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亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした  作者: 凛蓮月
本編

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12.穏やかな変化【side リヴィ】

 

「ルド、私たち、もっとお話ししませんか?」


 未だにぐすぐす泣いているルドに、私は提案してみた。


「俺はリヴィと話せて嬉しい。だが、リヴィは……その…」


 涙を拭いながら、ルドは躊躇う。

 レーヴェとジェラルド殿下の時は、殿下がアンジェリカ様の事を言い、私はただ微笑んで聞いているばかりで会話にならなかった。

 アミナスに来て、兜の騎士の時はただ、側にいるだけだった。


 正直、まだ怖い気持ちはある。

 辛かった気持ちも。

 話して、また、認めてもらえなかったら、という気持ちもある。

 でも。


「婚約を解消して四年経ちました。あの頃の私たちは、きっとお互いを知らなすぎたんです。上辺だけ見て知ったふりをしていました。

 だから、本当に理解する為にも、貴方を知りたいと思いました」


 私もちゃんと見て、『アミナスの警備隊のルド』を知りたいと思った。

 ルドは目を見開き、唾を飲み込んだ。

 そして目を細めて笑った。


「俺も、リヴィの事、知りたい。ちゃんと、向き合いたい。

 だから、色々な話をしよう、……して下さい」


 頭を下げたルドに驚いたけれど、これからは対等な関係でいたい。


「ありがとうございます。これからもよろしくお願いします、ルド」


「こちらこそ、よろしく。あと敬語はやめてくれ……」


 今度は私が目を見開いた。無意識に王太子殿下だと思っているから、これは中々抜けないけれど。


「これから善処します。……癖になってました」


 苦笑いすると、ルドも『分かる』と笑った。



 それから、私とルドの関係は少しだけ変化した。

 ルドは暑苦しそうな兜を取った。

 これからは姿を隠さずに私に向き合っていくそうだ。

 それで、いつものようにお昼時に修道院に来て、昼食を食べる。

 ある時、兜の口元だけを取ろうとする仕草をしたので私が思わず吹き出すと、ルドはバツが悪そうに苦笑した。


 昼寝は止めて、その時間は色々話すようになると、話し方が砕けてきた。

 ルドの一人称が『私』から『俺』になった。

 警備隊の中で『私』と言う人はいないので、自然と変わったらしい。とはいえ長年の癖は中々抜けないようで、時折『私』になったりする。

 そんな、変化。

 けれど、砕けた口調は打ち解けたようで嬉しかった。

 私も敬語を抜かなきゃ、とは思うけれど中々難しい。


 私が知る『王太子殿下』よりも凛々しい姿は、街の警備隊として訓練してきた賜物だと言う。


「アミナスに来るきっかけになったのは、現王太子殿下の紹介なんだが、詰所の隊長がしっかり体力つけろって言うから」


 現在は朝早く起きて剣の素振りをし、走り込みをして軽く汗を流してから朝食、そして出勤。


 警備隊の仕事内容も聞いた。

 殆どは街中の巡回。あとは祭りの警護や先日のような貴人の護衛なんかも引き受けるそう。

 メインの巡回は、交代制でアミナスの街の隅々まで異変が無いか見て回る。

 それらをしていない時は詰所でひたすら訓練か休み。

 訓練場でも基礎体力作りから模擬戦まで様々な訓練をしているらしい。

 寮完備で食堂もあるから、身一つでよく転がり込む人がいるんだとか。


「王都の騎士団みたいに馬があるわけじゃないから基本は歩きなんだ。

 でも困っている人を助けたり、喧嘩の仲裁をしたり、楽しいしやりがいがある」


 王太子としていた頃は自由に見えて不自由で、常に人目を気にしながら頭のてっぺんから足の爪先まで気が抜けなかった。

 私よりも公を優先しないといけない立場で、個は無いに等しいから。

 でも今のルドはいきいきと輝いている。


「今の貴方は楽しそうですね」


「ああ。以前は周囲からの重圧と代わりが利かないという圧力で苦しかった。自分の感情よりも公を優先しないといけないのが苦痛だったな……」


「代わりが利かないといえば、今の王太子殿下はどなたですか?」


「……フェルトン公爵家に養子として入っていた次男だよ。彼は前国王の落し胤だったんだ。公にはされてなかったのだが」


 フェルトン公爵家自体はいつかの王弟筋だけど、その後降嫁もほぼ無かった為継承権は無いに等しい。そこで養子として育てられていたフレディ様が前王様のご落胤というのに驚いた。

