う」


 死を間際にして、人間はいつ何の切っ掛けで死が訪れるか分からないとリヴィは言った。

 確かにいつ死ぬかなんて誰も予想できない。

 老いて共に死ねるならそれが理想だけど、若くして病になったり事故に遭ったり。

 だったら可能な限り好きに生きようとするのは自然な気持ちかもしれない。


「俺は……リヴィを失いたくない。

 母上は俺を出産して儚くなった。リヴィがそうなったら、って思うと怖い。

 リヴィを抱きたくないわけじゃない。だが、リヴィがいなくなるのが嫌だ」


 俺はリヴィに自分の気持ちを素直に吐露した。

 情けないと思う。だが俺の本心でもあるのだ。


「ルド、私は簡単には死なないわ。

 その為に私は強くなったの。私は貴方のそばにいる」


 そう言って抱き締める。

 この温もりが無くなるなんて嫌だ。

 けれどリヴィの気持ちも無視できない。

 リヴィに迫られて拒否などできない。

 自分の気持ちよりリヴィの気持ちを優先させたい。


 俺が自分で乗り越えるしかないんだ。


「ルド、私を信じて」



 その後、数回の行為でリヴィは妊娠した。


 嬉しさより「どうしよう」が先に来た。


「ルド、腹を括って。私はもう迷わないわ。

 だから貴方も覚悟を決めて」


 お腹に宿した瞬間から女性は母になると警備隊の隊長は言った。

 これから産まれるまで、自身の中で生命を守らねばならないのだ。

 リヴィは母の顔になった。

 もしかしたら俺の母上も、そうして生命を繋いでくれたのかもしれない。


「リヴィ、……分かった。ちゃんとする。リヴィの支えとなるよ」

「お願いね、お父さん」

「おと、……照れるな…」


『お父さん』と言われたら途端にしっかりしなきゃと意識が湧いてきた。

 リヴィと子どもを守らなければならない。



 俺はこの日から少しずつ意識を変えることにした。


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