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亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした  作者: 凛蓮月
エピローグ

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35.予期せぬ再会

 

 結果的には破談となった婚約。

 その理由が相手にあると聞けば黙っていないのが親である。

 娘の幸せを願っていた父親は、次に「修道院に行きたい」という願いを叶えた。


 まさかその修道院のある街で、廃嫡された王太子が既に職を見つけていたとは元侯爵は思わない。

 別の修道院に移す事も考えた。

 だが、自ら廃嫡を申し出た事で、一度だけなら会っても良いと、顔を合わせる事無く話す事もせず、顔を見るだけならと連れて行った。

 その後もしも街中で会っても、話し掛けずに通りすがれと思っていたのだ。


 しかしそんな思惑に反して二人は再会し、時間をかけて和解していった。

 リヴィの幸せを願うルド。

 ルドの幸せを願うリヴィ。

 おそらく、リヴィが別の誰かを見付けていたなら、ルドは身を引いただろう。


 だがリヴィはルドしか見ていなかった。

 ルドもリヴィしか見ていなかった。


 惹かれ合うのは分かっていた。

 だからこそ、現実を突き付けてやったのに。


 深く傷付けられてもなお、名誉ある立場や富を棄ててまでも互いの側に居たいと願う程に強く想っていたのだ。


「子は親の思い通りには動きませんね」


 幸せになってほしかった。

 未来を憂う事無く、愛し愛され、ただ穏やかに生きてほしかった。


「わしらだって、親の思い通りには動いて無いだろう?」

「……そうでしたね」


 二人は苦笑する。自分たちだって親の思い通りには生きて来なかった。

 子は親の操り人形では無いのだ。

 自我があり、考え、行動する事ができる。

 そこには『個』があり、想いがある。


 親の思う幸せと、子が思う幸せは必ずしも同じではない。


 レーヴェが除籍を願い出た時、元侯爵は予感があった。

 儚く見えても娘は芯の強い個を持っている。

 だから、最終的には父親として、娘の未来を応援しようと決めたのだ。


 そして、ルドが一人アミナスから王都までレーヴェに薬を貰いに来た時。


『彼女が生きていれば、どこでも良いのです』


 淀み無く、迷い無く言い切った男に、娘への深い愛情を感じたのだ。

 その気になれば連れて逃げられただろうに。

 それをせずに、手放す事を選んだ男の決意を聞き、元侯爵に迷いが生じた。

 親の思う幸せを押し付けて良いのか。

 娘の選ぶ男が例え己が許し難い相手でも、娘の気持ちを尊重すべきなのではないか、と。


 一度は貴族と結婚させようと、待ってくれていた男と引き合わせた。

 だが、娘はそれを断った。

 そして、再度除籍を願い出た時。


 父親は、幼かった娘が一人で歩き出し、己の届かぬ所へ行ってしまったのだと理解したのだ。


「前王陛下、そろそろ宿に戻りませんと」

「ああ」


 名残惜しげにもう一度、家の灯りを見やる。

 そこには温もりが溢れていた。



 翌日はアミナスの鎮魂祭だった。


 お忍びで来ていた前王と元侯爵も、その賑やかさに身を委ねた。

 勿論別行動である。


 王位、家督をそれぞれ息子たちに譲り、気ままな隠居生活。

 ふらりと訪れては遠目で様子を見ていたが。



「おじさん、疲れちゃった?」


 元侯爵が広場の椅子に座り休憩していると、娘の面影がある少年が心配そうに見てきた。


「……大丈夫だよ。きみは?」

「僕はルカだよ。おじさんは?」

「おじさんは……レーベンだよ」

「レーベンさん。あっ、挨拶が先だった!

 ごほん。

 初めまして、僕は警備隊のルドと診療所のリヴィの息子のルカと言います」


 ルカは胸に手を当て、丁寧にお辞儀した。

 平民なので名字は無い。職業などで識別するのだ。


「これは丁寧に、ありがとう。

 おじさんは通りすがりのレーベンだよ。よろしくね」

「おじさんも通りすがりなの?」

「……も、とは?」

「さっき会ったおじさんも通りすがりのジュードさんだったよ」


 ジュードとは元国王の名である。

 元侯爵──レーベンは苦笑した。


「そうか。今日はお祭りだから色々な人が来てるんだね」

「うん。でもみんな楽しそうなのに、おじさんはちょっと寂しそうだったから声掛けちゃったよ。……あとでお母さんに怒られるかな」


 その少年──ルカはやってしまったと言わんばかりに目をキョロキョロとさせた。

 そんな様子にレーベンはつい優しげな表情を浮かべる。


「ではおじさんと友だちになってくれるかな?」

「お友だち?……うーん、いいよ!」


 にこっと笑えば幼い頃の少年の両親を思い出す。

 ただ、ルカに対しては平民としての気安さか、この年代としての警戒心の無さには多少不安も覚えるが。


「ルカー!ルカどこ行ったの」


 そこへ少年の母親が息を切らせながら視線をあちこちへやっているのに気付く。

 レーベンは思わず息を呑んだ。


「お母さん!こっちだよ」


 レーベンの思惑など気にせず、ルカは無邪気に母親を呼んだ。


「ルカ!心配したのよ……」


 駆け寄ってきた母親は、その姿を認め途中で言葉を失った。


「……元気か…」


 力無く、目を細めながら何かを堪えるようにつぶやように言葉を振り絞る。

 ルカの母親──リヴィは、口元を両手で覆い、小さく頷いた。

 何か言うべきなのだろうが、言葉は喉から出て来ない。


「幸せそうで、何よりだ」


 レーベンも、言いたい事は沢山あるはずなのに、胸の奥に痞えて何度も唾を飲み込んだ。

 そんな二人の常ならぬ様子に、ルカは二人の間に視線を行き来させた。


「お母さん、あのね、おじさん、僕とお友だちになったの。通りすがりのレーベンさんて言うの。だから、怪しくないよ」


 涙ぐむ二人を気遣ったのか、ルカは母親に「だからおじさんを怒らないで」と言った。


 強く、優しく育ったルカを見て、レーベンは目頭が潤んでいく。

 そしてリヴィも、ルカの頭を撫でた。


「ええ、分かっているわ。とても、優しいおじさんよ」


 互いに親娘と名乗る事はできない。

 けれど、忘れる事も無いのだ。


 レーベンは懐からハンカチを出し、目元を拭った。


「ね、お母さん、おじさんと一緒にお祭り回ってもいい?せっかく友だちになったんだし、次またいつ会えるか分からないし」


 リヴィはルカのお願いに戸惑った。

 ちらりとレーベンに目をやると、驚いたのか涙が止まっていた。


「でも、ご迷惑になるでしょう?」

「いえ……、今は暇な老人です。お母さんが良ければルカくんと回らせてください。

 安全には配慮します」


 ルカは期待の眼差しでうるうると母親を見た。

 その視線を受け、見知らぬ人だったらどうするのだ、と思いながら、最終的にはリヴィが根負けした。


「レーベンさん、よろしくお願いします」

「少しの間、ルカくんをお預かりします」


 そうして、レーベンとルカは祭りを楽しむ事になったのだ。


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