 つまりは現王太子殿下は血縁上、ルドの年下の叔父様にあたるわけで、それを知った当時の彼や国王陛下の心情を思い複雑な気持ちになった。


「父は……国王陛下は私に王位を継がせたがっていた。母上の血を玉座に据えたかったらしいから、私は親不孝者だな……」


 ルドはどこか遠くを見ながら目を細めた。


 ルドは廃嫡されたと言っていた。詳しい経緯は教えてくれないけれど、「フレディの方が王太子として相応しい」らしい。

 ルドが納得しているならば、それ以上は何も言わないでおこうと思った。


 それと、もう一つ、変化がある。


 ルドは私をじっと覗き込むように見てくる。

 隠す必要が無くなったから開き直ったせいもあるのかもしれないけれど、あまり見られるのは恥ずかしい。


「あまりじっと見られるとやり辛いのですが」


「すまない。リヴィが、今日も元気だと、生きてると、実感していた」


 どうやら自身が発した言葉で私が生命を断とうとした事が彼の中でわだかまりとなって残っているらしく、こうしてじっと見たくなるのだと言う。

 

「大丈夫ですよ。私はそんなに簡単に死にませんから」


「……リヴィ」


「少なくとも、もう、自分を害する事はしません」


「……ありがとう。リヴィも、その、嫌な事は受け入れず言ってほしい。もう、俺の言葉で傷付けたくないんだ。

 人によって捉え方や感じ方が違うから、リヴィが不快に感じたらすぐ教えてくれたら助かる」


「分かりました。嫌な事は嫌だと言います」


 ルドは目を細めて頷いた。


 好きだから、一緒にいたいからと全てを受け入れるのが愛だというのはきっと間違いなのだ。

 それは自分を壊すことだから。

 ジェラルド王太子殿下の婚約者だった時は、将来を共にできる事がただ嬉しくて、殿下が発した言葉を疑問にも思わずに全て聞いていた。

 愛されなくてもいい、なんて、自分に嘘をついていた。


 結果、自身でも気付かぬうちに追い詰められてしまった。

 それは、言われた私だけでなくルドにも刃となり刺さってしまったのだ。

 互いに傷付け合う関係が良い筈もなく。


 私たちは様々なものを失う事になった。

 特にルドは王太子としての地位を捨て、たった一人の父とも別れてしまった。


「私は……ルドの未来を変えてしまったのね。ごめんなさい……」


「リヴィが謝る必要は無いよ。私が自身で選んだ道だから。『亡くなった女性だけを愛し、妃を飾りとする』と言った時点で公より個を選んだ。

 王族としては失格だろう。

 たった一人幸せにできない王が、大多数の国民を幸せにするなんて信用されるわけがない」


 ルドは私を責めない。

 それに、私を好きだと言ったけれど愛を求める事もしない。


 ただ、私が生きているだけ。それだけで良いのだと言っている。


「リヴィの幸せを願っている」


 その言葉が私の胸を締め付ける。

 私も、ルドには幸せになってほしいと思うから。



 王太子殿下の成婚から一年が経過した。


「リヴちゃん最近よく笑うようになったよなぁ。どうだ?うちの息子の嫁に来ないか?」


 買い出しに来たいつものお店のおじさんが笑いながら言ってくる。

 結婚とかまだ考えられないから曖昧に笑って返した。


「最近視線を感じるの」


 べハティに言うと、呆気に取られた顔をした。


「最近のリヴィは輝いているもの。アミナスの女神とか言われてちょっとした噂になっているわよ」


 女神、は言い過ぎでは?と思わず眉を顰めた。

 そんな私にべハティは軽く溜息を吐く。


「ま、紺碧の騎士さまが側にいるからおいそれとは近寄れないけどね」


 ルドが兜を取ると、その髪色から『紺碧の騎士』と言われるようになったのは知っている。

 若い女の子たちに人気らしい。

 ……もしかして、私はルドの出逢いを邪魔してしまっているんじゃ……。


「ルドから、離れたほうが……いいのかな」


 私が呟いたのと、べハティがずるっと滑ったのと。


 ルドが持っていた昼食の入った袋を落としたのは同時だった。


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