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亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした  作者: 凛蓮月
エピローグ

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36/41

36.約束


 アミナスに人が増えた事により、鎮魂祭は年を追う事に賑やかになっていった。

 広場に設置された献花台には花が溢れ、花売の種類も豊富になった。

 出店も食べ物だけでなく日用品や陶器類など品数が増え、それを目当てに訪れる者も少なくない。

 この日は街あげての一大イベントで、大人も子どもも年に一度のお祭りを堪能していた。


「これね、いちご飴なの。おいしいよ」


 ルカが指さしたのは、苺を水飴で覆った出店のおやつだった。

 赤い色がきらきらとして目線を誘う。


「そうか。買ってあげようか?」

「いいの!?……う、でも」

「お母さんに怒られる?」

「おやつばかりじゃなくて、主食をしっかり食べないとだめだよって言われる」

「そうか。……じゃあ、おじさんのを半分貰ってくれるかな?おじさんも年を取ったせいかあまり食べられなくなったんだ」

「大丈夫なの?」


 ルカは繋いだ手をぎゅっと握り締めた。不安そうに見つめる姿は、今日初めて会った友人を心配しているかのようで、レーベンは自然と笑んだ。


「大丈夫だよ、ありがとう。……ルカは優しいね」

「えへへ。あ、おじさん、お金半分払うね」

「え、だが…」

「僕ね、今日お小遣い貰ったの。よく考えて使いなさいって。半分こしたらおじさんとの思い出にお金使った、って思えるから」


 レーベンはルカの言葉に衝撃を受けた。

 幼いながらに日常の中から学びを得ようとする姿勢に感心したのだ。


 いちご飴は半分こした。お小遣いは銅貨5枚。そのうち1枚出した。

 分けやすいように、小さいものが二個繋がったものにした。カップルや若い女性が友人と買う為人気らしい。


「えへへっ。お友だち記念!」


 いちご飴をかざし、ルカはレーベンに誇らしげに微笑む。

 レーベンも小さな友人に対し眩しそうに目を細め、かざされたいちご飴で乾杯した。


 二人はその後も鎮魂祭を楽しんだ。

 祖父と孫という関係ではなく、あくまで友人として。

 レーベンはルカの姿を己の瞼に焼き付けた。

 次は会えないかもしれない、という思いが、限りある時間を大切にさせた。


(……そうか。レーヴェは、限りある時間だからこそ、本当に大切なものを選んだのだな)


 ルカを見ていれば周りに愛されている事がよく分かる。

 それは両親が彼を大切に育てている事を表していた。



 そろそろいい時間になったので、ルカを母親のもとに連れて行く事にした。


「お母さん!」


 母の姿を認めると、ルカは走って行く。母も手を拡げ息子を抱き締めた。

 両手では無かったのは、もう一方の手は娘と手を繋いでいたから。

 レーベンはその娘に、かつての在りし女性の姿を見出した。


「あっ、お父さんだ」


 ルカは遠くに見えた父親を、無邪気な笑顔で呼んだ。

 レーベンは先にその姿を認め、眉を顰めた。

 できれば会いたくなかった。

 会わずにいたかった。

 会えば恨み言を言ってしまいそうになるから。


「ルカ……」


 息子の姿に一瞬顔を綻ばせたルカの父であるルドは、息子を見た先にいる男性の姿を目にして見開いた。

 思わずここにあるはずの無い兜を探してしまうくらい動揺した。


「通りすがりのジュードさんもいる!

 あっ、お父さん、こちらはレーベンさんだよ。二人とも、僕のお友だち!」

「あ、ああ、どうも、ルカの父です」

「ああ……」


 四者四様、大人たちはぎくしゃくとしている。

 それも仕方がない。二度と会う事は無いと思っていた人物と会ったのだから。

 二人が高貴な身分の男性だと知るリヴィとルドは、頭を垂れるべきか、しかしおしのびで来ているなら平静を装うべきか思考を巡らせた。


 そんな両親を見て、ルカは不思議そうな表情だ。


「……そろそろ、私たちは戻る事にしよう」


 そう口にしたのはジュードの方だった。


「え?もう帰っちゃうの?」

「ああ……」


 孫と呼べる存在から上目遣いに見られ、二人は湧き上がる衝動をぐっと堪えた。


「また会える?」

「そうだな……」


 確実な約束はできなかった。

 大人たちは互いに関わり合わないほうがいいと思ったから。

 だが、小さな子どもにはそんな思惑は関係無かった。


「ね、お手紙書いていい?僕たくさん勉強して上手く字を書けるようになるから」


 それは許可したいようなしたくないような。

 複雑な表情の大人たちは言葉に詰まってしまった。


「ルカ、それは……」

「お父さんいいでしょ?字を書くお勉強にもなるし、言葉を覚えたりできるし」

「ルカ……」


 ジュードはその光景に、思わずふ……と笑みが漏れた。


「本当に、子は親の思い通りには動かないな……」


 ルカのその行動に、色々考え体裁だとか建前などで雁字搦めになってしまった自身に気付き思わず苦笑したのだ。

 ジュードはルカの頭を撫でながら、問い掛ける


「ルカは字が書けるのか?」

「うん!預かり所で先生に習ってるよ」

「そうか。ではおじさんに手紙をくれるかい?」

「へいっ……ジュード様!」

「いいではないか。私とルカは友だちだ。友だちに手紙を送るのはよくある事だろう」

「しかし……」


 ジュードは戸惑いの表情のルカの両親に顔を向ける。


「そんなわけで、手紙をやり取りする事を許してもらえるだろうか」


 その言葉に、リヴィとルドは息を呑んだ。


「あくまで、通りすがりのジュードと、アミナスのルカとのやり取りだ」


 そこに身分は関係無い。

 祖父と孫という関係を明かすつもりは無い。


「不安であればいくつか経由して、届けさせよう」


 直接のやり取りでは無く、間に挟む事で関わりを知らせない事も可能だ。


 リヴィとルドは、それならば、と手紙のやり取りを許可した。

 親が子どもの交友関係に口を出すのは憚られた。


「沢山書いて送るね!」

「ああ。最初は私から送るよ」

「うん、待ってる!」


 少年と、男二人はしっかりと握手して約束した。


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