二話「ふふーん。秘密基地です」
三区画先の大きな通りに向かうように少女は歩き始め、耕一はそれについていく。
やや斜め後ろ、歩数の多さに合わせて歩幅を短くする。
「そうだ、お兄さんの名前、教えてもらってもいいですか?」
「ん、俺は詩丘耕一。君は?」
「碧山クルミです。詩丘さん、よろしくお願いします」
(クルミ……キラキラネームか?)
キラキラネームに対する世間の反応は様々だ。
耕一はこの件に関してあまり良い印象は持っていないが、それは本人ではなく親の問題だろうと思っている。
「ん、よろしく。……ところでどこに向かってるの?」
先程から軽やかに歩くクルミの姿を見る度に、直射日光に参る耕一は長くはもたないことを覚悟していた。
だからせめてどのくらいの時間がかかるのかを予想しておく為の材料を求めた。
「えーっと、まず私の家です」
「え」
え。
「放課後に出かける時は一度、家に帰らないといけないんです」
「あ、あぁ……なるほどね」
安堵。
女子小学生の家にお邪魔してしまう現実は世間体や法律的にまずいかもしれない。
それが否定され、胸を撫で下ろす。
「でもすぐ近くだから帰らなくてもいいじゃん! ってずーっと思ってるんですよ」
「へー、そんなに近くなんだ」
落ち着いた雰囲気の中にも、年相応の無邪気さや反抗心が垣間見えて再び歳の差を実感し、噛み締める。
十年前は自分も同じくらいの歳だったのに……と耕一は少し悲しくなっていた。
「あれですよ。私の家」
クルミの指の先には街で一番大きいマンションがあった。
「…………ぇ」
絶句。
呆然。
やっとの思いで声帯が震えたが、それは声としての音ではない。
「荷物おろしたらすぐに戻って来るので、下で待っててください」
「うん、わかった……よ」
走り去るクルミの背中を見送り、深呼吸を数回。
混乱する頭に平静を取り戻すために、覚えてもいない円周率を五桁だけ数えた。
高い雲が遠くの空を埋め尽くしていた。
「お待たせしました」
クルミは息を切らしながら自動ドアの先から現れた。
「じゃあ行こうか…………どこ行くの?」
先導しようとしたが、目的地を知らない耕一は真顔でクルミを見る。
「ふふーん。秘密基地です」
幼い頃の記憶が蘇る。
森の小さな面積を子供なりの開拓を行い続けるあのワクワク。
学校が終わると、宿題もせず駆け出した毎日は……遠いものになっていた。
「秘密基地……いいね」
口角が上がり、目が輝く耕一は先程までの疲労が吹き飛んでしまっていた。
数分後。
「ここです!」
案内されたのは少し外れた住宅地の公園だった。
「…………」
耕一はこんな街中に森は愚か、林すらないことを思い出し、とても悲しくなっていた。
こんにちは、
下野枯葉です。
暑い。
本当に暑すぎて倒れそうです。
そんな中、時勢は再び動き始めました。
頑張れ、俺。
さて、クルミと耕一のお話が始まりました。
このお話は私が風呂で寝落ちしそうになりながら思いついたものです。
クルミの幼さと大人になりたい部分を描きたいと思っています。
そういえば、
友人から「お前は大人だな」とよく言われます。
見栄ですよ。
では、
今回はこの辺で。
最後に、
金髪幼女は最強です。